それぞれの戦い
ティリスがアランと合流した頃、バーンズとロニー、レンハルトの三人はエリオンダーラとの戦いを開始していた。
「危ね!」
ロニーは鋭い氷の刃を前方に転がってかわした。その反対側からレンハルトが切りかかるが、エリオンダーラはそれを軽くかわす。
「オオッ!」
そこにバーンズの剣から放たれた雷の刃が襲いかかった。しかし、それはエリオンダーラの振るわれた腕に消滅させられた。
「チッ、手強いな」
ロニーは立ち上がって再びポールアックスを構えた。レンハルトも体勢を立て直して、自分のポジションに戻っている。
「どうした、もう終わりか?」
エリオンダーラは特に身構えることもなく、三人を眺める。
「そうでもありませんよ」
レンハルトがそれに真っ先に答え、盾を前方に構えた。
「バーンズ様、この魔族をひきつけておいてもらえませんか」
「わかった。だが、あまり長くはできそうにないぞ。私も歳だからな」
「ご冗談を」
バーンズは返事の変わりににやりと笑ってから、エリオンダーラに向かって足を踏み出した。
「そういうことだ。私はノーデルシアの剣士、バーンズ。お相手を願おうか」
「いいだろう」
そう言って、エリオンダーラが手を横一文字に振ると、その軌道に氷でできた剣が出現した。エリオンダーラはそれを掴み、軽く構える。
「少し遊んでやる」
「行くぞ!」
バーンズは進みながら剣を振って雷の刃を飛ばした。それはエリオンダーラの氷の剣の一撃で霧散させられる。さらにバーンズはさらに連続で剣を振るっていくが、それも氷の剣で砕かれた。
それでもバーンズは足を止めずにカードを素早く入れ替え、さらに剣を振るった。今度は炎の刃が飛び、エリオンダーラに迫っていく。
「これでは変わらないな」
そうつぶやきながらエリオンダーラは炎を砕いて前進し始めた。二人は距離を詰めながら徐々に近づいていく。そしてその距離が詰まってきてから、バーンズはさらにカードを入れ替え、剣を上段に振りかぶった。
「メテオスマッシャー!」
大きく踏み込み、凄まじい勢いで剣をエリオンダーラに振り下ろした。衝撃で土煙が舞い、バーンズの剣は振り切られたように見えた。
「これは大した威力だ」
しかし、エリオンダーラは膝を地面につきながらもそれをがっちりと受け止めていた。バーンズはすぐに剣と体を引いて、素早くカードを入れ替える。
そして剣を振って今度は氷の刃を放った。エリオンダーラは今までのように氷の剣でそれを受けずに、上空に跳び上がった。
「ライトニングスラッシュ!」
そこにバーンズが放った雷の斬撃が直撃した。エリオンダーラの体は勢いよく地面に叩きつけられる。
「ここですよ!」
「おう!」
レンハルトの合図でロニーはポールアックスを振りかぶり、レンハルトも盾を力を溜めるような形で振りかぶった。
「ハアッ!」
「オラア!」
二人は同時にポールアックスと盾を振りぬき、挟み込む形で衝撃波をエリオンダーラに向かって放った。
その二つの衝撃波は一つになって、竜巻を作り出し、エリオンダーラを拘束する。
バーンズは冷静にカードを入れ替え、竜巻に向かって走り出す。そして、その目の前まで来ると剣を腰だめに水平に構えた。光がそこに集まり、剣がうっすらと輝いていく。
「ファントム! クラッシャー!」
そのまま横一閃に剣を振り抜くと、氷が砕ける音がした。
そして数秒後、竜巻が消えると、そこには剣の軌道に光っている傷を負ったエリオンダーラがいた。
「これは・・・」
エリオンダーラは胴の傷を手で押さえ、その場に膝をついた。バーンズは剣を振り上げたが、エリオンダーラはなんとか力を振り絞って後ろに飛び退いた。
「今日はこの程度にしておこう」
そう言うと地面に拳を叩きつけて煙幕を張ると、その姿を消した。
「なんとか、追い払えたみたいだな」
ロニーは気が抜けたように、その場に座り込んだ。バーンズも剣を地面に突き立ててそれによりかかるようにした。
「そうらしい、どうやらあの魔族はあまりやる気がなかったようだったが」
「そうですね、どうも遊んでいるような気配でした。しかし、あれだけのダメージを与えていれば、しばらくは大丈夫なはずですね」
バーンズはうなずくと、剣を引き抜いて背中に戻した。
「すぐにアラン様の元に向かおう。これが時間稼ぎなら急いだほうがいいだろう」
「そうですね、急ぎましょう」
「おお!」
三人はその場から足早に立ち去っていった。
「ファイア! サイクロン!」
エリルが放った炎の竜巻で黒い影は全て消え去った。そしてエリルがアランの去っていった方向に目を向けると、大きな火柱が立ち上っているのが見えた。
「急いだほうが良さそうですね」
エリルは魔法槍を持ったまま走り出した。そしてしばらくすると、ミラがフラウトゥーバの分身の一体を切り捨てた場面に遭遇した。
「ミラ様!」
エリルが声をかけると、ミラは一瞬だけ視線をエリルに向けたが、すぐに残りの一体に向かい合った。そして、ミラは力強く地面を蹴ってその残りの一体に突進していく。
分身は火の玉を連続で放つが、それはことごとくかわされたり、切られたりで、一発もミラには届かない。
「ハアァァァァァァ!」
ミラはそのまま分身に突進すると、すれ違いざまにその胴を切り裂いた。分身はそれで消滅し、ミラは聖剣を鞘に収めた。
「そっちも片付いたか。すぐにアラン様のところに行ったほうがいいな」
「はい」
エリルはうなずくと、人の気配を感じて振り向いた。すると、ソラが向かってきている姿が眼に入った。
「ソラ! あんた何やってんだ!」
ミラが怒鳴ると、ソラは走って二人の側に来てから大きく息を吐き出した。
「へまをやったよ。アラン様とは合流できたんだけど、あのフラウトゥーバっていう魔族に少し飛ばされてしまったんだ」
「油断したな。まあでも、それならアラン様のいる場所もわかるか。すぐに案内してくれ」
「わかった。急ごう」