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ラッシュ

 その少し前、エリルとロニーは警備塔から街を見下ろしていた。


「なあ、ここからじゃ何かあってもすぐには駆けつけられないんじゃないのか?」

「大丈夫ですよ。私の魔法でそれはなんとかなります」


 そして二人は黙って街を見張っていた。しばらくすると、アランとティリスが魔物に遭遇して戦っているのがそこから確認できた。


「行きますよ、じっとしていてください」


 エリルはいきなりロニーの腰に手をまわすと、止める間もなく警備塔から飛び降りた。そして着地寸前に足の裏から爆発を起こして勢いを殺し、強引に着地をした。それからエリルが手を放すと、ロニーはよろめきながらもなんとか転ばずに踏ん張ってみせる。


「飛び降りるんならそう言ってくれよ」

「言ってから怖気づかれては面倒ですから。それより、早く行きますよ」


 二人は走り出したが、途中で引き上げてきたアランとティリスに会うことになった。


「アラン様、もう終わったのですか」

「まあね。捕らえるのはできなかったし、たぶん逃げられたと思うよ。だから、今日はもう引き揚げようと思ったわけだけど」

「そうですか。長くなるかもしれませんから、無理はしないほうがいいかもしれませんね」

「じゃあ、宿に戻ろうか」

「いえ、私は残って監視を続けようと思います」

「それなら俺も付き合うぜ」


 ロニーが名乗り出ると、エリルはうなずいてみせた。


「ではアラン様、後のことは私達に任せて頂けますか」

「それじゃ頼むよ。何かあったら知らせてくれればすぐに行くから」

「はい」


 エリルとロニー、アランとティリスはそこで別れた。それからエリルは歩き出し、ロニーはその後を少し慌てた様子で追う。


「これからどうするんだよ」

「また塔に戻ります。しかし、二人でいても仕方がありませんから、どちらかは街を巡回しておくべきでしょう」

「よしわかった。それならまずは俺が行ってくる」

「そうですか、では」


 エリルは腰のベルトのホルダーから三枚のカードを取り出した。


「左が合図用、真ん中が防御用、右は攻撃用のカードです」

「へえ、これがインスタントスペルカードってやつか。聞いたことはあるけど、初めて見るな」

「それはそうです、多少は一般にも出回っていますが、まだまだ高価ですから。使い方はわかりますか?」

「手で持って発動って言えばいいんだろ。それにしても太っ腹だな」

「それは私のお手製ですから。カードの説明をしますと、まず合図用は光を出します。攻撃用カードの狙いはあなた次第なので、使うときは落ち着いて使ってください。最後に、防御用は特に気を使う必要はありません」

「わかった。じゃあ、見張りはしっかり頼むぜ」


 エリルはさきほどまでの警備塔、ロニーは夜の街に向かった。それからロニーはポールアックスを担いで街を巡回していた。特に変わった様子はなく、ただの退屈なパトロールでしかない。


 だが、突然ロニーの目の前の地面が盛り上がり、何かの足のようなものが突き出てきた。ロニーはとっさに一歩下がり、背中のポールアックスを手に取る。


 そうしてじっと盛り上がった地面を見ていると、そこからは人の胴体と同じくらいのサイズの鋭い牙を持った蜘蛛のような何かが一匹姿を現した。


 明らかにそれは普通の生物ではなく、ロニーは慎重に距離を保ちながらそれを観察する。しかし、背後、左右からも地面が盛り上がる音がした。


 そこでゆっくり観察している暇はないと判断したロニーは前方の蜘蛛に向かって踏み出し、ポールアックスを横に薙いだ。それは蜘蛛がジャンプしてかわされたが、ロニーはそこにできた隙間を一気に走りぬけ、包囲から脱した。


 それからロニーは振り返り、再びポールアックスを構える。蜘蛛のようなものは全部で五体。鋭い牙を振りかざし、威嚇しているようだった。


「こいつは、まずは報せたほうがいいか」


 ロニーは一枚のスペルカードを取り出すと、それを目の前にかざした。


「発動!」


 するとカードが一瞬強い光を発し、その場の蜘蛛をひるませてから消失した。事前に顔をそらし目をつぶっていたロニーはその隙に踏み込み、一番近くの蜘蛛にポールアックスを振り下ろした。


 蜘蛛のような何かはそれで両断され、すぐにただの土塊になった。ロニーは後ろに下がり、再びポールアックスを構え、残りの四体と対峙した。


 そこで一拍おき、左右の蜘蛛が同時に飛びかかってくる。その二体はロニーが横に薙いだポールアックスで弾かれるが、その手は予想以上の重さに痺れる。


 そこにさらに残りの二体が正面から上下で突進してくる。ロニーはポールアックスを縦に構えてそれを受けるが、その突進力にロニーの体は後方に弾き飛ばされた。


 衝撃を殺すためにみずから後ろに跳んでいたロニーはなんとか膝をついて踏みとどまった。蜘蛛達との間合いは開いていたが、それらがすぐにも跳びかかってきそうなのは明らかだった。ロニーは素早くカードを取り出すと、意識を蜘蛛達に集中させる。


「発動!」


 その一言と同時にカードから雷がほとばしり、四体の蜘蛛を直撃した。その一撃で蜘蛛のような何かは全て土塊に変わった。


 ロニーは立ち上がり、その土塊に近づいていって足でそれを崩してみた。見た目通り、それはただの土のようで、あっさり崩れてしまう。


 そこにエリルが走ってきたが、その光景を見ていたようで、力を抜いて大きく息を吐き出した。


「もう終わっていましたか。一体何が出てきたんですか?」

「なんかでかい蜘蛛みたいな奴だった。倒したらこの通り、ただの土になったんだよ」

「それは妙ですね。何かが使役しているものでしょうか」


 エリルも土塊を蹴っ飛ばしてみるが、何も手がかりのようなものは得られない。


「では、とりあえず交代しますか」


 ロニーはそれにうなずいたが、その時、その背後の地面が大きく隆起して小さな丘のようになった。エリルはロニーをいきなり突き飛ばし、魔法槍を即座に組み上げた。


「あなたは宿に戻ってアラン様達にこのことを報せてください。ここは私が引き受けます」


 ロニーはほんの一瞬だけ躊躇したが、すぐにうなずく。


「わかった。すぐに戻るからな!」


 ロニーは走り去り、その場にはエリルだけが残された。そして、隆起した丘からは、次々に蜘蛛のような何かが這い出してくる。


 エリルはそれが全て出てくるのを待つことはせずに魔法槍を構えると、その先端に雷を収束させる。そのまま丘に向かって突進すると、一撃でそれを砕いて見せた。


 だが、すでに這い出していた蜘蛛はその影響を受けずにエリルに牙をむいた。さらに、砕いた丘のあった穴から、大量に蜘蛛が湧いて出てきた。


「これは、簡単にはいきそうにありませんね」


 つぶやくエリルの前には無数の巨大な蜘蛛。


 一見したところ打開策などなさそうな状況だが、エリルは眼鏡を外してから魔法槍を構えなおす。その表情には余裕ともとれる笑みさえ浮かんでいた。

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