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執政

 ブレイテンロック共和国の現在の元首である執政、上品な白髪のマグダレンは執務室でトルビンの部下からの報告を聞いていた。話を聞き終わると一人になり、机の上に肘をついた。


 公式には地位を廃され、旅に出たというノーデルシア王国の王子、アラン。だが、マグダレンはその本当の目的をエバンス王から知らされている数少ない人物だった。


 そのアランがこの国に来たその日に、街の公園で魔物が現れ、それをアランが撃退した。それをただの偶然と片付けるわけにもいかない。


 とりあえず当面のところはトルビンが手をうったようだが、このまま任せきりにしておくわけにもいかない。それに、魔族や悪魔が絡んでいるのなら、国として何も対応策をとらないわけにもいかなかった。


「さて、これは私の一存では決めかねますね」


 それからマグダレンは机の上のベルを鳴らした。すると、ドアが開かれ髪が長い、一人の若い感じの女性が部屋に入ってきた。


「お呼びでしょうか」

「アンネット、今日のことで知恵を借りたいのですが、状況はわかっていますね?」

「はい。私としましては、ここはアラン様に骨を折って頂くのがいいのではないかと思います」

「それはどういうことです?」

「アラン様の存在を公表し、魔物との戦いの前線に立って頂きます。ノーデルシア王国は我が国とは長く友好関係にありますし、従者のバーンズ様は騎士として名高い方ですので、人々の不安を払拭するのに役立つと思われます」

「なるほど、それはいい手です。それならば表立ってアラン様を私たちで支援できますから、あまり強力な戦力がない我々にとっても都合がいいですね。では、その方向でお願いしますよ」

「はい」


 アンネットは頭を下げると退室していった。



 翌朝、アランは枕元に立つ気配で目を覚ました。頭を動かしてみると、ファスマイドが枕元で椅子に座っていた。


「やあ、おはよう」


 アランはその挨拶に上体を起こした。ロニーのほうを見てみると、ぐっすり眠っているようで、まったく起きる気配はない。


「彼には少し魔法をかけさせてもらったよ。少し君と話をしたかったからね」

「一体何の用かな? 僕はもう少し寝たいんだけど」

「まあそう言わずに、耳寄りな情報を持ってきたんだよ」


 アランは黙ってうなずいてみせた。


「さて、昨日の君の戦いは当然この国の中枢に伝わって、早速どういった対応をするかが決められたわけだけど、知りたいよね?」

「それはまあ、知っておいて損はないかな」

「そう言うと思ったよ。まず、君の存在は公表され、魔物との戦いの最前線に立つことになる。もちろん、強制はされないけど、君なら受けるだろう?」

「もちろん。それは僕達にも都合がいいからね」


 その返答を聞いたファスマイドは満足そうにうなずく。


「まあ面白そうなことをやってくれるんだから、君には少し協力してあげよう。もっとも、この件に関してはどうやら僕が最初に考えていたよりも根が深くて、まだわからないことが多くてね。今はまだ君達に教えて上げられることはない」

「そういうことなら、別に焦っていないからまた後でいいよ。それより、まだ寝たいから出て行って欲しいんだけど」

「それじゃ、また会おう」


 そうしてファスマイドは最初からその場に最初からいなかったかのように姿を消した。アランはそれから目を閉じて二度寝に入った。


 だが、それはすぐに部屋のドアが開けられた音で遮られてしまう。


「アラン様、今日は忙しいんですから、いつまでも寝ていてもらっては困ります」


 エリルの大声にアランは仕方ないといった様子でベッドから起き上がった。ロニーも目をこすりながら上体を起こす。


「エリル、僕だけじゃないんだから、突然入ってきてもらっちゃ困るよ」

「私はかまいません。さあ、二人とも早く起きて下に来てください」


 それからエリルは二人が起き上がるまで待ち、それを見届けてから部屋を出て行った。


「嬉しいような、そうじゃないような気分だぜ」

「そうかい? そのわりにはけっこう嬉しそうに見えるけど」

「まあな、俺みたいな稼業だとこんな風に起こしてもらえるなんて中々ないんだよ」

「なるほどね」


 二人は手早く着替えると下に降りていった。すでにレモスィド以外のメンバーはそこにいたが、ティリスだけは今にも眠りに落ちそうに見える。


 朝食はすぐに済み、そのまま昼までは自由時間として、アランは思う存分二度寝できた。


 そして昼頃になると、アランはバーンズとエリルを伴ってトルビンの屋敷に向かう。三人は今度はすぐに通されると、トルビンの私室に案内された。その部屋の主はすでにそこで待っていて、三人を迎えた。


「さて、今日は私の他にも重要な人物が来ていましてな」


 トルビンが手を叩くと、執事がドアを開けて一人の男を部屋に招きいれる。その男、マグダレンは優雅にアランに向かって一礼をしてから微笑みを浮かべた。


「お久しぶりですね、アラン様」

「そうだね、久しぶり。前よりも白髪が増えたんじゃないの?」

「そうですね、今の立場ですと色々と気苦労が多いものですから。しかし、私には優秀な助手がいますので、苦労も半分と言ったところです。せっかくいい機会ですから、紹介しておきましょう。入りなさい」


 再び執事がドアを開けると、今度はアンネットが部屋に入ってきた。なぜわざわざ別々に入ってきたのかということに関して、エリルは気にしないことにしておいた。


「お初にお目にかかります。私はアンネット、マグダレン様のお側に仕えている者です」


 アランはなんとなくエリルの顔を見てから、アンネットのほうに再び顔を向けた。


「さしずめ知恵袋ってとこかな。それで、どんな案が出てきたのかな?」


 アンネットが伺いを立てるようにマグダレンを見ると、それにはうなずきが返される。


「私としましては、アラン様の存在を公表し、我が国の総力を持ってその援護をするという方向で進めていきたいと思っております」

「つまり、アラン様が先頭に立って脅威に立ち向かう、ということですか」


 エリルが尋ねると、アンネットは穏やかにうなずく。


「はい。残念ながら我が国にはアラン様やあなた方のような強力な戦力となる方はいません。対魔族においては多くの戦力よりも、少数精鋭で当るのが有効だというのは、過去の事例からも明らかです」

「なるほどね、それは僕達にとっても願ってもないことだ。だって、好きにやってもそのフォローをしてもらえるってことだよね」

「はい。もちろん全力でバックアップいたします」


 それを聞いたアランは笑顔で手を叩いた。


「よし! そういうことなら、派手にやらせてもらおうかな」


 マグダレンはそのアランの一言に穏やかな笑顔を浮かべる。


「できるだけお手柔らかにお願いしますよ」

「まあできるだけ頑張ってみるよ」


 それからも六人の会議は続き、様々なことが語られていった。

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