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でかい女の色々な時間

 ティリスは食堂でバーンズと向かい合って座っていた。その隣にはレンハルトも座っている。


「あんなクソ魔族はどうでもいいから、あたしになんか助言はないのか」

「そうだな。力はあるが、まだ私でもさばけないほどではない。いや、さばくだけなら、レンハルトでもできるだろうな」


 そう言われてティリスはレンハルトのことを睨みつけた。それにたいしてレンハルトは若干引き気味になっている。


「いえ、私にそれができるかはわかりませんが、大体ティリスさんの力もわかりませんし」

「じゃあ、今から試してみるか」


 ティリスは立ち上がろうとしたが、バーンズがそれを手で制した。


「いたずらに暴れまわっても駄目だ。並みの魔物相手ならそれでもなんとかなっただろうが、それ以上のものを相手にするなら、もっとうまく力を使うべきだ」

「そんなもん、正面から思い切り殴ればいいことだろ」

「それだけでは駄目なのはエリルや私と戦ってみてわかっただろう。ティリス、君は力はあるのだから、それを最大限有効に使う道を考えなくては駄目だ」

「力か」


 ティリスはつぶやいてから右手をぐっと握った。


「たしかにあたしは今まで正面からぶん殴るだけだった。戦い方なんて教わったことはなかったからな」

「だが、それで正解かもしれないな」


 バーンズがそう言うと、ティリスは軽く首をかしげた。


「どういうことだ?」

「その力を生かす戦い方は自分で考えるしかないだろうということだ。魔族にも匹敵するような力では、今は誰も教えられる者はいないだろうからな」

「今は? どういうことだ」

「勇者様達なら、可能だったろうがな」

「勇者か。一度会ってみたいもんだ」


 ティリスは手を頭の後ろで組み、後ろにのけぞった。しかし、レモスィドが食堂に入ってくると、そのリラックスした姿勢をすぐにやめてしまう。だが、レモスィドはそれを意に介さず、バーンズに視線を向けた。


「さっきは邪魔が入って残念だったな」

「それはそっちの話だろう。私は別に残念だとは思っていない」

「そうか。だが、いずれその力は見せてもらうとしよう」


 それからレモスィドは宿の外に出て行ってしまった。ティリスはそれを歯を食いしばって見送る。バーンズはその様子を見ながら、レンハルトの肩に手を置いた。


「レンハルト、少し彼女につきあってやってくれ」

「私がですか?」

「そうだ。少し鍛冶屋でものぞいてくるといい、もしかしたら彼女に合う武器が見つかるかもしれない」

「わかりました」


 レンハルトは立ち上がると、ティリスに声をかけた。ティリスは渋々といった感じでうなずいてから、レンハルトと一緒に宿を出て行った。


 それからしばらくして、二人は鍛冶屋に入っていた。ティリスは店内に並べられている様々な武器や防具をいちいち手にとって見ている。


 だが、どれもしっくりこないようで、ティリスはいまいちつまらなそうな表情をしている。


「気に入ったものは見つかりましたか」


 レンハルトは声をかけてみるが、ティリスは首を横に振った。


「どれもまともに使ったことなんてないし、簡単に壊れちまいそうだな」

「それは使い方にもよると思いますけど」

「これならけっこういいかもな」


 ティリスは無骨なメイスを軽く持ち上げてみた。レンハルトはその様子を見て、うなずいてみせる。


「これは頑丈そうなメイスですね。重いのは難点でしょうが」

「この程度なら重かないぜ。でもなあ」


 そこでティリスはメイスの柄を両手で握って力を加えた。柄が歪み始めるのを見て、レンハルトは慌ててそれを止める。


「それは売り物ですよ」

「ああ、そうだったな」


 ティリスはメイスを元あった場所に戻した。


「ま、あたしが使うんならもっとぶっとくってでっかいものじゃないとな。なあおっさん、もっとすごいのはないのかよ」


 おっさんと呼ばれた店主は苦笑いを浮かべる。


「お客さん、そのメイスだって普通は重いんだ。それより大きいものなんて、作ったところで買い手なんてつきませんよ」

「そうか。あれの三倍くらいあったら、あたしにはちょうどいい武器になりそうなんだけどな」


 ティリスの言葉に、店主は笑うどころではなく、あっけにとられてしまったようだった。


「いや、いくらなんでもそれじゃあ誰も使えませんよ」

「あたしなら使えるさ、そうだな」


 そう言ってから、ティリスはさっきのメイスに加えて、そのまわりの剣や斧も両手でまとめてつかむと、それを軽々と持ち上げた。


「な? 大丈夫だろ」


 店主はその光景に驚き、しばらくの間言葉を失った。ティリスは持ち上げていた武器を置いてから軽く笑ってみせる。


「もしでかいのを作ってくれって言ったら、どうする?」

「いや、急には無理ですよ。そんなでかぶつは作ったこともありませんし、時間も資金もどれだけ必要か見当がつきませんね」

「金か、あいにくあたしは持ってないんだよな」


 それからティリスはレンハルトを見た。レンハルトは困惑したように首を横に振る。


「それは私の一存ではなんとも。アラン殿に相談してみてはどうですか」

「それもそうだな、ちょっと聞いてみてからにするか。じゃ、おっさんまた来るぜ」


 ティリスとレンハルトは鍛冶屋を後にした。それからティリスは町の広場に向かって適当な屋台で適当なものを買い食いし始めた。


「どうした、あんたも食えよ」


 ティリスは金を出す気は全くなさそうだが、レンハルトにも間食をすすめた。だが、レンハルトは手を横に振った。


「いえ、私は結構です」


 その返答にティリスは手に持った串から肉を一つ食べ、あきれたような表情を浮かべる。


「あんた堅いな。一緒にいると息が詰まるとか言われたことないか?」

「それならありますよ」

「で、なんであんたはあの連中と一緒にいるんだ? 一緒に旅に出たってわけじゃないんだろ」

「お互い旅の途中で出会ったんです、偶然ですね」

「偶然ねえ。あたしの勘だと、必ずしもそうじゃない気もするけど」

「まさか」


 レンハルトは笑って否定したが、ティリスはその言葉を信用していないようだった。


「まあいい、それよりあんたは盾を持ってるけど、それならあたしにも使えるかね」

「ティリス殿の力では、この盾では持ちませんよ。それに巨大な武器を使うのなら、同時に使うのはいくらんなんでも無理ですよ」

「そうだよな。まあどうせ使うんなら盾なんかよりも、でっかい棍棒みたいなほうが威力もあって使いやすそうだからな」


 ティリスは最後の肉を食べると、串を店頭のゴミ入れに放り投げた。


「宿に帰ろうぜ。アランもそのうち帰ってくるだろ」


 そう言ってティリスは宿に足を向けた。

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