大変な宿屋
フィエンダはアラン達と共に、同じ宿に来ていた。フィエンダはなにしろ豪奢な格好なので、非常に目立ったが、本人はそんなことは気にせずに堂々としていた。
そうして宿に入ったフィエンダは内部を無遠慮に見回した。その間にレモスィドは金を出してフィエンダの部屋を確保した。
「おい、お前の鍵だ」
フィエンダはレモスィドが投げた鍵を受け取ったが、それを怪訝な表情で見つめた。
「なぜこんなものを渡す」
「お前もここに泊まったほうが面倒が少なくていいだろ」
「まあいい、たまにはいいだろう」
そう言うとフィエンダはさっさと自分の部屋に行ってしまった。それを見送ったアランはすぐに宿を出た。バーンズはその後を追う。
「アラン様、これからどうされるのですか」
「とりあえず様子を見るよ。今のところ害があるわけでもなさそうだし」
「本当にそうでしょうか?」
「宿の二人は人間にはあまり興味がなさそうだし、あのファスマイドっていうのは特に害があるわけじゃないんでしょ」
「そうですね、以前も基本的にどこからか見ているだけの魔族でした。それだけでなく、若干協力をしてくるくらいでしたから」
「とにかく、あいつらがおとなしくしてる間にあれの原因を突き止めないといけないね。目を離さないように頼むよ」
「わかりました。大変そうですが、やってみます」
「それじゃ、僕はエリルに会ってくるから」
アランはバーンズをその場に残して、自警団の本部に向かった。到着してみると、ロニーが中に入ろうとして止められているところだった。
「ロニー、何してるんだい?」
アランが声をかけると、ロニーは首を横に振りながら振り向いた。
「エリルさんがここにいるって聞いて来たんだけどよ、なぜか足止めをくらってんだ」
「怪しいからだと思うよ。ああ、この人は僕の知り合いだから大丈夫だよ」
アランがそう言うと、顔見知りの自警団員は道を開けた。そして二人は中に入って、エリルのいる部屋に入る。レノールと何か話していたエリルは、二人が入ってくると顔を上げてため息をついた。
「なにか用ですか、アラン様。おまけもついているようですが」
「ちょっと進展があったから、話をしにきたんだよ」
「なんでしょうか」
「あの宿に厄介事が一つ増えた感じかな」
「またですか、あの宿も災難ですね。それで、どうされるのですか?」
「様子を見るだけだよ。簡単にどうにかできる連中でもないしね」
「それはそうですね。しかし、何もしないわけにもいかないと思いますが」
「だからここに来たんだよ。この町にも関わりのあることだろうし、自警団の協力もあったほうがいいと思ってね」
アランとエリルの視線がレノールに集まる。レノールは額に指を当ててから、ため息をついた。
「それはまあ、あんたらには借りもあるし、協力はするけど。あんまり期待しないでおいてもらいたいな」
「変な噂とかが広まらないようにしてくれればいいよ」
「それならあたしの一存でもできる。でも、あまり派手にやられると限界があるね」
「ありがとう、それはできるだけ気をつけるよ。でも、いざとなったらそうも言ってられないけど。ま、よろしく」
アランは言うだけ言うと背を向けて部屋から出て行った。残ったロニーは後頭部に手をあてながら、エリルに近づいた。
「あのー、俺を雇う件はどうなってんのかな」
「あなたはそんな簡単に調べがつくほど中身がないんですか?」
エリルの辛辣な一言にロニーは少し固まってから、苦笑いを浮かべた。
「わかった。俺もそこまで中身がないわけじゃないし、よろしく頼む」
「頼まれたくはありませんが、やることはやりますのでご心配なく」
「ああ、わかった」
ロニーはそう言って部屋から出て行った。それを見送ったレノールはエリルに向かって軽く笑ってみせた。
「こっちまで手伝ってもらってるし、あんたも大変だな」
「これが私の仕事ですから。それに、やりがいはありますよ」
「まあ、わかるがね」
二人は再び書類の整理などを再開した。
その頃、宿の部屋の中で何をするでもなく立ったまま窓から外を見ていたフィエンダは、背後に気配を感じたがその体勢のまま口を開く。
「ファスマイドか」
「久しぶりだね、フィエンダ。君がこんなところにいるとは珍しいじゃないか」
「レモスィドが入れ込んでいるようだからだ。少し興味が出てきた」
「なるほどね。まあ、君達は知らないだろうが、あのアランっていう子には勇者、タマキ君とちょっと似たところがあるね」
「それは実力の話か?」
「実力ならタマキ君のほうがずっと上だと思うよ。まあ力の質は違うけどね。それに性格というものでもない。似てるのはなんとなく雰囲気だね、人間離れしたところというのかな」
「そうは見えないが」
「相変わらずの鈍さじゃないか。まあ、彼らの近くにいればそのうちわかるよ。せいぜい騒ぎを起こさないようにしておくことだね」
「大きなお世話だ」
「それじゃあ、僕はこれで失礼するよ」
ファスマイドはその言葉を最後にその場から姿を消した。フィエンダはそれから椅子に座った。
「おい、いるか」
そこにレモスィドがいきなりドアを開けて入ってきた。
「何の用だ。今ファスマイドが帰ったところだが」
「やっぱりあいつは来てたのか。で、何を言ってたんだ?」
「あのアランとかいうのが勇者に似ているそうだ」
「勇者にか。それでファスマイドが珍しく出てきたんだな。俺もいいところに居合わせたもんだ」
「お前はどうするつもりだ」
「俺はあいつらについておく。退屈しないですみそうだからな。それに、悪魔が関わっているような気もするんでな」
「悪魔? 最近は姿を現していないようだが」
「そうだな、たしか勇者が姿を消してから出なくなってからだったが。今になって悪魔が出てくるのなら面白いだろう」
「それもそうだな。だが、あの連中に悪魔の相手ができるのか?」
「俺はそのためにもここにいるんだ。お前はなんのためだ?」
「知らんな。用が済んだのならさっさと出て行け」
レモスィドが部屋から出て行き、フィエンダはまた一人きりになった。レモスィドやファスマイドのように人間にはそれほど興味はないが、悪魔が関わっているというなら、ある程度はつきあってみてもいいと考えていた。




