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お供や妹

 同時に呼び出されたバーンズとエリルは王の執務室に来ていた。室内に入ると、そこにはエバンスが一人で机についている。


「二人ともよく来てくれた。重要な話があるから、とりあえず座ってくれ」


 その言葉に従い、二人は椅子に座る。


「話というのはアランのことだが」


 エリルはそれに反応してわずかに眉を動かした。エバンスはそれに気づき、微笑を浮かべた。


「気づいていたか」

「いえ、それはアラン様の様子がいつもと違ったもので」

「さすがだな。それだけアランのことを気にかけているのなら、私のほうも安心して頼める」


 エリルはおとなしく続きを待ったが、バーンズは口を開いた。


「エバンス様、まさかあれを実行する、ということなのですか?」

「そうだ」


 エバンスとバーンズは互いに何を言っているのかわかっているようだったが、エリルはわけがわからずに黙っていた。バーンズはそれに気づき、エリルに顔を向ける。


「これは王とごく一部の人間しか知らないことなのだが、アラン様が我が国を離れ、旅に出るという計画があるのだ」

「アラン様が旅に? それはまたどうしたわけなのでしょうか?」

「数年前から考えられていたことだ。最大の原因はアラン様の力と、その人格にある」

「それは、どういうことなのでしょうか?」


 エリルのその質問にはエバンスが答える。


「知っての通り、アランは二種類の精霊の加護を受けた身だ。それだけでなく、魔力も常人の比ではない。そして、アランの性格は、お前達ならよくわかっているだろうが、王というものには向いていない」


 確かに威厳のようなものとは無縁だ、とエリルは黙って考えた。


「だから、アランには勇者になってもらう。持って生まれた力を使いこなせれば、それも可能であろう。もちろんそのためには信頼できる仲間の存在が不可欠だ」

「仲間、ですか。それが私とバーンズ様なのでしょうか」


 エリルの言葉にエバンスは力強くうなずく。


「そうだ。だが、それだけではない。旅先では名は知られていなくとも実力のある人物とも出会うだろう。それもアランならきっと仲間となることができる」


 王子を旅に出すなどと言うと、何があったのか思うが、エバンスの言葉からはアランへの信頼しか感じられなかった。


「そういうことだから、お前達二人にはアランの供として一緒に旅に出てもらいたい」


 エリルはすでにそれを予想していたので、驚きなくその言葉を受け入れた。


「はい。もちろん私はアラン様と一緒に旅に出ます」

「私も異存はありません」


 エリルとバーンズの同意の言葉にエバンスは微笑を浮かべた。


「お前達ならそう言ってくれると思っていた。出発はまだ先になる、それまで引継ぎの準備をしておいてくれ」

「はい」


 そう言って二人は執務室を出た。そのまま並んで歩き出す。


「引継ぎと言ってもバーンズ様は色々と大変そうですね」

「いいや、私がいなくなっても問題はないようにはしてある。あと数年もすれば引退するつもりだったことだし、ちょうどいい機会だ」

「剣は持っていくんですか?」

「もちろん持っていく。あれは人気がないし、それに、タマキ様から私が頂いたものだ。それより、お前のほうはどうなのだ?」

「私は特に身寄りもありませんし、アラン様のお供ということならば、それほど変わることもありませんから」

「そうか」


 それから二人は別れ、エリルはアランの私室に向かう。だが、その途中で別の人物につかまることになった。


「エリル、兄様はどこかしら?」


 アランの三つ下の妹、王女ハーシェだった。アランと同じように豊かな黒髪だったが、聡明さを感じさせる風貌で、雰囲気だけならアランより大人びているようにも見える。


「今はお部屋だと思いますが」

「そう。じゃあ一緒に行きましょう」


 ハーシェは返事を聞かずに先に歩き出した。


「ところでエリル、最近の兄様はどんな様子なの?」

「特にお変わりはありません」

「変わりがない、ということはないんじゃないの」


 立ち止まり振り返ったハーシェは微笑を浮かべていた。一見したところ裏がないように見える笑顔だったが、エリルにはその裏が感じ取れた。


「お父様とお母様に呼ばれているのだけど、これは兄様のことよね」


 エリルはこの聡明な王女には隠してもしょうがないし、その必要もないないだろうと考えた。


「はい。私もそのことで陛下からお話を頂きました」

「つまり、兄様は旅に出るのね」

「そこまでご存知だったのですか」

「ええ。それで、あなたの他には誰が一緒に行くの?」

「バーンズ様です」


 それを聞いたハーシェはにっこりと笑った。


「それなら二人だけでも安心ね」


 そうしているうちにアランの部屋の前に到着した。


「アラン様、アラン様」


 エリルが声をかけたが、何の反応もなかったので、そのままドアを開けて室内に入った。アランはまたベッドに転がっている。ハーシェはそこに静かに近づいていった。


「兄様、お疲れのようですね」


 ハーシェがベッドの側に行って声をかけると、アランはのそりと起き上がった。


「どうした、何かあったのか」

「いいえ。ただ兄様のご様子が気になったのもので」

「別に大丈夫だよ。僕よりもこれから大変なのはお前のほうなんだから」

「兄様、大変っていうのはなんのことですの?」


 笑顔のハーシェに、アランは軽くため息をついた。


「お前のことだから全部わかってるんだろ」

「やっぱり兄様は私のことならお見通しなんですね」

「まあ、妹だから。というより、お前なら大体知ってると思えば間違いないじゃないか」

「それは買いかぶりすぎですよ。私は兄様にはかないません」


 そこでドアがノックされ、影のようにハーシェに付き従っていた侍女がポットを乗せたお盆を持って入ってきた。


 そしてテーブルの上にそれを置いて、お茶を二杯入れた。ハーシェはそこに移動してカップを二つ取り上げると、ベッドに腰を下ろして、一つをアランに差し出した。


 エリルはそこでハーシェの侍女に目配せをして、二人で部屋を出て行った。


「兄様、旅に出たらどこを目指すのですか」

「そうだな、最近新種の魔物が出てるっていう話も聞くし、そういうのがたくさんいそうなところにでも行ってみることにするよ」

「辺境だと中央の手がまわらなかったりしますし、兄様が行くと色々と助かることもあるのではないでしょうか」

「ああ、そうしてみるよ」


 そこで会話は途切れ、二人はしばらく黙ってお茶を飲んでいた。しばらくして、ハーシェは真面目な表情になった。


「後のことは私もちゃんとしておくから、兄様は心配しないでね。必ず旅はうまくいくって信じてるから」

「たぶん大丈夫さ。お前のほうこそ、病気とか気をつけてな。何かあったら呼んでくれれば戻ってくるから」

「はい」


 ハーシェはそこで満面の屈託ない笑みを浮かべた。アランはなんとなく手を伸ばしてその頭を撫でた。ハーシェは目を閉じてされるがままにしていた。

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