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『双星のヴァルキュリア 外伝』 シリーズ  作者: タカジン
双星のヴァルキュリア外伝 第十八話
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『母が残した形見の鍵と不思議な屋敷』 双星のヴァルキュリア 外伝 後編

プロローグ


「お母さんが子供の頃、道に迷ったことがあったの。

雪でとても寒かったわ。

すると目の前に大きくて見たことのない屋敷が現れた」


母親が最後に話してくれた子供の頃の不思議な体験。

屋敷に一歩足を踏み入れるとそこは見たこともない

不思議な世界がエマリーを待っていた。

本文


ギィィ……

ゆっくりと扉が動く。

そろりと一歩ずつ前に進んでいった。


ガッチャン!


「キャッ!」


エマリーが手を離した瞬間

意思があるかのように扉が閉まった。


「もしかして……お化けがいるの?」


じっと動かずに目だけで周りを目渡すが

屋敷の中は暗闇に包まれていた。


パチン!


指を鳴らす音が響いた。


ポッ……ポッ……


真っ暗な屋敷の中に突然蝋燭に火が灯り

周囲をうっすらと照らした。


コツ……コツ……


足音がエマリーに近づいている。


ガチャン!ガチャン!


扉を力一杯押しても引いてもびくともしない。


「ごめんなさい! だめ! 食べないで!」


その場にしゃがむと両手で顔を覆った。


「おや、お客様ですか? 珍しいですねぇ。

なっ! や……やはり!」

「お帰りなさいませ。

ずっとお待ちしていました……お嬢様」


暗闇から現れた男は深々とエマリーにお辞儀をした。

全身黒で統一され、白い手袋が妙に目立つ。

顔も黒く、まるで表情が見えない。


「お帰り? 私は初めてここに来たよ」


エマリーの声が聞こえていないかのように男は続けた。


「あの時、鍵をこっそりとポケットの中に

忍ばせておいて正解でした。

いつか必ず帰ってきて下さると信じておりました。

お嬢様!」


ザッ! ザザザッ!


突然砂嵐のような音が聞こえ

真っ黒な男の顔が一瞬残像のように乱れた。


「おっと失礼しました。

あまりにも気持ちが高揚してしまいまして……つい」

「さっ、参りましょう。お嬢様」


男の手が屋敷の奥を差した。


「あの……あなたは?」

「……お忘れですか? お嬢様。

私はこの屋敷の管理を任されている

執事のグリルでございますよ。さぁ、参りましょう」


少し首を傾げたように見えたが

黒ずくめの男はグリルと名乗ると屋敷の奥へ

さっさと歩きだした。

エマリーはグリルのスーツの裾を気付かれないように

そっと指で摘まんだ。そのまま屋敷の奥へ進んでいく。

蝋燭の明かりが屋敷の中を照らし出した。


壁には屋敷の歴代の持ち主だろうか

男性や女性の絵画がエマリーを見つめる。

長い廊下には赤い絨毯が敷かれ

その両端に剣や槍を持った甲冑が

今にも動き出すかのように立っていた。

大きな角の生えた鹿や熊の剥製が

エマリーを睨み付ける。


「怖い……」


エマリーの気持ちを察したようにグリルが振り向く。


「お嬢様、私から離れてはいけませんよ。

戻れなくなりますからね。

かくれんぼしたのを覚えていますか?

お嬢様をどれだけ探したことか」

「……人違いなのに」


そう呟くと再び前に進んだ。遠くに明かりが見えた。


「着きましたよ! みんな驚くでしょう。

どうぞ、お入り下さい」


ガチャ……


白手袋がドアノブを回すと、扉がゆっくりと開く。


「眩しい」


思わず手で光を遮る。


タラララーン!


部屋は音楽が鳴り響き、小人や妖精が一緒に踊ったり

歌ったり不思議な光景が広がっていた。


パン! パン!


「みんな! お嬢様のお帰りだよ!」


両手を打ち鳴らし、グリルが歓喜の声を上げた。

音楽が止み、皆が動きを止めた。


「あっ! お帰りなさい!

もう帰ってこないのかと思ってたよ」

「良かった、お帰りなさい! ずっと待ってたんだよ」


口々に同じことを言う。


「どういうこと? 私は初めてなのに……」


パチン!


「さぁみんな! パーティーの始まりだ!」


男は指を鳴らすと周りから拍手が鳴り響く。


「賛成! わーい!」


一斉に演奏が始まる。


タラランランラン!


宙に浮く白手袋がバイオリンやピアノを奏でる。


チーン!


少し小太りで緑色の服を着た妖精が

テーブルに置いてある透明のコップを指で弾いた。

すると、小さな雲が現れてコップにたっぷりと

雨を降らせて消えた。


「ヤッホー!」


妖精は目を輝かせながらコップの中の

雨を一気に飲み干す。

エマリーを横目で見ると

小さな指でコップを叩く真似をした。


「やってみろってこと?」


チーン!


エマリーは近くにあった赤いコップを叩く。

もくもくと小さな赤い雲が現れるとコップへ

雨を降らした。


ゴクリ……


「これは、イチゴ? 甘くて美味しい!」


柔らかいほっぺが落ちてしまうくらい

優しく甘い味がした。


「次はこっちに行くの?」


白手袋がエマリーの手を取り、案内をする。


「すごい! 大きなクリスマスツリーね」


部屋の中央に大きな大木があった。

枝には柔らかいお菓子のグミが実っていた。


クンクン……


鼻を近づけると枝から甘い香りがする。

折って食べてみた。


「チョコレートだ! すごーい」


木や地面に降り積もった雪はわたあめで出来ていた。

白手袋が今度は天井を指差した。


「天井に星があるなんて……素敵ね」


天井に星が沢山輝いていた。

白手袋はスッと浮かび上がると星を一粒

エマリーに手渡した。


「キャンディーだ! 美味しい」


パクッと口に放り込むと溶けて無くなってしまった。


「今度は何?」


次は椅子に座らされた。

白いテーブルクロスが敷かれ

その上にはナイフとフォークが並んでいた。

隣にはエマリーの身長の半分程の小人が

食事をしていた。


「トマトスープよ出てこーい!」


すると、小人の前にトマトスープが現れた。

スプーンを握ると美味しそうに口に運んでいった。


「よーし! 私も美味しいものが食べたい!」


エマリーの前には何も出てこない。


「あれ? 食べ物の名前を言うのかな?

じゃあ……ステーキが食べたい!」


ジュー……


焼きたての分厚いステーキが目の前に現れた。


「本当にすごーい!

何でも食べられちゃうなんて素敵ね!」


ナイフとフォークを取るとステーキを

ペロリと平らげてしまった。


「これって夢なの? ずっとここにいたいなぁ」


何の苦労も無い、自由で楽しい日々が続いた。


カチン!


ある日、母親から貰った鍵がコップに触れた。


「……お母さん」


鍵を見ると急に家が恋しくなってきた。

屋敷に来てから一体何日過ぎたのだろうか。


「お父さんがきっと心配してる。リン……お姉さんも」

「そろそろ帰ろうかな……」


ピタッ!


鳴り響いていた音楽も

小人や妖精の動きも全てが止まり静まりかえった。


「えっ……急に皆どうしたの?」


驚いたエマリーは隠すように鍵を握り締めた。


「帰らないで……エマリー」

「そうだよ……まだ一緒に遊ぼうよ」


いつの間にかエマリーは妖精や小人に

取り囲まれていた。


「そう……だね。もう少しだけここにいようかな」


悲しそうな顔を見ているともう一度帰ると

言えなかった。


「わーい! 遊ぼう」

「そうだ! 一緒に空を飛ぼうよ!」

「えっ! えっ! 飛ぶって何?」


妖精たちはエマリーの両手や服を掴むと

空中に浮かび上がった。


「私浮いてる! 鳥になったみたい」

「一緒に夜空を散歩しよう」


天井の夜空を横切りながら星を一粒口に運ぶ。


「美味しい! 飛びながら食べる星は格別ね」

「ありがとう。すごい楽しかったわ!」


ゆっくりと床に降りると音楽や歌が流れ

また楽しい時間が過ぎていった。


「もうお腹いっぱい。食べられないよ」


ゴロンと寝転がった。


「……みんな心配してるのかな」

「エマリー、トランプして遊ぼうよ」


天井の星空をしばらく見つめていると

小人が近づいてきた。


「うん、いいよ」

「ババ抜きをしよう」

「負けないよ」


エマリーは手持ちのカードをどんどん揃えていった。


「はい! 一番ね」

「悔しいー。エマリーは強いなぁ」

「また今度遊びましょう」


エマリーは部屋の中央にある大木に座り込んだ。


「家に……帰ろうかな」


部屋のみんなはいつもと変わり無く

楽しそうに過ごしている。


「そうだよね……私やっぱり帰るわ」


立ち上がったエマリーを小人と妖精が取り囲んだ。


「どうして?」

「ここが嫌になったの?」

「帰ったらまた嫌な思いをするよ」

「ごめんね、私はここにはずっと住めないの!」


振り払うようにエマリーは大きな声で叫んだ。


「嫌だ! 嫌だ! 何処にも行かないで」


エマリーの腕を一人の小人が掴んだ。

もう一人は足に絡み付いた。


「嫌! 放して!」


パチン!


「こらこら、静かに!」


グリルが現れた。

その瞬間、潮が引くようにエマリーから

小人と妖精は距離を取り大人しくなった。


「お嬢様、どうしても帰るのですね?」

「うん、ここはすごく楽しいけれど

……やっぱり家に帰りたい」

「そうですか……わかりました。

では、私が出口へ案内しましょう」


部屋の隅まで歩いて行く。


「ここです」


パチン!


指を鳴らすと壁から扉が浮かび上がった。


「残念ですお嬢様……

ここならば、永遠に楽しく過ごせるというのに」


グリルが小さな箱を懐から取り出した。


「では最後に、この箱をお土産として差し上げます。

もしかしたら、お嬢様の願いを叶えて

くれるかもしれません」


箱をエマリーへ手渡した。


「ありがとう。大切にするね」


エマリーは両手で箱を包み込むように受け取った。


「この長い階段を上がれば地上まで続いています。

でも、途中で決して箱を開けてはいけません。

約束ですよ」


そう告げるとグリルは扉を開いた。


ビュー!


風が吹き込みエマリーの髪が乱れた。

扉の奥薄暗く、長い階段が続いていた。


「みんなの事は忘れないからね」


エマリーは手を振りながら階段を一歩上がる。


「では、お嬢様……」


パチン!


指を鳴らすと小さな炎がエマリーの周りを飛び回った。


「その明かりを頼りに進んで下さい」

「みんなありがとう! 本当に楽しかったよ!」

「エマリー……元気でね」

「行かないでよ……エマリー」


エマリーの後姿を全員が寂しそうに見送った。


コツ……コツ……


暗い階段をゆっくりと進んでいった。


コソッ……


箱の中から音が鳴った。


「何……生き物?」


少し開けたくなったが首を横に降る。

しばらく階段を上がっていく。


コンコン……コンコン……


箱の中なら何かがノックをしている。


「まさか……小人でも入ってるの?」


箱に手を掛けて開けたくなったが、我慢して進む。


「私の願いが叶うかもって……何だろう」


考えながら進む。


「エ……リー」

「エマリー……」


すると、箱の中から母親の声がする。


「この声は……お母さん?」


立ち止まって耳を箱に当ててみた。


「エマリー……箱を」

「箱を開けて」


懐かしい母親の声だった。


「お母さんの声だ。どうしよう」

「開けちゃ……だめだよ。みんなとの約束だもん!」


迷いを振り切るように一気に階段を駆け上がった。


ガチャ!

「ハァッ! ハァッ! ここは?」


冷たい風が頬を撫でる。

扉の外は一面の雪景色だった。

月明かりが雪に反射し、宝石のように煌めいていた。


バタン!


扉が閉まると役目を終えたように夜風に乗り

砂のように消えていった。


「帰ってきたんだ……

お母さん、私も屋敷へ行ってきたよ」


箱を愛おしそうに見つめる。


「もう開けてもいいよね。開けちゃうよ」


ドキッ! ドキッ!


高鳴りを感じながら、箱を開けた。

閉じた目をゆっくりと開ける。


「羽根?」


箱の中には一枚の美しい白羽根が入っていた。

羽根を手に取り、月明かりにかざしてみた。


「キラキラして綺麗」


キィーン……突然鋭い音が耳を貫く。

羽根は金色に輝き、次第に人の形になっていく。


「女神……さま?」


魔法のような出来事にポカンと口が

開いたままになった。


「我は戦乙女……ヴァルキュリア。女神ではない」


白のミスト・ヴァルキュリアが目の前に

舞い降りたのだ。

美しい……白の甲冑を身にまとい

風に流れる艶やかな髪とどこか哀しげな雰囲気

瞳は慈愛に満ちていた。


「エマリーよ……お前の小さい体には

余りにも大きな哀しみが宿っていたのだ。我が導こう。

さぁ、この手を取るがよい」


ミストの右手には漆黒の結晶が輝いていた。


「綺麗な宝石。

連れて行ってくれるの? お母さんの所へ?」


なにも言わずにミストは微笑んだ。

恐る恐る手を伸ばし、エマリーの指先が触れた瞬間

優しい光が二人を包み込んでいった。


「わぁ……きれい!」


ミストが静かに頷くと光は一瞬で弾け飛び

音も無く消え去った。

しんしんと降り積もっていく雪が

宝石のように煌めいていた。


『母が残した形見の鍵と不思議な屋敷』

双星のヴァルキュリア 外伝 Fin

エピローグ


翌朝……

人の輪が出来ていた。

その中心にいたのは

冷たい雪に覆われたエマリーだった。


「この女の子はいつも編み物を

売り歩いてた子じゃないか?」

「寒かったろう……可哀想に」


とても穏やかな表情をしていた。

鍵を小さな手でギュッと強く握りしめ

無くさないように胸元へ抱き締めるように。

箱の近くには美しい白羽根が一枚落ちていたのだった。

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― 新着の感想 ―
『ヴァルキリープロファイル』を昔遊んだ身としては、かなり懐かしさを感じる作品でした。 死を迎える人物の人生や未練を描き、その最期にヴァルキュリアが現れてエインヘリヤーとして迎える流れは、やはりかなり…
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