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【Episode S:守られる側をやめた日/The Day I Stopped Being the One Protected】

<Chapter5> <95>


数日前に凶暴なジャケットの人に出会ってからはあまり遅い時間に出歩くことは無くなった。もちろん、誠司(せいじ)院長にはバレなかったけど、すももさんにキズのことがバレてすごく怒られた。


~~ ~


「鎌を持った凶暴な男に襲われた!?夜に禁止区域なんて行ったらダメじゃない!」


すももさんは取り乱して慌てている。もちろん、すももさんは普通の人なので全部話せたり出来ないけど、ある程度は話している。


「流石に詳細の間(あいだ)が抜けてますよ。禁止区域“付近”ですし、妖怪に会ったみたいになってるけど、大丈夫。心配かけてごめんね、すももさん」


「でも、サエちゃんと同じ特殊なチカラを持った人が他にもいるだなんて…気をつけなきゃだね。サエちゃんはそんな人わかるの?」


「わかるって程じゃないんだけど、テレパシー?みたいな感じで普通の人ではない違和感はわかるかな?止めに来た男の人も鎌男と一緒の感じだったし…。そもそも私自身も特殊なチカラが何なのかわからないし」


すももさんにある程度話しても“理解されない”事が多い、とぼけてるとか隠してるって感じはしないので、私達みたいな能力者は理解できるけどそれ以外の人はわからないで片付いてしまう。


例えば“カルマス”の名前すら理解してもらえない。すももさん含めて普通の人は“異能”は通じるけど、“カルマス”と言うとわからないみたい。逆に専門用語ではないけど、キーワードが言える人は関係者って認識してもいいかも。自分も不用意に言葉に出せば疑われる事がわかった。


「でもっ!誠司院長にも言われた通り、危ないことしちゃダメだよ!」


~~ ~


とまあ…その時はすごく、すももさんに怒られた。あの時から数日、変わったことも起きず平穏に暮らしていた。あっ!そう言えばすももさんのかわりに探偵さんとの連絡を取っていたのだけど、ここ最近連絡がない。気にはなるけど調べてもらっている以上、催促もできない。


考えても仕方ないので朝ごはんを作って、すももさんを起こしに行く。部屋の前に立ってノックする。


コンコン。


「すももさーん。もう起きないと、ミーティング遅れますよー」


すると部屋の中からバタバタバターと音がして扉が開く。


「時間は?寝坊してる?もう危険な時間?」


目は半分しか開いてなくて、身体だけがとっさに動いた感じ。たまに、すももさんはこんな時がある。



「大丈夫です。今から準備してご飯食べても、間に合います。顔洗ってきてくださいね。今日は、すももさんの好きなきんぴらごぼう作ったんで」


「わーい!サエちゃん天使~。」



そう言って手をパタパタしながら洗面所に向かう。たまにこんな感じで、保護者が逆転する時がある。私の家事スキルと言うか、生活力はお陰さまでメキメキと上達してある程度の事ができるようになった。


すももさんの準備ができて、一緒に朝食を食べる。先程の目を擦って、髪の毛ボサボサから見違えるぐらい、髪の毛もメイクも整っていて、スーツでバッチリなのでバリキャリ(最近覚えた言葉)のようだった。


「そう言えばサエちゃん?探偵さんはどう?」


すももさんはお味噌汁を飲みながら聞いてくる。聞いてくる時の顔はキリッとしているがお味噌汁を一口、口に運ぶと頬が緩む。今日も美味しく作れたみたいでよかった。


「今朝も確認したんですけど、やっぱり連絡ないですね。どうしたんでしょうか?」


うーん。と真面目な顔になるが、きんぴらごぼうを口に運ぶとまた頬が緩んで美味しそうな顔をしてくれる。すももさんは美味しいとも言ってくれるけど、顔に直ぐ出るから作るのにモチベーションが上がる。


「きんぴらごぼう、うまっ!んもー、サエちゃんの料理スキルがどんどんあがるねー。あっ!探偵さんのほうはもうちょっと様子みようかな?追加で調べて欲しいこともあったんだけどなぁ…」


「調べて欲しいこと?」


「そうそう、病院の近くの団地あるじゃない?そこで幽霊騒ぎがあって調べてもらおうかと思って」


すももさんの追加依頼が違う方向を向いている事にビックリする


「流石に幽霊はいないんじゃないですか?それにあんまり関係無いような気がしますが…」


「そうじゃないの、通院してるお婆ちゃんが言ってたから気のせいとか勘違いって線もあったんだけど、そこに住む全ての人のポストに“星屑(ほしくず)”が入れられてた上に、住人のみんなが幽霊を目撃してるの」


「星屑!?そのお婆ちゃんも接種したの?」


星屑は最近、流行っている違法薬物で幻覚症状や意識の消失などがあるのだが、恐怖の緩和なので使用する人が後を絶たない。すももさんの家族も被害者だったりで探偵さんに調べてもらっている。


「違うの。そのお婆ちゃんはリハビリで病院に通っていたんだけど、ポストに知らないカプセルの薬が入れられてたって持ってきて、誠司院長が成分を調べたら星屑だったので、団地に聞き込みに行ったらしいのね。そしたら幽霊の目撃の話が出たみたい。一応、誠司院長が団地の人の薬物検索もしたみたいなんだけど接種してる人は居なかったみたい。流石に、ポストに入ってたカプセルの薬を飲もうとは思わないよね。」


出所がわからない星屑と幽霊騒ぎ…


「それで、すももさんは探偵さんに調べてもらおうとしたのね。」


「住人の人は逆に幽霊の事はあまり気にしてないのも不思議なのよね。むしろ、出会ったら良いことあるみたいな事も言ってたらしいから。団地のみんなが見てるか幽霊って事ないし、星屑を接種してるわけではないから幻覚でもないけど、無関係とも思えなくて…」


「確かに…ちょっと気になりますね。幽霊の目撃の時間とかあります?」


「時間は夕方~夜前らしいよ?あっ!行こうとしてるでしょ?ダメだよ、危険なことしたら!」


「この前、すももさんにしっかり怒られたんで無茶なことせずに危なくなる前に逃げます。しかも、夕方よりも前にならあの辺り、人通りもあるので危険は少ないと思いますし」


すももさんは腕組みしながら心配してくれてる。お父さんみたいに(言ったら怒られそうなので言わないけど…)


「ならいいけど、無茶しちゃダメだよ?」


「はい、すももさんには心配かけないんで。ちなみにすももさん、そろそろ家を出ないと遅れますよ」


ガタッとすももさんは立ち上がり、時計を見て慌てて準備をする。


「今日は帰れないけど、無理はしないこと!オーケー?とりあえず、行ってきます!サエちゃん、今日のきんぴらごぼう最高だった~」


バタバタしてすももさんは仕事に行ってしまった。さて…病院の近くの団地かぁ。ちょっと見に行こうかな。


すももさんを見送って、食器とかを片付けて洗い物に洗濯、掃除機もかけて家を整える。毎日のルーティンなので家はキレイに維持されている。ある程度の家事を終わらせて今日は1人なのと、明日のすももさんの夜勤明けのご飯の準備の為に買い物に出かける準備をする。


「買い物ついでに幽霊騒ぎの確認でも行こうかな…」


玄関の鍵を閉めて、目的地に向かう。


「リハビリのお婆ちゃんがいるって、すももさんが言ってたけど、誰だろう?表札とかあればいいけど…」


家から数十分歩いて目的地の団地に着く。この距離でも病院が見えるから大きい病院だったと感心する。


表札を見るがほとんど付いておらず、わからないと思った矢先、1つだけ表札が付いていた。


「うーん、やっぱり防犯上から表札は付けないよね…あれ1つ付いてる…狭山(さやま)!?狭山ってもしかして…」


私はビックリして勢いで呼び鈴を鳴らす。思いつきでベルを鳴らしたけど違う人だったらどうしよう…ちょっと後悔するが


「はーい、どちら様ですか?」


ガチャっと扉が開き、中から杖の付いたお婆さんが出てくる。やっぱりだ!清(きよ)さんだ!


「お久しぶりです!お元気でしたか?私の事わかります?」


挨拶も早々に色々聞こうと思ったら清さんが


「あらー!サエちゃんじゃない?元気になったのね?大きくなってすっかり美人さんになってー」


狭山清(さやまきよ)さん。私がまだ活発に動けていた幼年期時に出会った柚希(ゆずき)に紹介されたお菓子をくれるお婆さん。あれから10年ぐらいかな?私もあの後、隔離室に居たりと会う機会がなくなった。


「お陰さまで、最近よくなりました。ちょっとダメかもで諦めてた時もありましたか」


「それでも無事に退院できて、生活がおくれるなら十分よ。私なんて90歳過ぎてもやりたいことだらけよ。そうだ、忙しい?よかったらお茶でもする?お菓子もあるわよ」


清さんの「お菓子もあるわよ」は久々に聞いてつ懐かしい記憶が蘇る。私は昔に子供の頃を思い出して大きく頷く。


清さんの家に招かれリビングに向かうと、オーディオからクラシックが流れ、テーブルの上には編みかけのマフラーが置いてあった、


「ごめんねぇ。片付けてからお茶持ってくるから」


「いえ、このままでも大丈夫です。なんか懐かしいです。清さんの部屋もこんな感じでしたもんね」


「入院してる時もこんな感じだった?すぐ、横着して手の届く範囲に物置いちゃうのよね。ちょっと待っててね、サエちゃん紅茶でいい?お砂糖はいる?」


「ありがとうございます。紅茶はそのままで大丈夫です。」


「あらあら、砂糖を沢山入れてた甘党のサエちゃんもすっかり大人ねぇ」


そう言って清さんは台所に向かう。


少ししてから、温かい紅茶の香りとクッキーがお皿にのって、清さんがやってくる。


「お待たせしました。どうぞ召し上がれ」


そう言って清さんも座る。私はクッキーを頬張りながら


「改めて、お元気そうで何よりです。すももさんわかります?最近、退院して一緒に住ませてもらってます。清さんは通院と聞きましたが」


「あー、麻酔科の夏目(なつめ)さんね。あの子にもずっとお世話になってるのよね。業務大変なのに私が通院の時に必ず声かけてくれるの。ホントにいい子よね。入院じゃなくなったのは私の年齢もあるし、私からお願いしたのもあるの」


「お願いした?」


清さんはお茶を飲みながら昔のように優しく答えてくれる


「旦那が亡くなって施設に入ることも考えたんだけど、老い先短い年齢だから余生は旦那と過ごしたこの家で暮らそうかと思って。蔵原先生にも相談したら、1週間に一回、見に来てくれるし、直通の緊急ボタンもくださったのよ。院長で忙しいのにいつも気にかけてくれるから安心してここで暮らせれるのよ」


院長先生もすももさんも病院内だけではなく通院の人にも優しくて2人の知り合いと言うだけで、何故か私が誇らしい。すると清さんが


「そう言えば、サエちゃんはどうしてここに?」


それを言われてハッとする。すっかりお菓子に夢中で目的をすっかり忘れてしまっていた。口の中に沢山、詰めたパイ風のお菓子を紅茶で流し込んで話せるように準備する。


「清さん、変なこと聞くんだけど…この団地で幽霊を見たことない?うーん。何て言えば良いんだろう…あ!星屑(ほしくず)をポストに入れて回るやつがいるみたいで…」


清さんは一瞬、うーん。と考えると直ぐに閃いたのか


「ああ、あのよく分からないカプセルの薬は星屑だったの?危ないわねぇ。でもね、サエちゃん。あのオバケの女の子は無関係よ?だって、あの子が私に「その薬を使っちゃダメだよ」って教えてくれたんだから」


「え!?清さんどういうこと?オバケが見えるの?」


私は清さんが言っている意味がわからなかった。清さんは首を横に振って


「流石にオバケは見えないわよ。けどね、そもそも“あの子”はオバケじゃないのよ」


私は訳がわからなくなりそうだった。すると清さんが壁にかけてある時計を見て


「毎日は来ないけど、もし来るならもうじき来る時間じゃないかしら?」


すると、サエは背筋が凍るかと思うぐらいの寒気がする。その後に小さく


コンコン。


足音も聞こえなかった。急にそこに現れたんじゃないかと錯覚するように。けど“何者か”が扉の前に立っていて扉をノックする。そのノックに嬉しそうに清さんは立ち上がり扉に向かう。


とっさに清さんの腕を掴もうとしたが座っていたため、動作が遅れる。そもそも、あの扉の外の“威圧感”で反応が遅れてしまった。


清さんが玄関のドアを開けると嬉しそうに「あら、今日はいつもより早い時間ね」と家に招き入れるその風貌は白いワンピースに銀青色(ぎんせいしょく)の長髪で透き通るような肌の色で目は灰青色(はいあおいろ)の水面のように澄んではいるが濁りが感じれるような瞳だった。そして“裸足”…


人によっては妖精や噂の通り幽霊と言うだろう。私も沢山の人に会った訳ではないけど、間違いなくこの子は“人の皮を被った別物”だと思う。容姿が特別とか異質と言うわけではなく、“サクラさん”や屋上の金髪のショートボブの女性のように“境界線を越えた者”なんだろう。


私と目があった瞬間、白いワンピースの女の子は口からポコポコと泡が上に上がっていく。水の中で息をしているみたいに…


すると、清さんが膝から前に倒れそうになったのを白いワンピースの女の子が支える。私はとっさに立ち上がって


「清さんに何したの!触らないで!」


私は光の速さで清さんを奪って元の位置に戻ってそっと清さんを寝かせる。寝息をたてて寝ているみたいなので無事なんだろう。白いワンピースの女の子は支えていた清さんが居なくなったのを確認して手を振っている。すると、こちらを見て


「きよ…さんからはなれて…。うん。だから、おそとにでて、おはなし…しよう。きず…つけたくない…の…。」


そのままスーッと外に出る。その姿は幽霊そのものみたいに歩いているのではなく流れるように移動している。私はそっと清さんから離れて玄関に向かう。幸運にも玄関に家の鍵が掛けてあったのでそれを借りて扉を閉めて鍵を閉める。気絶に近い状態の清さんをドア全開で放置はできなかった。直ぐに戻ってくると考え、鍵はそのまま持っていく。


女の子の幽霊(?)を見ると階段の所に向かって上に上がっていった。見失わないように走ってついていくと、団地の屋上の扉が開く音がするので私も向かう。扉を開けると夕日の日差しに目が一瞬眩むが前を見ると白いワンピースの少女が逃げることも無く、立っていた。私は


「私の大切な清さんに、危害を加えるなら私は貴女を許さない」


夕陽が屋上をオレンジに染めている。どこかで子供たちの声がする。風に乗って洗剤のにおいが鼻をくすぐる。そんな日常の何気ない光景のはずなのに、目の前の少女は異質で違和感があった。


見た目の異質な感じもあるが、気になるのは裸足で地面から5~10センチぐらい浮いていて、動く度に水場の波紋のように同心円状に空気が動いている様だった。まるで水の上を歩いているように…そして、“影がない”。少女は口を開く。


「あなたは、ここにいてはいけない…」


「それは私の台詞。清さんを危ないことに巻き込まないで」


「ちがう。あなたは“まもられる”がわのひと。ここの、ひとたちは…わたしが…」


何かを言おうとした時にワンピースの少女の背中の辺りの視界が歪む。背中から羽の様な何かが広がっているように見える。ただ、半透明で何かはわからないが鳥が羽を広げたように感じる。少女は焦ったように


「まって!まだおとなしく…」


少女が制するよりも早く、少女の回りに雫を水に落としたような波紋が広がり、その波紋が私に触れると身体に電力が流れたように身体が強ばる。するとまた、少女の回りに波紋が広がり円の外側が私の身体に向かってくる。切られることも、傷つくことも無いが動きが鈍くなる。少女は手を払い波紋を少し、軽減させるように勤めていたがカバーしきれていない感じ。その間も少女は独り言のように


「私は“あなたじゃない”し、あの子も“アイツ”じゃない。」


すると少女の肩の辺りで雫が集まる。それが弾丸のように足を貫く。太ももからはスッと血が流れる。あまりの速さに痛みは無い、けど…動きが制限される。少女は


「うごかないで…いまの、わたしが…ほんきでしたら、あなたはおぼれちゃう」


「確かに今の私じゃ、貴女に敵いそうじゃないけど、清さんを見捨てるのは私には出来ない。それに私、まだ負けたわけじゃない!」


身体を捻り、サエは瞬時に少女の背後に回り、距離を詰める。右手には先ほどまでなかった、鉤爪の付いたガントレットが現れて少女の背後から背中を狙う。


しかし、爪が身体に触れる直前にスライムを貫いたように刺さるスピードが遅くなる。ズブズブ刺さってはいるのだが、届く前に減速、停止をしてしまった。少女は振り返って


「あなたのじゃ、わたしにはとどかないよ…」


私は少女の“虚ろな目”を見て思う。たぶん私と似ている。


「貴女こそ、“守ってもらう側”じゃないの?」


少女は直ぐに否定する。


「ちがう!」


「違わない!貴女は自分が傷つく事が怖いから、守ってもらって威圧だけで、追い返そうとしてる」


「ちがうっ!わたしはあなたをいつでもねらっている」


「でも、急所や即死を狙っていない。あなたは相手が傷つくのが怖いの。だから、足を撃った時に焦ったの。コントロールが出来なくて当ててしまった事を」


「なんであなたは…そんなことわかるの?」


突き刺してたであろうゼリー状の何かは消える。すると私も鉤爪のガントレットを消す。どちらも本来はあり得ないが“能力として”顕現したものだった。サエはスッと手を広げて少女に抱きつく。


「私も一緒だったもん。誰も恨めなくて、憎いのに誰かのせいに出来ないから自分を恨んだ…けど、それをすると虚しくて悲しいだよね。だから、私は貴女の気持ちがわかるよ。“恨む事に疲れちゃった”んだよね」


すると少女はキュッとサエに抱きつく。


「なんか、おねぇちゃん。びょういんのにおいがする…。きよさんとおなじ…におい…」


私はとっさに自分の手を鼻に当てて臭いを嗅ぐ


「おっかしいなぁ、退院してからだいぶ経つからもうしないはずなのに…それに、ちゃんとお風呂も毎日入ってるのになぁ」


2人は目を合わせて笑う。少女はようやく目に光が灯ってクスクス笑っている。たぶん、この子も大きなものを抱えてるんだと思う。その気持ちは私もすごくわかる。だから、助けてあげたい。


ひとしきり笑った後、少女は申し訳なさそうに私の足のキズを触る。すると、傷口のキズと痛みが消えていく。私は驚くしかなかった。


「すごっ!どうしたのこれ?」


「わたしのチカラはもともと、いやすことなの…。ごめんないさい、“まえのフローラ”は、ほかのヴォルガにいじわる、されたみたいなのだから…」


ヴォルガってのは“サクラさん”や“カイトさん”とあの嫌いな皮ジャケットの人もそうかな?そう思うと結構、病院を出てから会っている気がする。と言うことはこの子も?ん“前のフローラ”?


「ねぇ?改めて挨拶するね。私は“マカベサエ”って言うの。あなたのお名前は?」


少女はうーんと悩んで


「なまえ?わたしは“リヴィア・アーデル”っていいます。」


なるほど、通りで整った顔立ちでイントネーションがちょっと違うのかな。ん?リヴィア・アーデル?


「あれ?フローラじゃないの?」


「“フローラ”は…んー、なんていえばいいんだろう?もうひとつのなまえみたいなのかな?」


「“前の”って言うことは…」


「うん。前の“フローラ・セレス”は【さくら】ってひと、らしいよ?」


フローラ・セレスと言った時に大気が震える。鳥が一斉に飛び立ち、木々が悲鳴をあげるように揺らめく。前にカイトさんが言っていた“真名(まな)”なんだろう。このままここに居たら良くないのを呼び寄せそうだったから、リヴィアの手を引いて屋上を出るように促す。


「何て言えばいいかわからないけど、あの名前を言ったら何か良くないのが来そうかも…だから一旦、清さんの家に逃げよう。少ししたら続き聞かせて」


あまり感情の起伏が少ないのだろうけど、私が焦ってるのを見て気持ちが通じたのか、頷いてついて走る。


清さんの部屋の前に立つと先程預かっていた鍵をポケットから取り出して扉を開けて中に入る。その頃、屋上では“何か”強いチカラを感じたので、2人で息を潜める。


数分もすると、嫌な感じは無くなり2人は肩を撫で下ろす。するとリヴィアが


「ごめんないさい…。こんなに、はなしができるひと…はじめて、だったから…」


「大丈夫だよ。私も良くわかってなかったから、一旦は落ち着いたみたいだから清さん確認しとこ」


心配していた清さんは家を出た時のまま、スヤスヤ寝ている。その寝顔を見るとサエは胸を撫で下ろす。寝ている清さんのとなりに座って床をぽんぽんと優しく叩いて、リヴィアに座ることを促す。ちょこんと座ってサエの方を見る。


「きよさんはだいじょうぶだよ。からだにふたんがないように、ねてもらったの」


その言葉に嘘はないのだろう。感覚的には麻酔みたいな物だと思う。気がつけばリヴィアから泡みたいなものや宙に浮いたりしてないのである程度はコントロール出来るのだろう。けど、屋上から地面を走った事により足の裏をケガしていた。


「あの…足大丈夫?」


「うん。だいじょうぶだよ」


「もう1つ聞いてもいい?前のフローラの人が【さくら】って言ってたけど、その人って男の人?」


そう聞くとリヴィアは首を横にふる


「ちがうよ。おんなのひとだよ。“くろかみで、こしまでのながさ”があって、きらきらした“め”をしてるんだよ!」


あの時の病室での人は顔は見えなかったかわからないけど、色々な人と出会ってから話し方、仕草でサエはあの黒フードの人は男性かと考えていた。金髪の女性も偽名とは言ってたけどもし、黒フードがその【さくら】さんを語っているなら…


「その人はどこにいるの?」


「わかんない…けど、たまに【さくら】の“きおく”がうかんでくる。」


そうなってくると【さくら】って人はもう…


「リヴィアちゃん。【さくら】ってあんまり言わない方がいいかもね。私と約束して?」


「うん。サエおねぇちゃんのいうこときくね!」


何だか急に妹が出来たみたいで何だか嬉しい。すると、清さんが目を覚ます。


「あら…寝てたのかしら?サエちゃんもリヴィアちゃんもごめんね…。嫌だわぁ」


清さんは疲れで寝てしまったと言うことで、話は大きくはならなかった。その後、リヴィアの話になった時に私は清さんに提案したのだった。


「リヴィアちゃんと一緒に住もうと思うの」


この子の存在はいずれ、他の人にバレると思う。それがこの子を悪用や利用しようとする者が現れる気がした。良いも悪いもちょっと前の自分のように純粋で無知なのだ。ここの場所が好きで守りたいとの気持ちがあるけど、こんな感じで居ると逆に清さん達、住人が被害を受けるだろうと思った。それを聞いた清さんは笑顔で


「リヴィアちゃんの為にも良いと思うわ。定期的に来てるから家が近くなのかと思ってたけど、お家がないならその方がいいわね。それにしてもサエちゃん、見ないうちにお姉さんになったのね。うれしいわ」


また来ると約束して家に帰る。手を振ってお別れをした後にリヴィアに


「あんまり、深く関わると大変になっちゃうかもだから、行くのは考えないとだね。でも、行かないと清さんが心配しちゃうから気を付けないとね」


「うん。“わたしたちはべつのそんざい”だもんね」


その通りだった。理(ことわり)から外れていのは私達で清さん達とは違うのだ。私の言った「深く関わると大変になる」って言うのはもちろん、すももさんにも当てはまることだ。私が居ることで迷惑がかかるもしくは、すももさんを危険に巻き込む可能性がある。その前に…考えとかないといけない。


「あっ!どうしよう…すももさんに連絡するの忘れてた…リヴィアちゃんの事、何て言おう…」


先ずは当面の事を考えないと…ただ、リヴィアちゃんの事を話す=(イコール)幽霊騒ぎに首を突っ込んだ事も話さないといけなくなる。すももさんに怒られるのは目に見えてるので…


「リヴィアちゃん…帰る前にちょっとケーキ屋さんに行ってもいい?」


2人で手を繋いで駅前の、すももさんが好きなケーキ屋さんに行くことにした。




毎月1回(15日に)は投稿はします!



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