【Episode K :Only the Steam Remained/残っていたのは、湯気だけ】前編
<Chapter2> <23>
「はじめまして、ユウキです。お世話になります。よろしくお願いします」
月灯堂に来てまず、他のスタッフの方に挨拶する。サクラさん曰く、他の人はノーヴァやカルマスとは無関係とのことで“話す必要”がないとのこと。隠すや言わないじゃなくて必要がないと言うことの意味がわからなかったが、試しに他の人にカルマスの話をしてみたものの、話しは出来て通じているのだが、“話が噛み合わない”
隠蔽とかではなく、完全に外側の話と言うこと。
もともと、人付き合いは苦手だったのだけども、共同生活となるとある程度のコミュニケーションは必要なので出来るだけ頑張るつもりだ。挨拶や自分の部屋のこと、仕事内容をある程度の聞いてからサクラさんに呼ばれたので部屋に伺う。
コンコン
「入って大丈夫ですよ。どうぞ」
「失礼しましす。お話とは何でしょう?」
「話せる事が少ないですけど、約束通り君の疑問を答えれる事だけ話しましょう」
僕は椅子に座わる。自分用に置いてあったお茶を飲み干し、サクラさんの方を向き疑問を投げ掛ける。
「まずは、あんたはいったい何なんだ?カルマスって何なんだ?世界はどうなってるんだ?」
サクラさんは丸い眼鏡をクイッと上げて僕の方を見ながらゆっくり順番に答えてくれる。
「先に訂正しとかないといけないのは、私は“サクラ”と言う名前ではありません。訳あって名乗れないのですが私のカテゴリは“テンペル・ルート”と言います。何故名乗れないかと言うのと、君に1つ注意があります。」
サクラさん(仮)が名を言った時に部屋の空気が一瞬変わって後ろに椅子ごと下がってしまった。
「そうです。君が今感じたように名は本来のチカラを解放するときに呼びます。なのでむやみやたらと言ってはならないのと、私の真名やカルマスの事を一般人に言ったりすると、その者がヴォルガの手先だった場合、君の存在を示してしまう可能性があります。それに敵はヴォルガだけでなく。ノーヴァ同士接触した場合も命の奪い合いになることが多いです。君の場合は特にですね」
「私はある者たちから存在を隠すためにと、この“サクラ”と言う名前をキーワードにある者を探しています。矛盾はしてますが、私一人ではなし得ない事を貴方たちノーヴァに託してると言う訳です。」
「なるほど、僕たちは都合のいい駒ってわけなのか」
僕はサクラさんに対して皮肉を付け加える。そうでもしないと自分の感情が不安定になりそうだった。ただサクラさんは顔色変えずに
「そうです。私にもやるべき事があるので…。あなた達ノーヴァを利用してます。もちろん、貴方は自分が生き残るために私を利用すればいいと思います。」
自分のカルマスが全ての者から狙われているなら、自分のすべき事は1つだと思う。お互いに利害は一致している。僕は改めて襟を正す。するとサクラさんが
「順番に答えますね。カルマスとは…」
カルマスの話が結局1時間ぐらいかかってしまって難しすぎて頭から煙がでそうだった。要約すればカルマスとは高エネルギーの塊で時には、命になり。時には兵器となり。時には救いを与えるものであるとのことだった。
話しはまだ続くと思ったが、その時サクラさんが眼鏡を取って、ハンカチでレンズを拭く。
「話が長くなりましたね。一旦スタッフと合流してお昼でも食べましょうか。お昼食べてから話の続きをしましょう」
自分は部屋を後にしようと思ったけど、サクラさんは椅子から立ち上がる気配はない。
「サクラさんはお昼たべないんですか?」
「私は食べなくても大丈夫です。頃合いを見て戻ってきてくれたらいいですよ」
そうだったなと思い、部屋を後にする。不思議な人だ、自分等とは違う生命体でありながら我々と同じ生活をする。彼の目的とはそれほどのものなのかと思い他のスタッフと合流してお昼を頂く。
その時にサクラさんの事を他の人に聞いてみても、優しい、頼りになる。などいい意見ばかりだった。
食べながら世間話や接客の仕方など、色々教えてもらうことになった。聞いたら下宿してるのは自分だけで夕方には皆さん帰宅するとのこと。
お昼を食べた後、スタッフが帰るまでと言う条件で話の続きが始まる。
「この世界の事をお話しますね。まずこの世界は1人の神によって創造されました。ただ、ある裏切り者によって〖神は殺されて消滅しました。君も聞いたことぐらいあるでしょう、“神の涙”と呼ばれるものが、カルマス〗なんです。ただ、あの塔は神は存命で神秘のチカラで維持しているとは言ってますが」
確かに宗教程ではないが、塔の最上階からノアスが近寄れないようにチカラを行使していると
「じゃあ、塔の最上階には誰もないのですか?」
「いえ、新たな統制者はいますが、その者は貴方たちに興味などありません。彼は神その者を憎んでいますから」
「その言い方だと、今の統制者は裏切り者ではないのですね?」
「そうですね。彼はただ“呪いを背負わされている”だけなので」
複雑な心境になる。今の統制者は無理やり、憎き先代の神の子の代理をしなくてはいけなくなったり。挙げ句、憎しみを植え付けられて、生きていかないといけなくなったとか。常人では耐えれないのだろうと思う。そう思うと今の統制者はどんな人物なのだろう。
「さて、時間的にそろそろ皆が帰る頃ですね。続きはもう一人が来たら続きをしましょう」
時間を見てハッとする。先輩たちが帰る時間になっていた。問題はここからバイトもしたこと無いのでうまく接客出来るかどうかが問題だった。その表情で察したサクラさんは
「大丈夫ですよ。私も表に出とくので心配しなくても大丈夫です。」
さて、ここからが自分の接客のスタートだ
「いらっしゃいませ。げっどうどうへよう…こそ。あ、小物多く置いてます」
「いらっしゃ…いませ。えー、げっとうどうへようこそアクセサリーありますよ」
とまあ、慣れない挨拶から接客までこなしてみたが最初の方はうまく行かない。さくらさんのフォローがあって何とかなっている。とゆうか、平日のこんな時間にこの店お客さん多くないか?とバタバタしながら接客をこなしていく。サクラさんは笑顔で
「うん、初めてにしては上出来ですね。私の後は君にこの店を任せられますね。」
と冗談なのか本気なのかわからない事を言う。あくまでもサクラさんにとっては隠れ蓑で敵見つかったり、目的が遂げたら不要になるんだろう。
ガチャ
考え事して一瞬、仕事をしてることを忘れそうになる。
「いらっしゃいませ。月灯堂にようこそ。アクセサリーから小物まで何でもそろいますよ」
やった!今まででしっかり言えた。と心の中でガツツポーズ。
来た人は、ヘアセットも整えていて化粧もしっかりされているがどことなく幼さを感じる、大人の女性だった。
時間も閉店前だったので夜職の人のような感じもした。まあ、学生の自分は行ったことはないけれど…。
服装も黒いワンピースにカーディガンでとても綺麗な人だった。見惚れてしまうと首筋から下に目線を落とすと胸は…まあ、胸は…ね…。スタイルはいいからいいんじゃないかな?
と、失礼な事を考えていると。女性は店の中をキョロキョロと見て、「あっ」と言わんばかり目を開ける。そして、自分を避けて奥の方に向かう。
自分はあれ?と思いながら目で追うとサクラさんに声をかける。なんだ、サクラさんの知り合いかと思い目線を戻そうとすると女性が
「今日の私は“初めまして”ですか?サクラさん?」
「はい、“今日の貴女”が初めましてで、ようこそ私は歓迎します。“本当のエンドレスエデン”に」
そう言ったサクラさんは女性を奥の部屋に案内する。まさかあの人は…そう思うと、身体中から警戒心が溢れてくる。話の流れからしたら、あの女性は間違いなく“ノーヴァ”なのであろう。サクラさんは歓迎してたが、状況に応じては自分を狙う敵になる可能性がある。
目覚めたばかりで戦う術を持たない自分としては一定の距離と警戒はかかさないでおこうと思う。サクラさんんが出てきて紅茶の準備をする。声をかけて聞いてみる。
「あの…僕も同席したいんですけどいいですか?」
サクラさんはお盆を持って、笑顔で「大丈夫ですよ」と言ってくれる。サクラさんより先に部屋に入り近くの椅子に座る。女性は「え?」と言わんばかりの顔をしたが気にしない。
女性の対面に座り女性を見る。昨日の話からして、サクラさん自身も危険になる可能性もあるのによく対面の席に座れると思う。まあ、サクラさんが遅れをとるとは思えないが…と思っていたら女性が
「その前に青髪の青年はどなたですか?話しは聞いても大丈夫ですか?」
女性は自分の容姿の特徴を伝えてサクラさんに聞く。自分も関係者です。と伝えるべきかと思ったときにサクラさんが手で静止してきて、そのままという感じで傍観することになった。
「はい、彼はユウキくんで美術専門の大学生です。貴女と同じ“刻星者”で“ノーヴァ”です。彼の場合は特殊なので私が匿ってます。」
こんだけ、人の出入りがあって。なおかつ接客とかしてたら匿っているのか?と思ってしまうぐらい緩いガード。女性がこっちを見てきたので軽く会釈をして目線を反らす。もちろん警戒心は高いまま。すかさずサクラさんは
「気にしないで下さい。彼も貴女が“目覚める”数日前なのでわからないことが多いのと“ノーヴァ”が接触すると“カルマス”の奪い合いになると先に言ってしまったので」
と簡単な自分の自己紹介の後、女性の紹介となる。名前は“クロセミコ”さん共同オーナーのお店で占い師をしているらしい。占いで生計を立てているならかなり凄腕なんだろうと思う。年齢は28歳で年上。落ち着きのある女性だが明らかにサクラさんに好意があるようだった。
そもそも、サクラって名前も偽名なんだけどと思い、クロセさんを哀れみの目で見る。そんな中、サクラさんは説明を始める。サクラさんに既に聞いたことや初めて聞くことなど色々話していた。クロセさんは驚愕してることもあったが自分にとっては世界がどうとかは全然興味がない。別にスーパースターやヒーローになりたいわけではないので。
ただ、気になるワードが出てくる。それは自身の今後に関わることなのでしっかり聞くことにする。
「先ほどの話の中に出てきた“闇の鎧”はとても危険な存在です。自我はないので、獣に近いと思っていただいて大丈夫です。ただし、ノアスのようにいかない理由が1つ。彼は世界を破壊する“神器”を所有していると言うことです。なので、彼には一切の接触もなく逃げてください。」
そんなヤバいヤツがウロウロしてると思うと恐怖だし、自分が関係者していると言うことが重要なのだ。すかさずサクラさんに確認する
「理解は出来ました。後は、話の中の“闇の鎧”なる者ですね。自分がかなり関係してるので匿われているのですよね?」
「そうですね。このタイミングで君が覚醒してくれたお陰でこちら側の切り札であることは確かです。なので、クロセさんが力を貸してもらえれば、助かるのですが…」
「私ですか!?」
まさかのサクラさんはクロセさんに協力を仰ぐと言いだした。見知らぬ女性もあるが、自分を売られたら間違いなく消される可能性だってあるのに。そんな人とペアを組むだなんて断りたい。クロセさんも断るかと思ったら。まさかの承諾しやがった。めんどくさいなぁ
終わりかけにサクラさんに告白みたいなことしたり、連絡先をもらったりでウキウキしてるのを見てため息が止まらない。こんな人とペア組んで自分の命を預けれるかは不安だ。
その後、少しだけ打ち合わせして、自身の荷物を取りに一旦店を出る。クロセさんには申し訳ないが、釘を刺しておく。
「サクラさんは、あー言ってますけど、基本は自分で何とかするんでクロセさんには迷惑かけないつもりですので」
それを言ったらクロセさんがムッとした顔をする。表情に出すぎでしょ。その後あーだ、こーだと言われたが短く「すいません」と言って反対方向に歩いていく。帰り道は同じっぽいのだけれども、ギャーギャー言われそうなので早々と立ち去る。まあ、話の整理もしたいのでゆっくり家に向かうか。
道を曲がって直ぐに男が待っていた。運命は既に回り始めていた。もう走り出した運命は止められないらしい。
「はじめまして、少し話をしてもいいかな?」




