獲物の解析
ワード=ザルガは受け続けながら、測っていた。
通る拳、通らない拳。皮膚に浮く痣、跡が残らぬ直撃。
(違いは——致命だ。生殺しの線は刻めるが、首を折る角度、心臓へ直線、頸動脈の圧迫……そこだけは結果が消える)
仮面の奥で、短く呟きが零れる。
「……試してみるか」
その気配が、肉薄していたエステバンの耳に冷たい針みたいに刺さった。背筋が僅かに粟立つ。
ザルガの手刀が、真上から脳天を狙って落ちてくる。
(ここは飲む。通らない。返す)
エステバンは右のアッパーを合わせに出した——その瞬間、背後から生き物のしなる気配。ザルガの尾が蛇のように巻き付き、エステバンの右手首を絡め取った。
(——しまった。手刀は囮)
尾の締めが一段きつくなる。骨の並びが嫌な角度で鳴り、関節へねじり力がかかる。
このままでは腕ごと捻断される。
エステバンは躊躇を捨て、逆方向へ強引に引き抜いた。
ブチン。
内側で何かがはぜ、右腕の二の腕から肘にかけて火の紐が走る。
(筋が切れたか……!)
痛みで視界が歪むのを、歯で押さえ込み、一歩飛び退く。右腕はぶら下がるように重く、指に力が入らない。汗が熱と冷えを交互に連れて、こめかみを流れ落ちた。
ザルガは追わない。仮面をこちらへ向け、結論だけを静かに語った。
「仕組みは掴み切れん。だが、崩し方は見えた」
嫌な汗が背中を伝う。痛みの汗と、別の汗が混ざる。
エステバンは軽口で間合いを曇らせようと、肩をすくめる。
「答え合わせは後でもいいだろ。謎はゆっくり味わう方が楽しいって、昔から言うじゃないか」
ザルガはわずかに頷いた。
「狩りの愉しみは否定しない。だが、手加減は無作法だ。全力で斬り結んでこそ、獲物に礼を尽くせる」
そして、獲物に結果を告げるみたいに言う。
「要は簡単だ。致命傷はすり抜けるらしい。ならば、致命傷にならぬ一撃だけを積み重ね、動きを奪ってから、最後に決める」
「……つまり、拷問みたいに削っていく気か」
エステバンは笑ってみせたが、笑いは口元だけだった。
(さっきの手刀を引っ込め、腕を裂きに来たのは、そのためか)
ザルガは静かに続ける。
「誤解するな。憎しみではない。お前の才が、わたしの狩りの技術をそこへ導いた。誇っていいぞ、走者」
仮面のわずかな角度、背の棘の脈。次が来る。
エステバンは左足を半歩前へ。右腕は使えない。
(片手でやるのは良いとして(良かないけど)。今まで通りのリズムじゃ、なたフェイントにやらせそうだが……考えてる余裕はくれそうにないな……)
風が、一度だけ止まった。
ザルガの尾が地を叩き、背の突起が膨らむ。
エステバンは左拳を握り直し、顎をわずかに下げた。
「続けよう、爬虫類。——こっから先は長丁場になる」
乾いた土の匂い、血の鉄、遠くで鳴く鳥の一声。
二人は再び踏み込み、傷を刻む攻防へと入っていった。
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最近、投稿に忙しくて会社がつらい。
眠いのよね。




