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7.5日目のきみに会いたい  作者: 餅月 響子


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第28話 澄矢の切り替え

夜中にチャイムが鳴った。

澄矢はベッドの上でスマホ画面を見ながら、これから寝ようとしていた。

ラフなTシャツとハーフパンツをはいて、条件反射に玄関まで重い体を動かした。風邪を引いて熱を出していたため、フラフラしていた。


「はい?」

 額に熱さましのシートを貼ったまま出て行った。その姿を見た快翔はプッと笑った。快翔の腕には、酔っぱらった茉大の体があった。


「な、なんで?」

「悪い、このまま俺んち連れてってもいいんだけどさ、それって良くない気がしてさ」

「いやいや、むしろそれでよくない? 俺熱出てるし」

「ダメっしょ。俺が連れてって勘違いされてもさ」

 快翔は言い訳するように連れて来た理由を言った。澄矢はため息をつく。

「……どんだけお人よしだよ。男女なんだからそうなってもおかしくない年頃だろ」

 拍子抜けした顔をする。

「??? お前、どこ次元に存在してる? んじゃ、お持ち帰りしていいのか」

「いや、やっぱ、だめ」

「……さっきのお前は誰だったんだ?」

 そんなやり取りをしながら、快翔は、澄矢の部屋の奥に茉大を連れていった。ソファにそっと寝かせる。酔いがまださめない茉大はむにゃむにゃ言いながら眠ってしまっている。澄矢はクローゼットからブランケットを取り出して、茉大の体にかけてあげた。

「それじゃ、俺、そろそろおいとまするわ」

「お前も泊って行けばいいじゃね? 終電もう行っただろ」

「……まぁ、そうなんだけどさ。2人の邪魔しちゃ悪い気がして」

「そういうこというの? 今更だろ。今まで2人で飲んでたんじゃないのか?」

「すいません、2人で飲んでました」

 快翔は酔った頬を赤くさせたまま、深々とお辞儀した。

「許さねぇって言っても過去の話だからな。その場所を選んだのは茉大だし、俺は何も言えないよな。まだ正式に付き合ってるわけじゃないし」

 ラグマットの上、あぐらをかいて、すやすや眠る茉大の顔を見つめた。


「そしたらさ、俺、澄矢のベッド借りるから。お前、ここのソファの下に寝ていいぞ」

「俺、まだ熱あるのにここで寝るのか」

「あ。ごめん」

「まぁ、いいけど。37.2だから。もうじき下がるだろうけどさ」

「微熱じゃん」

「快翔に茉大の寝起き見せたくないし」

「何様だよ」

「澄矢様だわ」

「はいはい。んじゃ、おやすみー」

「風呂は?」

「体力ないから朝にするわ」

「あ、そう」


 バタンと寝室のドアが閉まった。カチカチと時計の針が鳴っている。まだ頭がぼーとする。少し頭痛がした。今日は大学もバイトも行く気力がないと休んでいた。気持ちが落ちているからか。平熱だったのが、お昼には37.0超えの熱が出て来た。知恵熱かただの疲れか。ぶるっと寒気がした。鳥肌が出た瞬間に熱が来るぞとわかる。人によっては発熱はばい菌と戦うための重要な役割。体が進化するという。パワーがつくのか。でも今は、目の前に茉大がいて、テンションがあがってるはずだが、体がついてこない。いつの間にかうつ伏せのままソファの脇に眠ってしまった。


◇◇◇


 見覚えのある河川敷が広がった。空には筋雲が続いていた。無意識のうちに下に落ちている水切り用の石を探していた。砂利がこすれる音がした。


「澄矢くん、見てみて。今ね、私、3回ぴょんぴょんって飛んだんだよ」

 懐かしい声がする。夢にまで見たむしろ夢かもしれない雫羽がジャンプして喜んでいる。白いワンピースに麦わら帽子をかぶっていた。

「本当に飛んだの?」

 自然の流れで返事する。

「うん。そう、私、成長したなぁ!」

「何回も練習すれば、何だってできるよ。自分を信じるしかないんだよな」

「……澄矢くん。私に遠慮してる?」

「え?」

 雫羽は、また石を拾って投げながら話す。突然の話の切り替えだ。テレビのワイプが切り替えるように画面が乱れるみたいだ。ここは現実ではなさそうだ。

「無理しないで、思うように生きてね。私は私で、澄矢くんは澄矢くんだから」

「それってどういう意味?」

「私はここにいないから」

 その言葉を発してすぐに昼間の明るい景色から、星空輝く夜に変わった。月明りと星の明かりを頼りに足元をゆっくり歩いた。雫羽の足元にたくさんの白い花畑が広がっている。河川敷ではなくなった。

「雫羽?」

 声にエコーがかかる。

「澄矢くん、私、上に行くから。大丈夫。新しい彼女見つけてもやきもち妬かないよ! 幸せ祈ってるから」

 空の上を指さして、空中に浮かぶ雫羽。天国に向かっているのだろうか。澄矢は離れていく雫羽に触れることはできなかった。もう触れられないことがわかると、頬に涙が流れる。もうお葬式もあげてとっくの昔にこの世界にはいないって気づいていたはずなのに雫羽に会いたい気持ちが舞い戻った。走って追いかけた。届かないってわかってる。追いかけても意味ないって、もう、向こうの世界に行ってしまう。やっと受け止められるのかもしれない。雫羽はこの世界にはいない。亡くなって天国に行ったんだ。その代わりに茉大がいるわけじゃない。同じ感覚で相性がいい。雫羽と重ねてしまうのは過去に好きな人だったから。そういう人を求めている。でもよくよく見れば全然雫羽の顔には似てない部分がたくさんある。幻想的に照らし合わせて見ていた。しっかりと茉大と向き合おうと心に決めた澄矢だった。


 目を開けると、体中大量の汗をかいていた。高熱が出ていた体も一気に下がっていた。ソファの下に寝ていたはずが、自分がソファに寝ている。


「……澄矢くん、大丈夫? すごい汗だよ」

 すっかり目を覚ましていた茉大が洗面所からフェイスタオルを持ってきてくれていた。

「あ、ありがとうございます」

 タオルを受け取って、体の汗を拭きとった。

「何か、ごめんね。酔っぱらって、何かわからないけど、澄矢くんの家に来てみたい。昨日のこと、思い出せない」

「いえいえ。気にしないでください。あいつが勝手に……あれ、茉大さん、快翔って知りません?」

 寝室のドアを開けると、ベッドの上には乱雑にくしゃくしゃのふとんだけ残っていた。

「あー、帰ったみたい。すぐにでもシャワーしないと無理って言ってたよ」

「そうなんですか。俺に黙っていくのか」

「まぁまぁ、ご飯用意していたから。ごめんね、台所借りていたよ」

「いえ、大丈夫ですよ。ありがとうございます」

 澄矢はこの上ない幸せを感じた。熱は下がるし、茉大の朝ごはんを食べられるとは思っていなかった。

食卓の上、澄矢はぼそっとつぶやく。

「茉大さん、俺と付き合ってもらえませんか」

「……え」

 目を一瞬伏せて、また見開く。茉大は頬を赤らめた。

「うーんと、よろしくお願いします」

 ぺこりとお辞儀して、見つめ合って笑った。

 ごくごく普通の目玉焼きとウィンナーの朝食が高級食品に見えて来た。

 澄矢はいつも以上に味わって食べていた。食べるたびに茉大の顔が緩んでいる。


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