31. ザ・セカンド・ティタノマキア その⑮
『フッ……フフフ。フハハ。フハハハハ、フハハハハハハハ!』
拳をかわされたクロノスは、その場に膝をついたまま、狂ったように嗤いはじめた。
『どこまでも無礼な奴よ! 我が神罰を妨げるとは、ラードーン! やはり貴様は、我を邪魔立てするか!』
しゃがんだままの態勢から、黒い拳が一気に振り抜かれる。
それを左側に飛んでかわし、理里は一旦クロノスから距離をとって、公園の外のマンションに着地し、紫苑を降ろす。
「紫苑。戦いが終わるまで、ここで待っててくれないか」
「えっ……」
紫苑は戸惑い、龍の巨体を見上げる。
「もう、危険な目には遭ってほしくないんだ。あの黒いのとか、ガイアやタルタロスは、残ったオリンポスの神々がなんとかしてくれるかもしれないけど……ルシファーの部下は、とんでもない精鋭部隊だっていうじゃないか。そんな厳しい戦場に、紫苑を置いておきたくない」
「……リサ……」
もう二度と、失いたくない。そう言っているのだと分かった。
だが。
「悪いけど……それはしたくない、かな」
「⁉ なんでだよ!」
驚く理里の、黄色く光る両目を、紫苑はしっかり見据える。
「……実は。あっちの方に、マロンがいるんだ」
「ああ……それは、俺も見たよ。なんだってあいつが……」
首をひねる理里に、紫苑は続ける。
「さっきクロノスが出てきて、やっと分かった。あいつは、クロノスに何かされて、おかしくなってるんだ。
……あたしは、あの子を助けたい。リサ以外で、あたしとまともに話してくれるのは、あの子だけだったんだ。人生で二番目にできた友達だったんだ。その友達が苦しんでるのは、見過ごせないよ」
「…………」
龍は困った顔をした。『グルルルル』、とそれらしいうなり声をあげて、こめかみ(らしき場所)に右手を当てる。
「大丈夫だって! この四か月、英雄の力を操れるように、アルテミス様とずっと特訓してきたんだ! 天装も、あたしが使いやすいように改良したし。今じゃ「ひとりだけの独立遊軍」に任命されるくらい、強くなったんだぜ? ほら!」
シュッシュッ、とシャドーボクシングをする紫苑。
「……ふっ」
理里は、なんだか意地になる自分が馬鹿らしくなってきて、笑ってしまった。
そうだ、彼女はオリオン。海王ポセイドンと人との間に生まれた半神。数々の難を乗り越え、悲劇的にではあるが、最後には星座にまでなった英雄だ。
「仕方ないな。気をつけろよ」
「やったあ!」
ガッツポーズをする紫苑。理里は、それを微笑ましく眺める。
「大丈夫、きっと無事に終わるさ。戦いが終わったら……また、落ち合おう」
「うん! がんばろうな!」
がつん、と拳を合わせる。
まるで友情のような愛。だが、これでこそ、彼らなのかもしれない。
「さあ、行くぞ!」
「おう!」
理里は翼を広げ、紫苑はベルトを光らせ。ふたりの戦士は、それぞれの戦場に飛び立った。




