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25. ザ・セカンド・ティタノマキア その⑨

 さて、突然飛び出した珠飛亜はというと。


(……悪い冗談はやめてよ。なんで、キミが)


 宙に浮かぶ少女に向かって、一直線に飛行を続けていた。

 常人の数倍の視力によって夜闇を見渡したとき、彼女の目に、映ってはならないものが映ったのだ。黒いドレスを身に纏い、ところどころ黒のメッシュが入った金髪を夜風になびかせる少女は、少し様変わりはしていたが、まぎれもなくいつぞやのストーカー女だった。


 詳しいことは分からない。だが、何か彼女が悪事に手を染めている事だけは、無感情に両手から人形を生み出し続けるその行為から見て取れた。


 本来なら自分には関係のない人間。しかし、珠飛亜はどうしても他人事には思えなかった。

 彼女は、理里のことが好きだと言った。理里のことを何の遠慮もなく溺愛できる珠飛亜がうらやましいと言った。だが、珠飛亜からしてみれば、むしろ彼女の方がうらやましかった。

確かに姉という立場でなら、理里と臆面なくイチャつくことはできる。しかしその立場にあるからこそ、珠飛亜と理里が結ばれることは永遠に叶わない。こんなにも、誰よりも、世界でいちばん愛しているっていうのに。


 でも、他人である彼女なら何の障壁もない。珠飛亜を阻む『最後の一線』が、彼女と理里の間には存在していない。


 だから、彼女にはがんばってほしかった。一途に、盲目的なまでに理里を求める姿に、いつしか自分を重ねていた。彼女にならば、りーくんを任せても構わないと思った。


 なのにお前は、こんなところで何をしているんだ。そう思ったら、居てもたってもいられなくなって、飛び出してしまった。


『グオオオオオオオオオッ!!!!』


 翼の生えた人面のライオン・スフィンクス。珠飛亜の真の姿だ。耳まで裂けた口を顎が外れるほどに開き、彼女は咆哮した。


 突進し、細身の少女に、その身体が衝突する――


(っ⁉)


 寸前で獅子の巨体はぎゅいんと進む方向を変え、上方に飛んで行ってしまう。


(やっぱり……こいつに、まともな攻撃は当たらない)


 以前に戦ったときも、この妙な能力で、珠飛亜の攻撃はすべて彼女に届かず、アサッテの向きに行ってしまった。これをなんとかしない限りは、かすり傷さえ負わせられない。


 上空に留まり、攻略法を思案しようとした時、


「……?」


 彼女がこちらを見上げていることに気付いた。虚ろな目で、異形となった珠飛亜の目を見据えている。


(なんのつもり? ……いや。もしかして)


 閃いた珠飛亜は、目を閉じて、翼だけを残して変身を解く。

 筋肉でごつごつとした怪物の身体から、スマートな肢体に戻った彼女は、先ほど自分の突進を曲げられたギリギリの位置……ちょうど、相手の手が届く距離まで近づいた。


「久しぶりだね」


 彼女に聞こえるかどうかは分からない。それでも、攻撃が届かない以上、これが唯一の賭けだった。


「わたし。りーくんのおねえちゃんの珠飛亜だよ。あのときはいろいろひどいこと言って、ほんとにごめん」


 ごめん、で許されることではないのは承知の上だ。今は、この子に語りかけることが重要だ。


「りーくんが他の誰かにとられちゃうなんて、認めたくない。わたしは、ずっと、ず――――っと、りーくんといっしょにいたいの。……だけど。だけどさ」


 なぜだろう。何度も、確認してきた現実のはずなのに。なぜ、視界が曇っていくんだろう。この瞳から、涙がこぼれ落ちていくんだろう。


「わたしはっ……わたし……わたしは……」


 滞空したまま、珠飛亜はその場で泣きじゃくりはじめた。

 出てこない。決定的な一言が、出てこない。これを伝えなければ、彼女には分かってもらえないのに、どうして。


「ひくっ……ひっく」


 何度も目をこすり、涙を拭う。言え。言わなくちゃだめなんだ。これを認めなくっちゃ、わたしも、この子も、前に進めない。だから震えて、わたしの声帯。動いて、私の唇……!


「……!」


 思いが通じたのか。目の前の彼女が、動いた気配があった。


「!」


 ぱっと顔をほころばせて、珠飛亜は頭を上げた――



 そして、絶望した。



 確かに。確かに、彼女は動いていた。手が届きそうなほどのその先で、先ほどまで空中に直立不動だった彼女は、開いた右手を珠飛亜の方に向けていた。


 生気など欠片もない、機械のような表情で。


「っ……」


 涙は引いた。その顔が、あまりにも冷酷すぎたから。

 殺気を感じた。何らかの攻撃を仕掛けてくる気だ。しかし、珠飛亜の身体は動かなかった。

 かざされた手の先、珠飛亜の目の前の空間に、裂け目が開き、少女の姿がより鮮明になる。


「あ……あ……」


 少女の右手に、黒い液体の渦のようなものが発生する。逃げろ、と理性は警告する。でも、翼は呆けたように一つ覚えで滞空を続けたままだ。


「…………」


 ズドン、という重い銃声のような音と共に、黒い液体は撃ち出された。正面から珠飛亜の身体にそれは直撃し、一瞬にして彼女の身体を覆い――


 次の瞬間には、珠飛亜の姿はその場に無かった。





「ククク。なかなかに善戦してくれるではないか、英雄ども」


 親水公園の西側にある柚葉市立図書館、その屋上。眼下に広がる戦場を、まさしく神の視点で眺める男がいた。


 その男の身体は、『黒』に覆われていた。腕や左胸など、ところどころに白いローマ数字が浮かび上がっている程度で、服を着ているのか裸なのかも分からない。ただ、古代ローマ風の兜をかぶっていることだけは見て取れる。


 男……いや、その神の名はクロノス。かつて天界を支配したが、ゼウスによってその王座を追われ、タルタロスの深淵へと幽閉されていた前時代の神王。


 三か月前、深淵から脱獄した彼は、ガイア、ルシファー、タルタロスと同盟を結び、今日この日、天界に戦を仕掛けることを企てていたのだ。


 当初の予定では、タルタロスが天界を全て飲み込み、その後クロノスが人界に神の存在を宣言し、人界と天界の新たな支配者に返り咲くはずだった。が、テュフォーンの出現によって、神々の戦力の一部が人界に漏れてしまったことにより、少々予定が狂ってしまった。


 だが。それもまた面白い、とクロノスは考えた。

 一気に滅ぼしてしまったのでは味気ない。ならば、一旦タルタロス様には休んでいただき、最後に残った英雄と神々は、我が自ら倒そうと。そして、我の力を存分に見せつけ、屈服させるのも一興だ。


「新しい王サマは、戦が御趣味かい?」


 傍らで問いかけたのは、車椅子に座った少女……いや、少年。黒く艶のある髪を腰まで伸ばし、上下グレーのスウェットという気の抜けた格好の彼こそ、〝始原の五神(オリジナル・フィフス)〟の一柱・タルタロス。先ほど天界に赴き、その全てを飲み込み滅ぼしてきたところだ。


「いいや、あまり好かぬ。流血は痛ましく、悲しいものだ。

だが、それが起きるのが正しい戦いであれば話は別だ」


 戦場から視線を逸らさずに、クロノスは続ける。


「これは我の、そして人間たちのための理想の世界を作り上げるのに必要な戦い。人を導くという使命を忘れた当代の神々を駆逐し、輝ける楽園を取り戻す。その道を阻む者を、我はもはや『人』とは思わぬ」

「……ふーん」


 興味なさげに、タルタロスは車椅子から立ち上がり、屋上のへりに立つ。


「それじゃ僕は、戦場見物でもするとしようか」


 そう言い残して、彼は屋上から飛び降りた。


「…………」



 落ちていくタルタロスを、クロノスは黙って見つめる。


「……フン。今のうちにせいぜい楽しんでおくがいい。貴様らもいずれ、我に滅ぼされるのだからな」


 でなければ、あの者と言葉を交わしたりなどするものか。

 タルタロスだけではない。ガイアもルシファーも、クロノスにとっては一時的に利用しているだけの存在に過ぎない。自分は正義と戦わなくてはならなかった。そして正義に勝てるものが悪だった。だから悪を利用した。それだけだ。


 いや、自分自身、利用されていることは分かっている。そもそも、ゼウスの人界に対する放任をクロノスに教えたのは、他ならぬガイアだ。だが、あの女の動機がその状況に対する問題意識などであるはずがない。あの女は常に混沌を求めている。此度もまた、より大きな混沌を求めて、我に声をかけたのだろう。


 だが、そのような悪と手を結んででも、我は理想を遂げなくてはならない。それが、力を持って生まれた者の義務なのだから。


「さて。そろそろ行くとしようか、我が同志よ」


 力強い声で言い放ったクロノスの後ろには、彼と同じく身体が真っ黒に染まった、十一の人影が跪いていた。





「姉上! 姉上えええええええええ!!!!」

「ひゅら、だめっ! 今行ったら、あぶないよっ」


 母に続き姉が屠られたことで理性が決壊したのか、飛び出そうとする吹羅を、綺羅は羽交い絞めにしてその場にとどめた。


 吹羅に飛行能力は無い。綺羅には、無いことはないが、翼を解放すると恐ろしい事になる。ゆえに、上空にとどまるあの敵を今すぐに飛んで行って殴りつけることはできないし、雷を降らせてくる相手に対抗できるかどうかは、正直怪しい。


 見たところ、あの二人は英雄サイドではないようだ。黒いドレスの女性が人形を生み出し続けているのが何よりの証拠。そしてそこに向かう姉を止めようとする母を阻んだあの黒ギャルも、その味方とみていいだろう。


 ならば、きっと英雄たちが倒してくれる。今自分たちにできることは……。


「おちついて、ひゅら! とりあえず、ママを助けようよ!」


 暴れる吹羅に、綺羅は背中から呼びかける。


 倒れた母をあのままにしておくのは危険だ。人形たちに襲われるかもしれないし、英雄たちに踏みつけられてしまうかもしれない。まずは彼女の回収が先だ。


 綺羅の言葉に、吹羅はハッと気づき、やっと動きを止めた。


「はあ、はあ……すまない、取り乱してしまった」

「いいよ。はやく、ママのところ、行こ」


 申し訳なさそうに肩をすくめる双子の姉に優しく微笑みかけて、綺羅は前方に視線を移す。

 恵奈が落ちてきた場所までの距離は二十メートルほど。その間、泥人形と戦う英雄たちをくぐり抜けていかなくてはならない。


「まずは母上の回収だったな。姿を変えて行くか」

「うん」


 互いにうなずいた二人は、目を閉じて、全身に力を込める。

すると、変態が始まった。


 吹羅の身体には、だんだんと緑色の鱗が生えはじめ、両脚が癒合し、ひとつになって伸びてゆく。複雑な髪型はほどけ、側頭部からは二匹の蛇がにょきりと生える。


 そこまで変化したところで、突如、衣服を突き破り、彼女の腰から一匹の大蛇が顔を出した。見る見るうちに、二匹目、三匹目、四匹目と増加し、それは六匹目でやっと止まった。


 そして完成したのは、上半身はところどころ鱗が生えた人間の身体、下半身は大蛇、そして腰から六匹、頭から二匹の蛇を生やした、グロテスクな外見の怪物。二つに割れた舌を、唯一人間のものである口からチロチロと出し入れし、唇を舐める。


 綺羅のほうでは、雪のように白い肌から漆黒の布が生えてきて、それが彼女の身体をぐるぐる巻きに拘束する。


 その状態から、さらなる変化が始まった。ばきっ、ぐしゃ、ごきっという、関節が外れるような生々しい音と共に、身体の部分部分が巨大化し、筋肉が発達していく。口には牙が生え、布のところどころから、金色の毛がはみ出す。


 やっと不快な音が止んだ時、四本足でそこに立っていたのは、拘束具で厳重に縛られた、ライオンとおぼしき生き物だった。最後に全ての足首に、バスケットボール大の鎖付き鉄球が現れ、そこで変化は止まった。


 九つの頭を持つ不死の毒蛇・ヒュドラと、獅子の前半身・山羊の後半身・蛇の尾を持つ怪物キマイラ。可憐な少女たちが隠し持つ、醜い本当の姿だった。


「さて、行くか!」

『グルル』


 変身前と変わらぬ声で気合を入れる吹羅に、綺羅は唸り声で返す。珠飛亜や恵奈、吹羅と違って人の顔を持たず、また他の家族ほど自分の力をコントロールすることもできない綺羅は、変身すると言語機能を失ってしまうのだ。


 意を決して、ふたりは茂みから飛び出した。


「わあっ⁉」

「何だ、新手か⁉」


 混乱する英雄たちを他所に、ただまっすぐに、二人は母の元へと駆け寄る。


「攻撃は我が防ぐ! 母上をくわえて速やかに離脱しろ!」

『グルル!』


 了解、と言うように、綺羅は獣の声で答える。

 幸いなことに、英雄たちは人形の相手で精いっぱいのようで、邪魔はしてこない。あと少し、あと少しで、ママのところにたどり着ける――


『グオオ⁉』


 その直前。綺羅の目の前の地面が、噴き上がった。間一髪、綺羅は立ち止まる。


「なぁ、ここは神と神の戦場だぜえ? そんなところに、どうしててめえらみてえな異端者(イレギュラー)がいるんだぁ? なあ流楠(るくす)

「おうともよ、兄貴。今ここにいていいのは、『英雄』と『神』と、そして『悪魔』だけだよなあ」


 土煙の向こうから、よく似た若い男の声がふたつ。


「何者だ、貴様ら!」


 吹羅が隣で叫ぶ。すると、ふたつの声は同時に「くっくっく」と笑った。


「何者だ、と聞かれたら名乗るしかねえかなあ。なあ流楠」

「おうともよ、兄貴。それが礼儀ってもんだよなあ」


 煙の向こうで、何かが動いた気配がした。すると、


『「⁉」』


 立ちこめていた土煙は、みるみる地面に戻っていく。

 そして……すっかり元通りとなってしまった地面の、その向こうに立っていたのは、髪を虹色に染め、じゃらじゃらと体中にアクセサリーをつけた、瓜二つの二人の男たちだった。

綺羅たちから見て右側の男は、右手に指の部分が無い手袋、そしてところどころに赤い宝石のアクセサリーをつけ、左側の男は、兄と左右対称になる場所に青い宝石のアクセサリー、そして左手に裏返しになった、兄と同じデザインの手袋をはめていた。


 綺羅たちが警戒心MAXで彼らを観察していると、右側の男が、口を開く。


「俺は鹿縞木(かしまぎ) 洲斗(しゅうと)。こいつは弟の流楠(るくす)だ。……つっても、前世の名の方がよく知れ渡ってんだがなあー。

 おいクソガキ。『ふたご座』って名前くらい、さすがに聞いたことあるよなあ?」


「何っ⁉ 貴様ら……まさか」


 吹羅が驚きを露わにすると、流楠がケタケタと笑う。


「ああそうさ。占いなんかでも有名だろ? 俺たちはソレだ。

黄道十(ゾディアック・)二星将(トゥウェルブ)〟が一角、双子座のカストルとポルックス。それが俺たちの前世だ」


黄道十(ゾディアック・)二星将(トゥウェルブ)〟。全天八十八星座の英雄たちの中でも、最強クラスの力を持つと言われる十二人の英雄たち。


「そんな大物が、いったいこんなところで何をしている! 見たところ、英雄の味方と言うわけでもないようだが」

「くっくっく、こりゃあ驚いた。こいつ、ガキのくせに見る目あるじゃあねえか」


 いやはや恐れ入った、と洲斗は頭を掻く。


「確かによお、ゼウスの旦那にゃあ感謝してるよ? 俺のあとを追って死にたいって言ったこいつに胸を打たれて、あのおっさんは俺たちを星座にしてくれた。けどよお……」

「おうともよ、兄貴。……なんかさ。「ヒマ」なんだよ」

「……何?」


 双子の言葉に、吹羅は耳を疑った。


「『星座の中』じゃあ、なんかおもしれえことねえかなー、って毎日退屈してたよ。そしたら、ちょうど十五年前だ……あのテュフォーンが、とんでもねえことやらかしてくれやがった。あの絶望感、あの混沌……もうね、俺たちゃ心が震えたよ。世界にゃあこんな刺激的なモンがあるんだ、ってな。奴の捜索のために転生させられたわけだが、こっちとしてはサインでも頂きたいくらいだ。なあ流楠」

「おうともよ、兄貴。本当に心酔して、あいつのことを可能な限り調べ倒して、探し回ったさ。

 でも、その過程でなあ……気づいちまったんだよ。優秀な俳優を生かすのには、優秀な監督が、常に必要だったってことにな」

「……何が言いたい?」


 吹羅が眉間に皺を寄せると、洲斗と流楠はニヤリと笑う。


「つまりは、今あそこに浮かんでる黒ギャルさんが、俺たちの『監督』ってことさ。ここにいる全ての人間と神を操っているのは、あのお方なんだ。なあ流楠」

「おうともよ、兄貴。それも今だけじゃない。十五年前も、その前も、神々の戦いにはみんなあのお方が関わっている。そんなビッグネームの下で働けるなんて、これ以上の名誉があるかい?」

「……そんなことのために」


 双子のニタニタ顔が、吹羅には腹立たしくなってきた、拳を握り、キッと二人の顔を睨む。


「そんなことのために、恩人を裏切ったというのか? ただの自分たちの楽しみのためだけに?」


 すると、双子は。


「「ああ、そうだよ?」」


 当然のように、何の悪びれもなく、そう答えた。


「だってよう、恩義じゃ人は生きていけねえよ。てめえら怪物はどうか知らねえがよお。人間の人生にはエッセンスが必要なんだ。なあ流楠」

「おうともよ、兄貴。楽しみっていうスパイスがなくっちゃあ、そりゃ死んでるのと同じだ。そう考えたら、俺たちの行動はごく自然じゃないか? 人間らしい営みだろ――」


 どがん。


「……おいおい、何しやがる」


 グラウンドをえぐる音。先ほどまで黙って話を聞いていた綺羅が、ついに動いたのだった。


『グルルルルルルルル』


 先ほどまで洲斗たちが立っていた場所には、彼女の爪が突き刺さっている。直前で双子は逃れたが、あと一歩遅ければ、彼らは無事では済まなかっただろう。


「ああ。ああ、我が妹よ。お前の怒りは分かるとも」


 蛇の下半身をのたくらせ、吹羅は綺羅に歩み寄り、筋肉の盛り上がったその肩を撫でた。


「人間でない異形の存在である我々でも分かる。貴様らのその行いは、人の道に反している。恩義を忘れ、自分の快楽だけを追い求める貴様らの姿は、もはや人間ではない。それは、異形にも劣る、ただの犬畜生だ」

「「……ああ?」」


 吹羅の言葉に、双子はついに笑みを崩した。


「きっと貴様らの『監督』とやらも、同じ心理で動いているのだろうさ。つまり、貴様らは全員まとめて駆逐されるべき害獣だということだ」


 一時も目を離さず、吹羅は啖呵を切る。


「ここにいていいのは、『英雄』と『神』と『悪魔』だけ……だったか? いいや、それは違うな。これは本来、我らの父テュフォーンと英雄との戦いだ! 断じて、貴様らなどに水を差されてよいものではない!」


 英雄を倒し、神を倒し、我らは真の安寧を手に入れる。ここで行われるのは、そんな戦いだったはずだ。それを邪魔し、汚したこいつらを、断じて許してなるものか。


「行くぞ、綺羅。こやつらに、本当の双子の絆というものを見せてやろうではないか」

『グルオオオオオオオオ!!!!!』


 獅子の雄叫びが、夜空に響いた。


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