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如月姫  作者: ハヤマ
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やっと会えたね

ソウ、姫たちとご対面です。

そのとき彼の正体が・・・。




 誰にも気づかれないよう、二人は朝一に村を発った。普段は山に入る前にマリかハンを呼ぶのだが、ソウの希望でそのまま山に入る。


 魔物はやはり襲ってきたが、ソウの相手ではなかった。ソウは何の武器も持っていないのに、戦いになると掌から半透明な得物を出して、襲ってくる魔物を次々と倒していった。



「俺は氷を操る力がある」



 マリやハンを物から創り出したリュウキと同じくらい不思議な人が世の中にはいるものなのだと、ナツキはなんだか嬉しくなった。



「ここです。マリ~。ハ~ン」



 着いて早々呼ぶと、マリが顔を出した。ナツキが一人で来たのかと心配して駆け寄ろうとしたが、隣に見知らぬ男の姿を確認すると、怪訝な表情を浮べた。



「ナツキ、その人は?」


「旅人のソウさん。姫たちに会いに来たんだよ」



 ソウは無表情の上に軽く穏やかさを乗せたような顔で、軽く会釈した。マリもつられて頭を下げる。その時マリはなぜか嬉しさを感じた。



「お、ナツキ。お前また一人で」



 顔を出したのもつかの間、ハンも同様にマリと同じ気持ちが流れ込んできた。



「お前……」



 ハンは一度ソウと会っている。そしてその時も妙な感覚に捕らわれたのを覚えている。

 そんな感情を二人が持っているとも知らず、ソウはハンを見て話しかけた。



「君がそうだったのか。村を襲うような顔にはあまり見えないな」



 ソウは苦笑して、すぐに無表情に戻った。



「この娘たちが君の言う姫たちなんだな?」



 厳格さの感じられる言葉を受けて、ナツキもいつになく真剣になる。


「はい。鞠を持ってるのがマリ。で、お面を持ってる方がハンです」


「マリとハン……」



 ソウは無造作に近寄ると、膝を折って目線を姫たちに合わせた。姫たちは心持ち動揺したよう。



「ソウさんはね、真実を確かめに来たんだよ。これで村から疑いが晴れるかもしれないの。だから、ソウさんには真実を話して」



 なんだかよく分からないが、二人はぎこちなく頷いた。



「この鞠と般若の面は、初めから君たちの所有物なのか?」



 早速ソウは質問した。質問の意図がよく分からなかった二人は顔を見合わせると、首を振った。嬉しさを露骨に出すわけにはいかないので、ソウの前では平静さを装う。



「いいや、違う」


「ナツキの手前、正直に申しますね。これは私たちの命です。私たちは人間ではありません。この鞠と面から創られた化身なのです」



 ソウは未知のものに遭遇して、驚き半分、探究心半分を顔に上らせる。



「すごい術者もいたものだな。創った、か。その者の名前は?」



 また主旨が少しずれている気もしたが、ハンが答えた。



「リュウキ。この山に暮らしてた人間だ。六年前に死んだがな」



 なるほどとでも言いたそうにソウが頷く。何に納得したのかよく分からない。



「魔物を払うように創られたのか? リュウキは自分亡き後も村を守ろうとして?」


「そうですね、それもあります。でも私たちが創られた本当の目的はそれだけではありません」


「というと?」


「リュウキの息子で、今、行方不明のショウキって奴がいるんだけどさ、そいつを独りにしないように俺たちは創られたんだ。そしてそのショウキを今も捜してる」



 ソウは今度こそ驚ききった顔で、この小さい少女たちを見つめ返した。



「ショウキを?」



 信じられないという動揺ぶりは、ナツキが「ショウキ!」と叫んだ時に出ていたそれと同様のものだった。



「六年間捜していた? 二人で?」


「いえ、三人で」



 マリの目線の先にはナツキ。


 六年間も一人の人間を諦めず探し続ける三人に、ソウは信じられない、頭おかしいんじゃないか、というような引きつった奇妙な笑い方をした。



「あの、ソウさん?」



 額に片手を当ててひとしきり笑った後、少し俯き、口元に不敵な笑みを浮かべる。



「俺はソウじゃないよ、ナツキ」



 突然何を言い出すのか。ナツキは当惑して聞き返した。

 しかしソウはすぐに答えず、今度は真っ直ぐにナツキを見ている。



「ナツ、キ」



 ハンが、笑うのを失敗した顔で呼んだ。ソウを見て何かを悟った様子。



「どうしたの? 二人とも」



 マリは真実のあまりに突然の到来に、口元を覆っていた。その、紫色に光る黒色の瞳が追っているのはソウ。

 ソウは姫たちの反応に微笑し、ナツキを見た。



「どうやら二人は分かってくれたみたいだ。ナツキ、君には分からないか?」



 と言われても、一体なんのことを言っているのか、ナツキには皆目見当もつかない。


 そんなナツキの答えを待たず近づいたソウは、当惑する彼女に構わずゆっくり腕を回し、細い背中を抱き込んだ。

 あんなに接触を拒んでいたのに、ナツキはなぜだか振り払うことができない。


 寒い二月の薄く張った氷の空気を、柔らかく覆う優しさ。それはナツキに六年前の温もりを思い出させていたから。



「ショウ、キ?」



 なんの確証もなく、ソウに対してその名が出てきた。ソウは頷く。



「思い出して、くれたんだな」



 つう――と自然に、ナツキの頬を一筋の涙が伝う。



「ショウキ。ショウキだ。ショウキ……!」



 彼を認識してしまったら、六年間の悲しみを洗い流すまで止まらないくらい、涙腺から涙が滞ることなく溢れ出てくる。



「気づ、かなかった。全然気づかなかったよぉ。だって、ショウキ変わっちゃってるんだも

ん。六年前は私より背が低かったのに、声も高かったのに、女の子みたいだったのに」


「変わりもするさ」



 大きな身体。背中に当てられた手の大きさと力強さ。男だと意識せずにはいられない。

 そう思うと、抱きしめられていることに恥ずかしさを覚えて、ナツキは咄嗟にショウキから放れた。


 ショウキの顔。男らしくなったが、面影は消えていなかった。瞳の色も昔と変わらず綺麗な色をしているのに気づかなかったのは、他が変わりすぎていたからだろうか。

 なんだか顔が熱くなった。



「な、何で黙ってたの? 初めに会った時言ってくれればよかったのに」


「もう俺の事なんか忘れていると思っていたから。覚えていてくれて、嬉しかった」



 ナツキは抱きしめる代わりにショウキの両手を握った。



「忘れるわけ、ないじゃない」



 ショウキは嬉しさの衝動に耐えられなかったようで、またナツキを抱きしめた。



「ちょ、ちょっとショウキっ」



 ショウキは心底嬉しそうに笑っている。



「まったく、二人の世界入ってるよ」



 ハンが呆れてマリに肩をすくめて見せた。



「でも、よかったですね」


「ああ。俺の変な気持ちにも答えが出たし」


「ハンも感じていたんですか? 嬉しさ」



 姫たちの創り主がショウキを愛していたのなら、その影響が創られたものにも残っているのは頷ける範囲だろう。


 それにしてもショウキとナツキは再会をかみ締めすぎである。



「すいませーん、そこのバカップル、俺たちのこと忘れんなよなー」



 それを聞いて、ナツキがまた慌てて放れた。ショウキは平然としているが、ナツキは顔が真っ赤だ。

 ショウキは姫たちに改めて挨拶した。



「ずっと捜していてくれてありがとう、二人とも。俺にこんなに味方がいたこと、嬉しく思う。……待たせたな。そろそろ始めようか」



 マリは笑みを見せながら首を傾げた。



「何をですか?」


「決まってるだろう? 壊すんだよ」


「何を?」



 今度はハンが質問した。それに対してショウキは眉根を寄せる。



「二人とも何を言っているんだ? 村だよ。村を壊すんだ。長い間待たせてすまなかったが、やっと思いを果たせる」





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