フェルテ編 2
早速ユーグは回帰派の修道士達に指示を出し、まだ広場に来ていない村人を呼ばせて村人全員を広場に集めた。
そして改めてこの場に居る皆に伝える。
「さて、クレーの皆さん。先にも話したが、今回の支援はこちらの紙の通貨を配給し、その通貨で用意された物を買うという形で行う。食料は皆に行き渡る様に購入制限をかけさせてもらうが、他は好きに購入して頂いてもらって結構。そして、この紙の通貨はこちらが求める労働をしてくれた場合、それに応じた紙の通貨をお渡ししよう。つまり、働いた人がより多くの商品を買う事が出来るという仕組みだ。皆さんには是非とも多くの物品を求め、労働を選んで頂きたい」
説明は先にもしていたので困惑の表情は少ない。代わりに、ユーグという男は何を要求してくるのか、それに身構えている様子。
そんな村人達に向け、ユーグは要求する仕事内容を告げる。
「ではこれから配給を行うの訳だが、村の皆さんには修道士の指示に従って配給の手伝いをして欲しい。手伝ってくれた場合、最低でも五千フィル、さらに働きに応じて追加の報酬も約束しよう」
村人たちの反応は、正直拍子抜けといった感じ。
労働を要求していたから何をさせるつもりかと思っていたら、自分達への配給を手伝うという子供でも出来そうな内容。そして五千フィルという子供でも持っていそうな金額の報酬。大変そうじゃなくて安心、だけどあんまり貰えないなーといった所だろう。
(え?それだけ?貧しい人達を救うのにそれじゃあ全然足りないんじゃあ…)
経済知識の全く無いフェルテだけど、それでもこれだけは分かる。五千フィルは少し多めの子供の小遣い程度の金額。働きに応じて報酬を増やすとはいえ、この金額では貧しい人々を救うなんて到底不可能だ。
ユーグの提案を受け入れ、配給の手伝いをする事に決めたのは村民の二割程度だった。
一応、村民の皆は貧しくて困っている身ではある。しかし、紙の通貨というのはあまりにも未知で未確定な代物すぎた。いきなり新しい種類のお金作ったよ、これあげるから働いてねと言われてもそうそう飛びつく訳がないのだ。それに一番必要としている食料との交換が制限されている上、金額も少額。手伝いを選ばない人が多いのも無理はない。
一方で手伝いを決めた人もそれなりに多い。金額的には少額ではあるが、仕事内容は子供でも出来そうな手伝い程度、貧しくて少しでもお金が欲しいという事情があるし、何よりマルザ教の配給は自分達のためのものでもある。それで日用品を多く買う事が出来るならと応じた様だ。
応じてくれた人達はユーグに言われた通り、回帰派の修道士達の指示に従い配給の手伝いを進めていく。
簡易的な露店を組み立て、回帰派が予め用意していた物資を並べて買い物が出来る準備をし、炊き出しでこれから皆が食べる料理を作る。これまでは修道士達とマルザ教が雇った人がやってくれていた様な仕事を村民達がこなしていく。
他の修道士達と同様、フェルテも村民達に指示を出して働かせていた。
「その品は1番の棚の2段目に置いてください。そっちはここに立てかけて…」
(うーん、これで良いのかなぁ…)
フェルテはただ指示出しをするばかりで手を動かしていない。手持ち無沙汰で余裕がある。指示の内容も単純で簡単なもの。これなら自分も一緒に働きながらでも指示出し出来るだろう。にも拘わらず、他人を働かせて自分は口だけ。その状態になんだか罪悪感を感じてしまっていた。
フェルテは少し考え、決意する。
「私もやりま…」
と、フェルテが自分で品を持って手伝いを試みたその時、
「こらそこ!村人の仕事を奪うな!」
ピシッとした口調でユーグがそれを止める。
「でも、村人だけを働かせて自分は口を出すだけなんて…。私は、手が空いているのなら手伝った方が良いと思うんです。そっちの方が仕事も早く終わりますし…」
「貧しい人達を助けるためにはちゃんと働かせる事とちゃんと報酬を支払う事の二つが必要不可欠なんだよ。本気で助けたいって思うなら、下手に手伝わずに指示を出しとけ」
「むー…」
釈然としない。自分が働かない事が相手のためになる。フェルテには全く理解できない考え方だった。
ユーグとメリエの二人は暇そうにしている。指示を出す事もせず、ボーっと働く人達を眺めているだけ。フェルテとしては、手が空いているのなら手伝えば良いのに。そう思わずにはいられないのだ。
しかし、回帰派はユーグの策を実行する事に決めており、フェルテは回帰派の一員。ユーグに違反や違法行為等がない限りは従うしかない。
支援のために来ているのに働かせてしまっている事に罪悪感を覚えながらも、フェルテは渋々村民へ指示を出して働かせるのだった。




