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1-29「コスプレ王女と商い人の祭日」



「商い人の祭日?」


 クラウディアの冒険に付き合い、チーノと死闘を繰り広げ、次期国王候補となった激動の一日が明けた俺は、いつもの円卓で朝食をとっていた。

 フリスは寝坊したのか、なんなのか理由はわからないが、来ていない。その為、俺とエゼル、クラウにアーデ。おまけにフェオの4人と一柱。円卓にかけているのはたったの三人と、いつもからするとかなり殺風景な朝食会となっていた。


「うむ、今日は二か月にも及ぶ雨期明けの祝祭があるのだ。規模としてはあまり大きいものではないがな」


「今雨期明けなのか」


「えぇ、勇者様はよい時期に転生してきましたね」


 そんな旅行みたいな。


「それにしても雨期に乾期か、この世界にも四季はあるのか?」


「えぇ、四季自体はあるのですが……サンブリアには冬が来ません。ですからここは実質雨期と乾期の二つのみですね。年明けの第一月から第四月までが雨期、第五月から第八月が乾期になっています」


「あれ? 一年は八か月しかないのか?」


「えぇ、そうですが?」


「いや、俺が元いた世界と違うから驚いたんだ。いや同じってのもおかしな話なんだが……」


 そもそも公転周期どころか惑星や太陽?の質量ごと違うんだ。暦が同じになるはずがないか。一日の長さは奇跡的に同じのようだが、これも24という数字で表せるだけであっちの長さとはずれている可能性はある。

 そんなことは検証の仕様がないが。


「ちなみに一か月は何日で構成されているんだ?」


「第一月から第八月、全ての月に六つの週が存在していますわ」


 一週間が七日構成なのは確認済みだから、42×8で336日か。年当たりの誤差は29、そこまで大きい誤差はないようだ。

 と、この時俺はそう考えていた。


「今日はその5番目。大地の月、三週目の日曜日です」


「日曜日は日曜日なのかよ」


「? 他に呼び方があるのでしょうか?」


「いや、こっちの話だ、気にするな」


 そういって俺は珍しく近くを飛んでいたフェオに小さな声で話す。


「……なんでここだけ同じなんだ」


「逆に聞きますが、リクは同じものを創るときに手順を変えるんですか?」


「それは、まぁ。変えないな」


「でしょう? どうせ両方見る人なんてほとんどいないんですから、ちょっとくらい手を抜いたっていいじゃないですか」


 天地創造を一体なんだと思っているんだ? 俺はもともと神様なんて信じていなかったからいいが、信心深い人からすればコピペ感覚で世界を創られたらたまらないだろう。


「といっても、別に私がこの世界を創ったというわけではないんですが」


「そういや、見習いやってまだ50年だしな」


「ほっといてほしいんですよ」


 50年という年数の長さが、神様にとってどのくらいかはわからない。恐らく長くはないはずだ。そういえばフェオが神様見習いになる前はなんだったのだろうか。天使? それとも人間? まぁこの手の質問は正直に聞いても答えてくれないんだよな。

 今度、鎌をかけて聞き出すか。

 というのは置いといて。


「ってことはまた式典か。なら、少し急がないといけないか」


「いや、今日はリクの出番はないぞ? 民草の祭事であるといったであろう。むしろそのような場に王侯貴族が出て行っては気を使わせてしまうではないか」


 なるほど、規模は大きくないといっていたし、田舎の夏祭りみたいなものか。もしくは学校の文化祭。教師が歩き回るような文化祭は生徒の楽しみも半減だろう。


「そうか、確かに俺たちみたいなのが大っぴらに歩いたらまずいな」


「うむ」


「大っぴらに歩いたらまずいな」


「……うむ」


「大っぴらに――」


「行きたいのだな」


「うん」


「行動力に溢れているのはよいことだが、昨日の今日であるぞ。流石に体を休めてはどうかな?」


 そうエゼルバルトが呆れた顔で、デザートのオランジェットをかじりつつ俺に休暇を進めてくる。ちなみにデザートがやたら柑橘系なのはエゼルの趣味だ。


「式典続きで実際に城下町を見て回る機会はなかったからな。こっちの風土や市井の暮らしも見てみたいんだよ」


「そういうのならば致し方ないが。サンブリアは広い、一人で行くのは余り褒められたことではないぞ」


「大丈夫だ。方向感覚には自信がある」


「この城内ですら迷子になっていましたよね? ていうか、今でもたまになってますよね?」


「いや、迷ったら城を目指せばいいんだろ? 楽勝楽勝」


 王城はサンブリア王都、どこから見てもその姿を見ることができるほど大きく、高台に立地している。真っ直ぐ歩けばいつかつく、はず。


「リクって遭難したら下山して死ぬタイプですよ」


「自覚してる」


「なら何とかしてほしいんですよ……」


 フェオの言葉が朝食会の沈黙に消え入る。


「……それなら私も一緒に行きましょう」


「クラウが? いいのか?」


「えぇ、幼いころはエル君と一緒に、王城を抜け出して祭事に潜り込んでいたものです」


「フン、認めたくないものだな。若さゆえの過ちというものは」


 いくつだお前は? と言いたくなるが、流石の俺も国王相手にそんな失礼なことは口が裂けても言えない。


「15である」


「なん……だと?」


「珍しく視えたのだ。思ったことを口に出したパターンの分岐がな。ふっ思慮深いのは結構だが、余計なことを考えれば寿命を縮めるぞ?」


 なんつう恐ろしい理外魔術だ。現実にはならなくても、あったかもしれない可能性まで見ることができるのかよ。

 しかも俺は現世界展開のおかげで特段視にくいはずだ。それでこれか。エゼルの気苦労がうかがい知れる。


「エル君、そんな脅しをかけなくても勇者様は大丈夫ですよ」


「わかっておる。余はこれえでもリクを“信頼”しておるからな」


「ハハハ……。まぁ、肝に銘じておくよ」


 笑えねー。


「ともかく! 祭りに忍び込むならそれ相応の変装をしなくてはなりませんね! カサンドラ」


――バンっ! 


「お呼びですか」


「なんかもう慣れたな」


「リク様がそうおっしゃるなら、次回からもっと趣向を凝らしましょう」


「スマン、ごめん、やめてくれ」


 俺がこの王城に来て一番に学んだことは、この人に好き勝手やらせると大変なことになるということだった。そして、それはここに住む人間の共通認識でもある。


「祭事に忍び込みための衣装を」


「リク様のものはこちらに、クラウディア様はこれらの中からお好きなものを」


 そういって俺にはハンガーにかかった衣服一式を預けてきた。そしてクラウにはキャスター付きの衣紋かけを走らせ、ダース単位でワンピースとドレスの中間のような衣服を持ってくる。

 実はカサンドラも未来予知を持ってるんじゃないか?


「うーん、もう少しすすけているものはありませんか? 田舎から出てきたばかりの町娘という路線でいきたいのですが」


 こだわりが凄い。そういえば昨日も冒険家という設定は貫いていた。


「なりすますとはいえ、クラウディア様にあまりみすぼらしい恰好をさせるわけには……」


「外聞を気にしていては仮装などできませんわ」


「クラウ、今日は雨期明けを祝う祭りなんだろう? 町娘でも自分の見てくれには気をつかうんじゃないか?」


「…………なるほど、確かにそうですわ。そんな簡単なことにも気づかないとは、私もまだまだですね」


 なんか納得してくれた。言ってみるもんだな。


「それならば……こちらのものにいたしましょう。エル君、寝室を借ります。カサンドラ」


「ご髄意に」


 そういって選んだ衣装をもって奥の扉に入っていくクラウ。流石に王女としてどうかと思うが、そんなことは今更か。姉弟なんてこんなもんかもしれないし。


「終わりました」


「早いっ!」


 10秒かかってないぞ。着る方のつくりはそうでもなかったが、脱いだ方はいつも着ている純白のドレスだったのに。


「ささ、勇者様も早く」


 すっかりクラウの方が乗り気になっている。


「カサンドラ、お願いします」


「えっ? いや、このくらい自分で……」


「よっこらせっと」


「ちょっ、待ってくれって。カサンドラっ!」


「リク様、命令には優先順位というものがございます。私はサンブリア王家直属ですので」


 またもやカサンドラが俺を軽々と持ち上げる。カサンドラはそのまま軽快なステップで王の居室から出ていく。もちろん一度振り返って礼を忘れなかった。

 その揺れと、地面とカサンドラの下半身しか見えない視界に少し初心を思い出す。


 そんなバーニシア城の朝だった。


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