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1-21「コスプレ王女と矜持」



「……というわけなんだが。わかったか?」


「なるほど、そういうことか」


 新しいパターンだな。まぁ、一からきちんと説明したから当たり前だが。


「こう見えても俺は伝説?の勇者で、彼女はこの国の王女だ。大人しくしているなら、これ以上の危害は加えない」


「暴れないのならここに放置してもいいんじゃないの?」


「アーデ、依頼」


「あそっか」


 忘れてたのかよ、まぁこんなことがあったのだからわからなくもないが。ここに神獣を置いておいたら、当然、外にガルムルフは集まり続ける。こんな分厚い地面ごしにどうやって集まってくるのか多少興味はあるが。今はどうでもいい。


「だとしても、これだけの力を持った神獣を野放しにすることはできないよ。せめて従属刻印ぐらいは刻んでおかないと」


「従属刻印? なんだそれは?」


「人間と魔獣や魔物が契約する時に交わす刻印の一種。契約の形態によっていろんな種類があるんだど、 大体は主側の命令に強制力を持たせるもの。それでもほとんどの刻印は主側にもペナルティがあったり、条件を満たさないと刻印自体が消えてしまうけど、従属刻印にはそれがない。

 というかリクはなんで知らないの? フェオちゃんはリクの使い魔なんだよね?」


「? どうしてだ?」


「使い魔と契約するなら普通使うものなんだけど……。そもそもなんの刻印もないなら使い魔とはいわないし」


 そうなのか、といっても流石の俺もフェオを従属させる気にはなれないな。一応神様なんだし、本当に使い魔にしたら流石にバチが当たってしまいそうだからな。

 神獣が暴れないようにするための保険か、にしてもそんな魔術があるってことは――


「それって人にかけれたりしないのか?」


「……従属刻印は無理、そういう仕様だから」


「含みのある言い方だ」


「リク分かってていってるでしょ、確かに人に対してかけれる刻印もそれの応用で作られてある。もっとも今の時代、捕虜以外に使ったら即刻死刑だけどね」


「厳しいな」


「それが初代国王様の行った『奴隷解放』。法典が編纂されたのは……確か去年に30周年記念祭があったから31年前」


 以前は身分として奴隷が存在した。か、俺の世界でも昔は存在していたとはいえ、価値観の相違を実感せざるをえない。

 にしても初代国王がこっちの世界に来てから奴隷解放まで20年も経ってるぞ、まさか自分の奴隷を囲ってから禁止にしたんじゃないだろうな?

 まぁ、この際それは置いといて。


「どうやらこいつはもう限界が近いみたいだしな、俺たちとの戦闘でかなり消耗したんだろう」


 もっともその要因のほとんどが俺の現世界展開による魔力の排斥だが。一時的とはいえ体中の酸素をなくすようなもんだ。そう考えると生きているのが不思議なレベル。

 神獣はそれを否定も肯定もせず沈黙している。思案気な表情で瞳を閉じて考えこんでいた。そして


「ふむ、断る」


 拒絶の言葉を告げた。


「なぜだ?」


「……我はこのねぐらに来る以前、森の護り神として信奉されていた」


「記憶が残っているのか?」


「微かに、な。具体的なことは何一つ思い出せん」


「……そうか」


「どこにいたかも、だれがいたかもな。あるのはただ森を護るための人間との戦いの記憶…

…それのみよ」


 神獣の過去を噛みしめる遠い目、この大空洞ではどこを見ても、その先には分厚い壁以外存在しないが。

 そして時間の壁というものはそれよりもさらに厚い。


「だが、ある時人間の権謀に嵌り、深手を負った。そして森の民に連れられここに閉じ込められたのだ。それ以来、迎えが来るまでここで眠り続けておった」


 神獣はゆっくりと瞬きを二度、そしてそのまま瞳を閉じたままにしていた。


「我は神獣として信奉されていたのだ。他者に仕えるなど、その誇りが許さん。これ程の時がたったのだ、もう迎えなど来んのだろうな……それに、もう、眠るのにも飽いた。


 ……殺してゆけ」


「うーん、しかしな」


「くどいっ!」


――メリメリメリっ!


 叫びと共に神獣が両足を岩盤から引きがそうと力を籠める! 


「貴様っ!」


 大剣を構え切りかかろうとするアーデ、俺はそれを手で制する。判断が早いのか、単純に頭に血が上りやすいのか。まぁ両方だろうな。

 そういきり立たずとも引き抜けなどしない。もし引き抜けたとしても戦う余力なんてこいつには残っていない。どうやらこいつは余程死にたいらしい。


「神獣よ、ここはひとつ、俺の身の上話でも聞いてくれないか? 彼女に切り殺されるのはその後でも構わないだろう」


「……フン、勝手にしろ」


 神獣は両足に込めた力を抜き、返答代わりに砂埃を舞い上がらせる。もっともそれ以上の力が残されていたかったかもしれないが。


「恩に着る、そうだな。あれは確か二年前……」


「くどい、短くまとめろ、嫌われるぞ」


 くっそ、やっぱり首をはねてやろうか。


「俺は転生勇者っつう存在でな、一回死んでるんだよ」


「何? 貴様も転生者なのか?」


「も? 転生者の知り合いでもいんのか?」


「…………フハハハハっ!

 いや、なるほど。貴様の特異さ、合点がいった。そうか、そういうことだったのか」


 一転して神獣が破顔一笑、その声が洞窟中に響く。ていうかこれクラウ達には咆哮に聞こえているんじゃないか?

 案の定フェオがあたふたしながら、身振り手振りで説明している。

いい気味だ。


 にしても転生者か、どうやら俺と初代国王以外にもこの世界に転生してくる人間は存在するらしいな。多分どっかの神様見習い(フェオとは言ってない)に放り込まれたのだろう。南無三。


「ともかくだ、俺は死んだあとに女神様に言われたんだよ。別の世界で生きてみないかってな?」


「貴様はそれを受けたんだな」


「最初は断ろうと思った」


「話がつながらんぞ、なら殺してゆけよ」


「焦るな焦るな……理由はまぁ、アレだ。お前と似たようなもんだよ、孤独感で死ぬことすら受け入れていたんだ」


「……我は貴様とは違う」


「そうかもな、でも俺はどうせだから生き続けることにしたんだ。誰も知っている人のいない新しい世界で。

 やり直せる、なんて思っちゃっいないし、そんなことを思うのはあっちの世界への冒涜だ。恥の上塗りでしかない。

 ただ俺は自分の生き方を見極めていくために、こっちの世界でも自分の正しさや間違いを肯定するために、自分らしく生きようって思ったんだ」


「だから、何だというのだ」


「そんなに死にたいなら、ここで死んだつもりでもっと生きてみろよってことだ。迎えが来ない? ちげぇよ、俺が来たんだ、俺達が来たんだ。

 ちょうどいいじゃないか、俺達と一緒に新しい世界でお前らしく生きてみないか? 生まれ変ったとか、そんな大層なもんじゃなく、死んだお前の延長線上で」


 大空洞に満ちていく沈黙。

 だがそれはさっきまで満ちていた静寂ではなく、空間が態度を決めかねて揺蕩っているような沈黙。


「……いや、やはり」


「くどい! どんだけ生きることをやめたいんだ!? 俺だってこんなごねなかったぞ?

 大体、神獣の癖に能書きが多いんだよ! お前、最初に言ったよな? 好きにしろって、だったら俺は勝手にお前を連れていく、俺たちは勝ったんだ。

 プライドがあるっていうのなら、自分の言葉にぐらい責任を持ちやがれ!」


 まくし立てた俺に神獣も、クラウもアーデも、そしてフェオまでもあっけにとられている。

 曖昧な態度に思わず言いたいことを吐き出してしまった、無論後悔はしていないが、流石に怒らせただろう。

 長い沈黙のあと、そして――


「フハハハハハハハっ! 不遜もここまでくれば賞賛に値する!

 なるほどなるほど、我にも敗者の矜持を示せというのか!」


 先ほどのものを遥かにしのぐ大爆笑。

 一瞬、怒りを通り越したのかと思ったがそういうわけではないらしい。


「確かに、敗者は勝者に従うことは大自然の摂理。その長たる我が逆らっては示しがつかぬな。

 転生勇者よ! 貴様、名はなんという?」


 その問いに、胸が高鳴る。


「リクだ。

 リク・トーカ・イリン」


「よかろう、リク・トーカ・イリン! 貴様を我が主として、そして群れの長として認めてやる! その末尾に我も加わるとしようじゃないか!」


 神獣の言霊が大空洞の中で反響を繰り返す。

 その衝撃と振動と共に、この強大なる神獣が俺達の仲間になった。そのことの実感が沸々と、俺の内側から湧き上がってきていた。



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