1-19「コスプレ王女とアフターケア」
「それにしても勇者様、なぜそんなにボロボロなんですか?」
クラウが俺の方を見て、不安げに尋ねる。
確かに俺の着ている服はあちこちが裂けており、裂傷も数多く負っている。ガルムルフの攻撃ですでに負っていた分もあるが、クラウからしてみれば劇的ビフォーアフターだろう。
「うん? あぁ、これはな――――
分岐路・行き止まりにて
「フェオ、出てきてくれ」
俺はそう言って、懐から藍色の水晶を取り出す。
こんなこともあろうかと、既にアーデから返してもらっておいたのさ!
「はいですよー」
「状況は大体わかってるな」
フェオは水晶の中でも会話は拾えるといっていたはずだ。
「ここどこですか?」
「一回来ただろ、テンポが悪い」
「出会いがしらのダメ出しはもはやあなたの特技ですね」
不名誉な上に、何の意味もない特技を手に入れてしまった。
俺はそう思いながらも当たりの壁を探る。
走ってきてはっきりと分かった。やはりここはあの大空洞の真上に位置している。俺たちの戦いの余波か、そこかしこに大きな岩が落ちていた。そして何より、薄くなっていた壁に微かにひびが入っている。 時間をかければ、普通に穴をあけれそうだが……
「今は時間が惜しい。フェオ、創造魔術だ」
「またスルーですよ……。で、なにを作ればいいんですか?」
「爆薬」
「もう少し具体的に言ってもらわないと」
困ったな、爆薬の物質名なんてそんなに知らないぞ。原子爆弾は論外として、黒色火薬……ってなんだ? 硝酸カリウムだったっけ、単体で爆発すんのか?
ならTNT爆弾とか、TNT? 何の略だ?
「…………トリニトロトルエン?」
「なんで疑問形なんですか、量は?」
「わからんから上限量」
「……ほんとに大丈夫ですか?」
「時間が惜しいって言ったろ、こっちの壁に塗りたくってくれ」
垂らした衝撃で爆発しても、まぁフェオは大丈夫だろう。さりげなく距離をとっておこう。
「はいはい、わかりましたよー、創造魔術・液体精製!」
フェオの出し方がうまいのかはわからないが、爆発することはなかった。だが、徐々に液体の固化が始まっている。どのみちもたもたはしていられないな。
「あまりマナは使いたくないが、伝雷魔法・発雷!」
第五類危険物だったなとはなんとなく覚えているんだが、どの程度の衝撃で起爆するか自信がない。念には念を、流石に火花があれば確実だ。
「リク、まさか直接……」
「フェオ」
「なんですか」
「行くぞ」
そうして俺は壁に、雷を帯びた一閃を叩き込んだ。
「いやー、起爆を色々試す時間が惜しくてな。あんまり爆破から間を置くと警戒されるだろうし」
「仕方がないとはいえ、あまり無茶をなさらないでください」
そう言ってクラウは俺に回復魔術をかけてくれる。その両手から放たれる優しい白い光が、どことなく気持ちいい。
「二人に足止めを押し付けたんだ、こんなもの無茶でも何でもない」
「そういって理由をつけてなんでも背負い込むところ、アーデにそっくりです」
「マジかよ……」
「なんで嫌そうなの?」
「別に嫌ってわけじゃないが」
アーデに似ているといわれるのは光栄といえば光栄なのだろうが、素直には喜べない。多分アーデのことを尊敬する反面、理解できないとも思っているからだろうな。
目の前にいる彼女とは文字通り生まれた世界が違う。そんなジョークみたいなことじゃなくても、生まれ持ったもの、育ち方、性別まで異なるのだ。
俺には自分の主義主張に殉じるなんて真似はできそうにない。
「俺はこんなものでいい、それよりアーデに」
「いえ、もう少し……」
表面に見える大きな傷の血は止まっている。クラウにも疲労の色が濃い、失血死しない程度に止血してもらえれば十分だ。
「……私は帰ってからで大丈夫」
洞窟の少し薄暗い灯りではよくわからなかったが、アーデもかなり負傷している。俺もだろうが粉塵でかなり衣服が汚れているし、鎧の下のインナーからは血がにじんでいる。
足止めをしていた時、アーデのことだ、クラウをかばいながら戦ったはず。
傷跡が残らなければいいが。
「アーデは全く、素直じゃないなぁ」
「ええ、私も困っているんです」
「リクにだけは言われたくない!」
「心外だな。まぁどちらにしても、あまりクラウ困らせるなよ」
「それは……わかってる」
アーデはしょさいなさげに頷く、彼女にもそれなりの自覚はあるのだろう。クラウの治療を素直に受け入れていた。
「さてと、待たせて悪いな」
俺は視線をうずくまっていた神獣へと向ける。話しかけられたことに気づいているようだが、返答を返すことはなかった。
「……介錯なら私が」
そういってアーデはクラウの治療から離れ、落ちていた大剣を拾いに行こうとする。
「ちょっと、アーデ」
「まぁ待て」
「ひぎゅっ!」
アーデの奥襟をつかんで引き留める。
「ひぎゅっ」か、こうゆう悲鳴もかわいいと感じてしまう俺は、結構猟奇的な性癖でも持っているのだろうか。
「そう焦ることないだろう」
「息が、息が一瞬とまったぁ!」
「首の鍛錬が足りないな」
「リク、最近私の扱いがひどくなってきてない?」
「気のせいだ」
「仲良くなった証拠ではないでしょうか。でも勇者様、暴力はいけませんよ」
そういってクラウが笑いかけながら俺を諌めてきた。いかんな、どうもアーデに対して男友達のような感覚で接してしまう。
「あれだよ、剣を交えると、って奴の一環だ」
「剣欠片も関係ないじゃない」
「暴力はいけませんよ?」
クラウは表情をピクリとも変えずに繰り返す。彼女のような均整のとれた顔でやられると、不思議な恐ろしさがある。
彼女の神々しさすら感じる美貌ゆえだろう。
「えーと、俺のいた世界にはボディランゲージという言葉があってだな」
「暴力はいけませんよ?」
「……はい」
ぐっ負けた。
「それでは介錯は私が」
「だから待て」
「ひぎゅっ!」
「勇者様?」
さっきと同じことをやった俺にクラウが笑顔で睨んでくる。もう一度言う、笑顔で睨んでくる。
「うっスマン。
だが、アーデも人の話を最後まで聞いてくれ、どんだけ首を落としたいんだよ」
「くぅ、で、どうしたの?」
アーデは自分の首をさすりながら起き上がり、訝しげに聞いてくる。流石にやり過ぎたかもな、少し怒っているみたいだし、あとで謝っておこう。
「なぁ神獣、俺達とここをでないか?」
俺の言葉に、神獣の眉が微かに動いた。




