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1-6「コスプレ王女と討伐依頼」



「それでさっき倒したのがガルムルフでいいんだよな?」


 俺達はゆっくり昼食の後片付けをしながら、小休止していた。草原を駆け抜けていく風が気持ちいい。

空の色もあちらの世界よりも澄んだ青色をしているようだし、昼でも美しい衛星が見えるのはどこか神秘的なものを感じる。


「リク、知らずに戦ってたの?」


「いや、なんか聞きそびれてさ。なんとなくそうだろうぐらいで戦ってた」


「知らなかったなら聞いてくれればよかったのに」


 シートをたたんでいたアーデに呆れられてしまう。

 いわれてみれば確かにそうだな。事前の確認を怠るなんて最初の依頼とはいえ失念していた。


「すまぬ」


「別に謝ることじゃないけど」


「いや、こういう情報不足は大きなミスに直結する。いくらなんでも気を抜いていたな」


「フフ、勇者様は真面目ですね」


「実力で劣ってるんだから、こういうところで差を埋める努力をしないといけないだろ」

 

「相変わらずリクは卑屈ですねぇ。あなたはもう少し自分に自信を持ったほうがいいと思うのですよ。神……使い魔からのアドバイスです」


 また神様っていいかけたな。


「話を戻すけど私達がさっき倒したのはガルムルフの幼体で、軽い魔法なら無効にできる青い体毛と強い縄張り意識からくるどう猛さが特徴なの。まぁ幼体の分、知能は低いから魔法を使ってきたりはしないけど」


 ということは知能の高い魔獣は魔法を使えるってことか。本能で使えるのか、もしくは原理が理解できるほど頭がいいのか。


「つまりクラウの魔法は軽い魔法ではないと」


「当たり前じゃない、リクにはあれがそう見えたの?」


「まさか」


 マナの放出量の関係でそのタイプの魔法をまともに使えない俺はもちろん、アーデが稽古の時に見せてくれた風属性魔法と比較しても別格だった。


「これでもかなり加減したんですよ?」


 マジかよ。


「にしても、ガルムルフはあの大きさで幼体なのか?」


「うん、そうはいっても成体のガルムルフはもういないって言われているんだけど」


「は? 幼体がいるのに成体がいないってどういうことだ?」


「うーん、幼体っていっても2~3年で繁殖自体はできるようになるんだよね。

で、成育年数が20年を越すと急激に大きくなって、最大で体長30mを越す大きさになった個体もいたらしいよ。

 だから昔は神獣として恐れられていたんだけど、目立つし凶暴だからどんどん討伐されていったんだよね」


 ようするに化け猫と。

 成育段階というよりサイズが違いすぎるから区別しているんだな。出世魚のようなものか。


「なるほど、ならこんな森の奥なら小さめの成体なら隠れて住んでいるかもしれないな」


「成体がもしいたとしても、それはちょっと考えずらいかな」


「? どうしてだ?」


「サンブリア領近郊でガルムルフが見られるようになったのはここ数年だから」


「どっかから移り住んできたものだってことか」


「そういうこと。少なくともここ2~300年の文献だとガルムルフがこのあたりにいたという記録はない」


 やはりこの世界の主な情報媒体は紙なのだろう。まぁ物自体がかさばるのと管理のめんどくささを除けば、磁気媒体と比較してもそう悪いものではないが。

 にしてもアーデは博識だな、直前に調べたという風には見えなかったし。


「ところでアーデは今回の大量発生の原因はなんだと思うんだ?」


「うーん、ガルムルフは幼体同士だと個体間でも縄張り意識があるから群れをなせないはずなんだけど、今回のケースは明らかに集団的に行動しているよね。理由としては4つかな」


 そういってアーデは指を四本立てて前へかざす。


「一つはリクが今いった、密かに成体が存在して、その個体を中心に群れを形成しているパターン」


「おいおい、それはないんじゃなかったか?」


「あくまで可能性の話。低いとは思うけど0じゃない。まぁでも、こんな数十匹も引き入れられる群れのリーダーの目撃情報が無いのはおかしいし、これは除外かな」


「その次は?」


「餌場、もしくはガルムルフの好むマナの非常に濃い場所が近くに存在しているパターン。素直に考えたらこれが一番っぽいんだけど。本来の生息域はもっと北のはずなのにわざわざこんなところまでーとはなる。まぁあり得なくはないかな」


「アーデはそのような場所に心当たりはありますか?」


「いえ、私もこのあたりの地理には詳しくありません。浅学でした、調べておきます」


 アーデは依頼で行く可能性のあるすべての地域をしらべるつもりか? その理屈だとこの大陸中の風土全てが対象になるぞ。

 クラウのためならやりそうだが。


「3つ目は群れをなさないと対抗できない外敵が近く生息していて、そこから逃げてきたとか」


「別の場所から追われてきたってことか」


「一見辻褄あうんだけど、そんな報告はあがってないし。そもそもそれが原因だったら今日中にはどうしようもないので考えないでおく、次」


 それでいいのか?


「最後は人為的に集められたパターン。召喚契約をするとか、単純に人里を襲わせるとか。要するに人のせい。万能」


「アーデ、だんだん面倒くさくなってるだろう」


「だって考えたって仕方ないし、討伐も依頼内容に入っているんだしとりあえず片っ端から倒してその後考えよう?」


 その方が合理的といえば合理的か。片付けも終わったし、休憩もこのあたりでいいだろう。俺は手入れをしていた剣を日光にかざしその耀きを確かめる。

 俺の不器用さからすれば上々だ。


「クラウはどう思う?」


「アーデに賛成です。私もそろそろ魔法を打ちたくなってきましたし」


 うちのパーティーメンバーの女性陣は割と好戦的だ。

 そもそも女性しかいないけど。


「それじゃあ行くか、アーデが吹き飛ばしたガルムルフももう巣に戻ってる頃だろしな」


「この休憩にそんな意味が」


「当たり前だろう、邪道剣士は万に通ずる」


 もちろん今思い出したが。


「また、調子のいいことを言って誤魔化しているんですよ……」





「ここだな」


「ここですね」


「どう考えてもここです」


「か……使い魔的にもここですよ」


 そう口をそろえていう俺たちの前には、生い茂る草花と岩場に隠れた洞窟がぽっかりと口を広げていた。その前には真新しい獣の足跡が軽く20はある

 吹き飛ばしたガルムルフの後を素直に追ってここまできたが、途中何度か交したことから考えても間違いないだろう。


「この分だと2番が正解かな?」


「決めつけるのはまだ早いんじゃないか」


「どうして? まさかリク、マナの気配を感じてないの?」


 もちろん感じてはいる。洞窟のなかからは大気中にマナが満ちていることからくる独特の圧迫感が漏れ出ているからだ。俺の体感によると今いる森林の3~4倍ぐらいの濃度はある。


「いや、それはわかっているが。アーデ、何事も決めつけはよくないぞ? だからお前の剣筋は読みやすいんだ」


 剣のことを引き合いに出されたからかアーデは少しムッとしている。


「今は私の剣のことは関係ないでしょう」


「うーんと、じゃあアーデじゃんけんしようぜ」


 ちなみにじゃんけんの文化は初代国王によってすでに広められている。もともと似たようなものがあったらしく、そのためにすぐ一般的になったそうだ。

 初代国王もなかなかいい仕事をしてくれたものだ。


「? いいけど? どうして?」


「細かいことは気にするな、いくぞ。俺はグーを出すからな」


「初歩的な誘導ね」


 アーデはいつも呼吸をするように負けフラグをたてる。


「「最初はグー」」


「「じゃーんけん、しょ!」」


 結果は俺がグーで、アーデがチョキだった。


「うっ」


「こういうことだよ」


「ふんっ! じゃんけんで勝っただけじゃない」


「お前は自分の勝ちパターンや考え方を疑えないんだよ、まぁそこがいいところともいえなくもないけど。戦いでもなんでも裏をよむってのは重要だ」


「裏をよむ……か、リクが好きそうなことだね。でも割とリクは深読みして、ドツボにはまってることが多いと思うけど」


「ほっとけ、読みが浅いよりましだ。なんにせよアーデは知識自体はあるみたいだし、もっと視野を広く……広く……」


 そう自分でいいながら視野を広げるとあることに気づく。


「どうしたの?」


「クラウがいない」


「勇者様、アーデ、先に行きますわよー」


「ですよー」


 クラウとフェオが大手を振りながら、魔獣の巣窟へと入っていくのが見えた。


「「ちょっと待って!」ください!」



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