1-5「コスプレ王女と昼食タイム」
「リクは転生する前の世界でなにかやっていたの?」
流石に動物の死体を眺めながら昼食をとるのは優雅とはいえないので、アーデと一緒に魔獣の死体をどかしているとそんなことを聞いてきた。
にしても何のこだわりか知らないが、アーデの切った奴が全て真っ二つになっているんだが。
「いきなりどうした? 剣道は結構やってたし、あとは居合道をかじった程度だな。他は全部遊びの範疇だ」
「いあいどうって?」
「今は専用の刀がないし、今度説明する」
ちなみに剣道についてはアーデと稽古しているときに聞かれたため、その時に軽く教えてある。
アーデ曰く、礼を重んじるのはいいけどいちいち長いとのことだ。
ほっとけ。
「狩りのひとつでもやっていたのかと思った。こういう魔獣でも最初はみんな躊躇して殺せないものなんだよ」
「アーデもそうだったのか?」
「……そういえば6歳の時に野ウサギを殺しなさいと言われた時はビービー泣いてたっけな」
6つの時からアーデは闘いに身をおくことが決まっていたのか……。これもクラウのいっていた役割の一つなのかもな。
でもそういってなんでもかんでも諦めるのは褒められたことじゃないか。
「そっちのほうが多分普通というか正常なんじゃないか? むしろアーデの根がやさしいということだろう」
「そうかな」
「そうだろ。それに殺す相手がかわいそうだと思っていても、それを乗り越えて使命を優先できるっていうのは、なんていうかアーデらしいと俺はおもうぞ?」
「そこまでいわれることじゃないよ、ある程度強制されたものだったわけだし、今ではそんなには感じていないから」
口ではそういいつつも褒められたからか、声と表情は緩んでいる。
「いや、やっぱりアーデは優しいよ、そもそも俺はあまりかわいそうとは思わないからな」
「……それは依頼だからってこと?」
「それもあるにはあるが、こいつらは人と獣との領分を踏み越えたからな」
「人と獣との領分?」
「わかりやすくいうと人に害を与える存在になったってことだ。そうなったら善し悪しは別として戦えるやつは戦わなきゃいけないんだと思う」
「……リクってやっぱり別の世界から来た人なんだね。なんていえばいいんだろう考え方が独特っていうか」
「そんな大層なことじゃない、殺すことの正当化のために言葉を並べているだけだ。
それにどんな理由があったとしても、他の生き物の命を奪って何も感じないような奴はまともじゃない」
人は生きているだけで同種を含めて他の生物を食い荒らしている。俺はそれを無視して生きられるほど馬鹿じゃないが、それに何かを感じ入れるほど優しくもない。
要するに残念ながら俺はまともじゃなかったということだ。
まぁそっちの方がこの世界に来てごちゃごちゃ考える必要がないから、かえって都合がいいのかもしれない。
「さてと、あらかた運び終わったし、クラウに頼んで土葬してもらおうぜ」
俺はそういって魔獣の血が付いた手を軽くぬぐう。
「土葬?」
「この世界には土葬という概念がないのか?」
「いや、死者は土に埋めて弔うけど、魔獣に対してはしないから」
「今は余裕があるんだし一応やったほうがいいだろう、これも闘った相手に対する敬意のひとつだよ」
「……やっぱり、リクの考え方は変わってる」
そういってアーデ遠くに座っていたクラウを呼びに行った。そしてその横顔は少しだけはにかんでいるように見えた。
「はい、アーデ、あーん」
「クラウディア様、おやめください」
クラウに出してもらった水で手を洗ったあと、俺達は持ってきていたシートの上で少し遅めの昼食をとっていた。太陽の位置からいって正午は少しすぎているぐらいだろう。
青空には4つの衛星のうちもっとも巨大な青白い星が浮かんでいる。たしかあの星の名前はデスロットとかいったはず、たなびく白い雲とのコントラストが美しい。
そして何より目の前ではクラウとアーデがいちゃついている。
美少女二人の絡みあいとか非常に眼福です!
「だらしない顔をしているんですよ、リク」
「なんの話かなフェオ」
俺はそういってサンドイッチにかじりつく。塗ってあったピーナッツ?バターが香ばしい。
「勇者様もおひとついかがです?」
「いや、俺は遠慮しておくよ、アーデから嫉妬されてはかなわないからな」
「リ、リク何をいって」
「そうですか? なら、アーデ、はいあーん」
「クラウディア様……」
アーデはそういいながらも、差し出されたサンドイッチにおずおずとかみつき、ゆっくりと口に運んでいく。その顔は羞恥で真っ赤に染まっていた。
「おいしいですか?」
「……味なんてわかりませんよ」
そう俯きながらつぶやいた。
「やっぱりアーデはかわいいですね、そう思いませんか勇者様?」
「確かにこれには同意せざるをえないな」
「うぅー、リクまでなにいってるの……」
「アーデと一緒に食べる食事は冒険の楽しみのひとつでもありますからね! どんどんいきますよ」
そういってクラウはまた別のサンドイッチに手を伸ばしていく、アーデも口では躊躇いながらもまんざらではなさそうだ。
「リク、私にもサンドイッチをわたしてくれてもいいんですよ?」
「あーんしてほしいのか?」
「普通にください、リクこそ私にあーんしたいのですか?」
籠の中のサンドイッチから。ハムエッグのものをひとつとって四分の一に割き、飛んでいるフェオへとわたした。
そのサイズでも大きすぎるのか、なんとかはぐはぐとサンドイッチを咀嚼していく。
「フェオは魔法で運んだりできないのか?」
「もぐもぐ……、私は創造魔術しか使えませんよ」
「なんでだ? 今だって空を飛んでいるじゃないか」
「この状態は空中に出力しているだけで魔法を使っているわけではありませんよ。
今の姿は私の魂をほんの少し分けて作っていますから、能力が著しく制限されるんですよ。大体、神様である私がこの世界に直接的に干渉しすぎるのは理に反しますし」
「へぇー、そうなのか」
「できるのは軽い創造とお告げぐらいなものですね。そもそも、私が使っている創造もそう分類されるというだけであって、この世界での創造魔術とは全くの別物なんですよ」
創造魔術と言うのもカモフラージュということか、まぁフェオなら単純に気合の問題だとか答えそうではあるが。
「……なんか失礼なことを考えているような気がするんですよ」
「気のせいだ。それより軽くといったけど、それってどのぐらいだ?」
積極的に頼ろうとは思はないが、できることは知っておきたい。
「うーん、一度に作れるのは質量基準で300g程度ですかね。それも上限まで作ったら少し間をおかないと厳しいです」
毎朝カフェオレを二杯ぐらい創ってもらっているが上限量に近かったのか。それでも今朝はその後フリスに飴玉を創っていたし、クールタイムは思ったよりも短いのだろう。
「意外と少ないな、まぁなんでも引っ張り出せると考えたら十分か」
300gで致死量に達する毒物なんていくらでもある。なんなら醬油でも殺せる量だった気がする。
「それと構造のかけ離れた液体と固体を同時に作るのは難しいですよ。あと、こうして食事をするとその分のエネルギーを創造に回せるので回復が早くなります」
「腹が減るわけでもないのに食べていたのはそういうことだったのか」
「いやー、こうして食事をするというのも神様的に貴重な経験かと思いまして」
なるほど半分趣味だと。
「使いようによっては戦いのサポートぐらいならできそうだな」
「ちょっと、私をこき使う気ですか? 極力私の力は頼らないとか言ってませんでしたっけ?」
「食べている分ぐらい働け」
「ひ、ひどいですよ」
いくら神様といっても働かざるもの食うべからずは万国共通だ。この場合、万世界か? まぁどちらでもいい。
「300gじゃ武器は難しそうだな、爆薬とか作れるか?」
「構造が複雑だと難しいですが、マイナス反転は可能ですよ」
「マイナス反転? すっげー嫌な予感がするんだが?」
「300gの反物質が作れます」
「絶対にやめろ。お前の魔術で世界がやばい」
どっかのお兄様並みの魔術を使えるのかフェオは。
「もともと、私の創造は原理的には対生成を使ってますからね。そのくらいわけないですよ」
どうやら俺の毎朝のんでいるカフェオレは世界が崩壊しかねない著しい綱渡りで創られているらしい。
「まぁ私は理の外にいる存在ですから、直接的に他者の命を奪うことは禁止されているんですが」
「曲がりなりにも神様だしな。ていうかその理屈だと俺は大丈夫なのか?」
「若干アウトなんですけど、まだ誤魔化しのきく範囲ですよ」
アウトなのかよ。もともと俺の転生、というより異世界転生自体に謎が多いとは思っていたが本当に大丈夫なのだろうか?
にしてもパンばかりで喉が渇いてきたな。
「フェオ」
「なんですか?」
「カフェオレ創ってくれ」




