最終話「天邪鬼と開幕ハーレム異世界転生」
すっかり夜になって大儀式の夕食会、その形式は立食パーティーに近かった。会場にはオーケストラによって優雅なコンチェルトが奏でられている。
だがそこで俺を囲んでいたのは花嫁候補の美少女達ではなく、貴族のおっさんたちだった。
「勇者殿、どうですかな? 我が領で取れたビッグピッグの燻製は?」
髭をたっぷりと蓄えた男爵に詰め寄られる。ちなみに彼女らはこの後のお披露目に控えてお色直しの最中だ。
フェオにいたっては夕食会が始まったと同時に出てきて、テーブルの料理を食べまくっている。あの状態でもお腹が空くんだろうか?
「えぇ美味しいですよ」
「それでしたら是非、王城に卸させていただきたい」
世間知らずの勇者様はビジネスチャンスなのかグイグイくる。
「ネヴィス卿、勇者殿が困っておるではないか。どうです勇者殿ここは我が領特産のキウイベリーのワインでも飲んでは?」
今度は小太りの男爵がやってきた。
「いえ、お酒はちょっと」
「うむ、いただこう」
俺の後ろから、ひょいっと手が伸びてワインを飲み干す子供の姿があった。いや、この金髪少年はエゼルだ。目線の都合上それしか見えないが。
「果実味は悪くないが、少し渋みがきつい。流石に奇をてらいすぎではないか?」
「こ、国王陛下」
突然のエゼルの登場に周囲にどよめきが走る。
「こらーっ! エル君、お酒はこの後でっていったでしょう!」
「クラウディア様! その格好で走らないで下さい!」
後ろから、夕食会用の艶やかなシルクのドレスに着替えたクラウが走ってくる。もう完全にお母さんだな。
その後ろからこれもまたドレス姿のアーデルハイトが走ってくる。主を目立たせるためか色彩を抑えた紫色のドレスだったが、そのスタイルとあいまって大人の女性のような色気があった。
それもクラウを注意しながら走っていては微笑ましいものになっているが。
「ふっ、ウエルカムドリンク代わりである。この程度で酔っぱらっていては国王など勤まらん。それとネヴィスにクルゼバ、あまり勇者殿を困らせるでないぞ。そのための花嫁候補でもあるのだからな」
なるほど、勇者に関する利権の平等分配ってところか。にしては著しく効率が悪い気がするが、なんだってこんなしきたりがあるんだろう。
「リク、お待たせナー」
プリシラも夕食会にはドレスで参加している。相変わらずグリーンを貴重としていたが、露出の大きい服に小麦色の肌と猫耳はバニー姿のような倒錯的なエロさがある。
「あっ、リクちょっとドキドキしてる、ニオイで分かるナー」
「そういう格好は見慣れていないんだよ、悪いか」
「にゃはは、照れない照れない」
照れ隠しに皿にもってあったリケスバードの手羽先に手を伸ばす。味は以前食べた普通の手羽先と変わらないが大きさが四倍ぐらいある。微妙に食べずらい。
「転生勇者様、それは手に持って食べるものではありません。食べるときはナイフを持参するか手直なフットマンに頼んで解体してもらうのですわ」
若干の呆れ声で俺にそう指摘したのは、厚手の生地と大きく胸の空いた白いドレスに身を包んだヘンリエッタだった。
ドリルのような縦ロールももちろん健在だ。
「そんな食べ物があるのか、流石は王族」
なら、最初から切っておいてくれと思うのは俺が一般人だからだろうか。
とはいえ確かにこれは、野球で使うグローブ程の大きさがある。これでは市井の出であることが丸わかりだ。ちょっと恥ずかしい。
とそんなこと思っているとヘンリエッタの後ろに彼女と揃いの格好をした、セミロングを少しカールさせた黒髪の少女を見つける。
「その子は?」
「そうでした。ノエレッタ、挨拶なさい」
ヘンリエッタがそうその少女を急かした。
「……ブレトワルダ第三王女、ノエレッタ・マーシア・ブレトワルダ……です。転生勇者様の花嫁候補の一人、……14歳です。よろしかったら仲良くしてください」
そうたどたどしい言葉でヘンリエッタの服の袖を掴みながら挨拶してきた。ノエレッタか、なるほど彼女がフリスのいっていたノエルっていう子か。
ちょっと待て、確かあいつクラウを除いて結婚する意思がある候補だっていってなかったか? フリスもそうだがただでさえ年齢が幼いのに容姿はそれ以下に見えるぞ。
まぁ、あっちの方でこそこそ酒を飲んでいるエゼルには負けるが。
転生勇者はひょっとしてロリコンだと思われているんじゃないか?
「あぁ、よろしく頼む。他の候補にもいっていることだが、俺のことはリクで構わない」
そもそも俺は他人に敬語を使わないことは慣れているが、敬語を使われることはなれていないんだ。敬語で話されるとむずがゆくなってしまう。
エゼルがクラウに捕まった。
「……リク?」
「あぁそうだ」
「わかっ……りました」
彼女も敬語は慣れていないようだ。というより、人としゃべること自体が慣れていないように見える。
もっとも、さっきから視界の端で身振り手振りを使ってコミュニケーションを試みようとしているピンク頭よりはおそらくましだろうが。
「どうしたんだ、フリス? ジェスチャーゲームか?」
「じぇすちゃーげーむ?」
ノエルが首をかしげている。この単語はないんだな。基準がわからん。
「……今度、教えてやろう」
その間もフリスは懸命に何かを訴えかけようとしてくる。
「リク」
ついにしゃべった。
「ごき……えーと」
御機嫌ようと言いたいのか?
「ごちそ……ごちそうさま?」
「言い直して間違えるな、大体ごちの時点ですでに修正は効かない。それじゃ俺が夕食会をひらいたみたいじゃないか」
ひらいたのが俺だとしても夕食会でごちそうさまはおかしいが。
「だって! 俺敬語とかわかんねぇよー、元々テルディッチのド田舎から出てくるつもりなんてなかったんだよ」
自分の国をド田舎とかいっているが大丈夫か? それに敬語とかそういうものの以前の問題だと思うが。
「ほう、リクは既にフリスと面識があったか」
「あっ国王陛下がいる」
「当たり前だ。ここは我が城だぞ。それとフリス、貴様は余の近くに立つな」
小さいことは気にしてはいないみたいな態度をとっていたが、そこは注意するんだ。まぁなにせ近くにいかなくても、フリスの方が少し大きいことが分かるからな。
「むっ、そういえばリクの花嫁候補が全員そろったのではないか。宴の切れ間に紹介をしようと思っていたがちょうどいい」
「4人しかいないが?」
「余にも不可能はある」
エゼルはそれだけ告げた。残り二人はよほどの曲者らしい。
「皆のもの、傾聴せよ!」
そういうと夕食会に参加していた貴族達がピタリと談笑をやめる。
「うむ、それではリク。何か挨拶を頼む」
えっ? この状況で俺なんかいうのか? そういうことはできるだけ事前に言ってほしい。
「転生勇者のリク・トーカ・イリンだ。本日付けで王族となった。皆よろしく頼む」
この程度のことしかいえない。
転勤してきたサラリーマンの方がまだまともなことを言うぞ。
「異世界の彼方から、よくぞこの王国へと来てくれた! リク・トーカ・イリン殿!」
とエゼルがどっかで聞いたようなセリフを告げる。そうか、これは俺がここに来た時に聞いた――
「我が王国にあるしきたりに従い、転生勇者には国王が妻を娶らせなくてはならん。そしてこのサンブリア連合王国には王都サンブリアに加え六つの属国が存在する。そこでそれぞれの国から選りすぐりの花嫁候補を選出してもらった」
「サンブリア王国代表、クラウディア・ケント・サンブリアですわ。勇者様」
「フルエーラ代表、プリシラ・ガルシア・フルエーラだナー。よろしく、リク」
「テルディッチ代表、フリース・ウェサエ・テルディッチだ。まぁ仲良くしてやってもいいぜ」
「……ブレトワルダ代表、ノエレッタ・マーシア・ブレトワルダ。リク……よろしくして」
「一人でも、二人でも、いや望むのならば全員とでも余はかまわんぞ? リク殿には彼女ら誰かと婚儀をとりおこない、子を成してもらいたい!」
ずれた王冠の似合う年端のいかない国王と、美しくも可愛らしい花嫁候補達によって送られたこの異世界からの祝福だった。




