2話
この日、スコ=シトカイ都市へ続く複数の道のうち、獣道よりはましな程度で人通りも少なく、衛兵の見回りもあまり行われないさびれた道を、近くの茂みから見張る3人組の男達がいた。盗賊である。
「頭ァ、なかなか獲物来ませんねぇ」
今にも壊れそうな革鎧を着た小男が、後ろで干肉を食べる自分たちの盗賊団の頭にそう話しかける。
「今日こそは獲物がここを通ると俺の勘が言ってるんだ。黙って見張ってろ」
小男よりはだいぶマシな革鎧を着た、頭と呼ばれた禿男が痰交じりのガラガラ声で怒鳴る。
「昨日もそんなこと言って別の道見張って、結局獲物は一匹も通らなかったんだよなぁ……」
汚い革鎧を着た荒事には向かなそうな優男が、小男の横で目の前の道を見張りつつ小声でぼやく。
「うるせぇぞお前ェら!うだうだ言わず見張ってろッてんだよ!」
「「へーい」」
普段はからきしな頭と呼ばれる禿男の勘だが、今日ばかりは当たった。
「……ん!? 頭ァ!!人だ!森に続く道の方から人が走ってきますぜ!」
欠伸をしながら見張っていた小男が獲物を発見する。
「それ見ろ!俺の勘は当たるんだよ! で、何人だ!?」
「1人ですね。服装もボロいし金も持ってなさそうで……いや、頭に耳が生えてまさぁ!うは、珍しい!
獣人ですぜお頭!」
こちらに向かってくるのが女、しかもスコ=シトカイ都市周辺ではまず見かけない猫獣人であることに気付いた優男が興奮気味に叫ぶ。
「なにぃ!獣人だと!おぉ、しかもありゃぁ猫獣人じゃねぇか!ここらじゃ珍しいな!人買いの連中に持ってきゃぁ高く売れるぜ!!」
「やりましたねお頭!」
「よぅし絶対に捕まえるぞ!お前ぇら殺さない程度に痛めつけろよ!?」
「「へい!」」
そう叫び盗賊たちは、砂煙を巻き起こしながらこちらに向かい疾走してくる猫獣人の行く手を阻むように
道を塞いだ。3人とも腰から凶器を抜き放つ。
「おらぁ!そこのネーちゃん止まんなぁ!!」
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少し時間を戻し、こちらは村を出て都市へ向かう道を爆走するタルフェ。
「よぅし、かなりいいペース!これならお昼過ぎ位には都市に着きそう!」
そう言いながら獣道よりはましな程度の道を、早馬以上の速度で突っ走る。
「お金も村長から貰ったし、着けばすぐに治してもらえるからね。もう少しの辛抱だよ。」
優しく微笑み、おぶった娘にそう話しかける。相変らず体温は高いし呼吸も辛そうだが、
一切ぐずらずに包まれた布の上からしっかりと母親の背中を掴んでいる。
そんな娘を見て、タルフェは走るペースをさらに上げるのだった。
道沿いの木々がものすごい速さで後ろに流れていく。風が当たる娘も少し涼しそうだ。
エルフの長弓が放つ矢よりも早く走るタルフェ。
懐では村長から貰った金貨5枚がぶつかり音を立てている。このチャリチャリという音が種族としても好きなタルフェは更にテンションが上がり、全身の疲れが吹き飛んでいく。
まだまだ脚は回る。疲れも感じない。テンションも上がり尻尾もクルクル揺れる。
絶好調!このまま道を真っ直ぐ行けば!(タルフェの足なら)もう都市は目の前!
……そう思っていた矢先、目の前に突如人が飛び出てくる。
「おらぁ!そこのネーちゃん止まんなぁ!!」
急に怒鳴られたこともそうだが、飛び出てきた人が武器を持って道を塞いだという事に驚き、急ブレーキをかける。
「な、なななんですあんた達!?武器なんか持って危ないですよ!!?」
「危ない?そりゃそうだ、俺たちゃ盗賊よ!」
目を白黒させ叫び返すタルフェに、盗賊の禿男がニヤニヤと答える。
「盗賊!?私、おお、おぉぉおおお金なんか持ってないですよ!?」
どもりながらも、お金を持っていないと言うタルフェ。しかも彼女の尻尾は毛が萎びて、地面に垂れ下がっている。これでは『私はお金持ってますよー』と言っているようなものだ。
しかし、盗賊たちの狙いはハナからお金ではない。
お金持ってますよ発言のタルフェをより一層のニヤニヤ笑いで見ながら禿男が喋る。
「ほほー、金持ってねぇか。グッヘヘヘ、ならしょうがねぇな。お前を捕まえて売り捌くしかねぇなぁ!」
その言葉でタルフェは固まった。自分がここいらでは珍しい種族だという事をすっかり忘れていたのだ。
つい反射的に、背中の娘を包んだ布を見てしまった。
「ん?お頭、あの女背中に何か背負ってますぜ」
道を塞いでいた盗賊の優男が、背中をちら見したタルフェのおぶっている物を指さす。
「え、あ!ち、違う!違うから!?私は何もおぶって……!?」
「んー? お!猫耳が見えた!なんだネーちゃん、子供背負ってるのかい」
「おー!やりましたね頭ァ!子供付となりゃぁもっと高く売れますぜ!」
高く売れる。その言葉を聞いたタルフェは青ざめた。
逃げなければ。
たとえ争っても3対1では勝負にもなら無いことはタルフェにも分かる。
「(どうしよう……!?私の足なら余裕で逃げ切れると思うけど……)」
確かに猫獣人族ならば鼻歌を歌いながらでもこの盗賊3人からは逃げきれるだろう。だがタルフェは逃げるのを戸惑う。
なぜか?それはこの道が一本道なのだ。なので逃げ道は左右か後ろだ。当然後ろに逃げることはできない。後ろに逃げてはおぶった娘を都市で治してもらうことができない。では左右どちらかに逃げればいいのだが……。
「(道から外れたら……絶対に私、迷う!)」
そう、タルフェは方向音痴だ。筋金入りの。村では迷子の達人と呼ばれている。
そんな人が森に入り、逃げるためにあっちこっちに走ろうものなら……結果は火を見るよりも明らかだ。
「……どうしよう」
涙目になりながらそう呟く。自分でも無意識のうちに背中の娘を抱き直し、腕の中に隠す。
「グヘヘ、あんま抵抗してくれるなよ?傷付けたら値段が下がるからなぁ」
禿男が最高に下卑た笑みを浮かべつつ手にした手斧を見せつける。
刃が鈍く光り、それを見るだけでもタルフェの混乱は深まる。
禿男が手で合図を出すと小男がバッグから投げ網を、優男が縄を取り出す。網で動きを封じ縄で縛る作戦だ。
それを見たタルフェは後ずさりをしてしまう。しかし、足の震えからか、くぼみに足をすくわれその場で尻もちをついてしまう。
「あ痛っ……あ、しまっ……」
「おぉー?なんだぁ、捕まえてほしいのか?グッヘヘヘヘ、よぉーし動くんじゃねぇぞ!」
そう言い、手斧で威圧しながら禿男が下品な笑みを浮かべタルフェに近づいてくる。
禿男の部下の二人もニヤニヤと笑い距離を詰めてくる。
「いやっ!助け、……誰かぁ!!」
「グヘヘ、こんな所でだれが助けにくるってんだ?いいから大人しく……」
ヒューー……… ドッッッゴオオオオオオオオン!!!!!
盗賊達がタルフェに近づこうとしたその時、空から何かが飛来!盗賊たちとタルフェの間に落ちてきた!
「な、なんだぁ!?」
「おぉ、お頭、一体何が!?」
「頭ァ!空から人が!?人が降ってきた!!」
「な、ななななに!?これ以上なんなのよぉ!もういや助けてぇ!!!」




