8.言わなきゃ伝わらないことばっかなんだから
かみやはなにひとつ包み隠さず話してくれた。
私が今日殺されたこと。
犯人があやのだったこと。
それを止めるために何度も今日を繰り返していたこと。
それを止めるためにあやのを殺そうとしていること。
そして私も私の現状を包み隠さず話した。
あやののためにー
あやのが殺されないように今日を繰り返していることを。
その犯人を殺してやりたいと思ったことまで。
かみやは表情一つ変えず聞いていた。
正直、上手くやれば私だけを救うならどうにでもなりそうだと頭では思えた。
思えたからこそ、実際はそれ以上に過酷な時間をかみやは過ごしてきたのだと感じた。
「なんで…私なんかのために…」
なんて救いのない、報いのない物語なのだろう。
私は今にも涙腺が壊れてしまいそうだった。
「……大切だから…」
「ただの幼馴染じゃん!」
かみやもあやのも誰も幸せになんかなれない物語。
「お前にとってはそうかもしれないが俺には違う…」
「……もうやめてよ…」
私がこんなことを言ってしまったらそれこそかみやは報われない。
「…やめない…」
「頼んでない!」
私のためにあんたが苦しむのなんて…頼めない…
「頼まれてない。」
「こんなの…かみやが…あんたが…辛すぎるよ……」
ここまでいって私の瞳から大粒の涙が溢れ出した。
「あああぁぁあぁ」
大声で泣いた。
私のせいで苦しんでいる目の前の大切な人に
何もしてやれない私の不甲斐なさに
「……自分で決めたことだよ。」
そう言ってかみやは目の前から消えた。
呼び止めようと言葉を吐こうとした。
でも言葉がでなくてかみやは行ってしまった。
私は1人になってからも泣き続けた。
1人でー
誰にも届かないであろう大声を上げて泣き続けた。
かみやはいつだってそうだった。
何も言わず、何も見返りを求めず私を救おうとしてくれた。
私はあのとき、あやのを救えた気でいた。
あのときー
あやのを虐めていたやつとおもいっきりやりあったときに…
それでもあやのは今日まで誰にも言えないことで悩んでいたんだ。
「私は…どうすればよかったの……」
そのとき、屋上の扉が開いた。
かみやー?
「おー、いたいた。お前授業サボってこんなとこでなにしてんだか…」
ではなく目の前には望月先生がいた。
「もっちー…授業はどうしたの?」
「んー…自習にしてきた。俺もたまにはサボんないとなー。」
そう言ってもっちーは伸びをした。
少し汗でワイシャツが濡れている。
「……ごめんなさい。」
「んだよ。らしくねーな。なんかあったか?」
「………ちょっと友達とケンカしちゃって…でも友達は私の為を思ってやったことなのに私ひどいこと言っちゃった……」
話しているとまた涙がこみ上げてくる。
「もうどうすればいいか…わかんないんだ…」
「……詳しくは知らんけど、やっぱりらしくねーな。」
「……なにそれ…」
「お前は俺の知る限り、バカで自己中心的で、そのくせお節介で不器用で自分がよかれと思うことを他人に押しつけてくるような人間だ。」
言い過ぎだろ……言い返せないけど…
「そういうばかな人間同士わかり合うためにはさ、やっぱり思ってることを口に出さなきゃだぜ?
俺もお前もお前の友達だってほんとどの人間がそんな奴らなんだから。
てめーの中で勝手に完結してたって上手くいくわけないよ。
少なくともお前はバカなりにバカ正直にバカみたいにずがずが人の心に土足飛び越えスパイクで入り込んでただろうよ。
今のお前はなんからしくねーよ。」
……この先生の言ってることは半分以上理解できなかった。
でもほんとなんとなくだけど、なんとなくわかったような気がした。
「せっかくできた休憩時間だ。お前と話してるのももったいねーや。じゃぁな。」
そう言ってもっちーは階段を降りて行った。
「ありがとう……」
小声で呟き、頭をかいた。
「なんだよ…かみやもあやのも…」
あやのは私を殺した。
でもあやのは確かにかみやに言ったんだ。
3人で私の誕生日にケーキを食べようって。
一緒にプレゼントを渡そうって。
私の悲願なのかもしれないけど、それもきっとあやのの本心であると思った。
そのときかみやはにやけたんだ…
かみやはあやのを殺した。
でもかみやの本心もー
私は伸びをして一息はいた。
「言わなきゃ伝わらないことばっかなんだから…」
私はバカだから全部言葉に乗せて伝えるよ。
あんたらはバカだから気づいてないことを伝えにいくよ。
私は両の手で頬に張り手をして涙を拭い前を見た。
そしておもいっきり教室に駆け出した。




