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吸血鬼オニオン  作者: 若葉 夜子


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3/3

第三話 吸血鬼、冒険者になる準備を始める

 吸血鬼になってから一週間後。


 今日も、オニオンはニンニク畑でいつも通りの日常を送っていた。


 これまでと違うのは、彼が吸血鬼になり、あらゆる能力が人間離れしていること。


 父の野望に唆され、馬車馬のように働かされた。

 その結果、気づけば畑は以前の三倍の面積にまで広がっていた。

 最初は広げることに抗っていたオニオンも、遂に父の熱意に根負けして開墾に乗り出したのだ。


 そして、これまで一日がかりだった畑仕事は広がった面積に比例して当然増えている。

 普通なら人手を増やすなどしなければもちろん立ち行かなくなってしまう。


 だが吸血鬼になったオニオンはその常人離れした身体能力を活かし、全ての仕事を昼までに終えていた。


「ふう……この体にも随分慣れたな」


 オニオンは今日も昼食にニンニク料理を頬張りながら呟いた。

 血を欲しているのか、今でも妙な喉の乾きを感じることがあるが、なぜかニンニクを食べることで潤いで満たされる感覚がある。


「そうだな。これならもう少し畑を広げても大丈夫だな!」


「まだ広げるのかよ!!」


 父の野望は留まる所を知らない。

 止めなければどこまでも畑を広げてしまいそうだ。


「勘弁してくれよ……あのさ、前も言ったと思うんだけど、俺、冒険者になりたいんだ」


 そう。オニオンの夢は冒険者。

 ただ毎日をニンニクに囲まれて過ごすだけでは夢は遠退くばかり。


「ああ。だからその為に畑を広げニンニクを食べているんだろう」


 父は的外れな事を真剣な顔で言った。


「違います。もちろん金賞取るためには頑張るけど、俺は冒険者になる為の準備もして行きたい」


「そうか。まぁ仕事は今まで以上に頑張ってるからな!いいぞ。午後は修行にでも充てるか?」


「おお……ありがとう。そうさせてもらえると助かる」


 意外にもすんなり聞き入れてくれる父に思わず動揺する。

 なんだかんだ言って、応援してくれてるのかもしれない。


「お前が成長した分、畑仕事にもメリットがありそうだからな!」


「……」


 前言撤回。

 ニンニクの事しか考えて無かった。


 ***


 午後、オニオンはニンニク畑の傍の拓けた広場にいた。

 何故かこの家の土地は畑が三倍の面積になったにも関わらず余裕があるほど広い。

 金賞は逃したものの、ここで育てられたニンニクは品質、味に優れており、村の名産としても有名だ。

 そんな事情もあり村では優遇されているのだ。


「さて……修行と言っても何をすればいいのかわかんないな」


 いざ修行をしようと思っても何から取り組めば良いのか分からない。


「フム……そうだな」


「うお!?居たのかよ!!」


 あらゆる感覚が強化されたオニオンに気付かれずに父がこっそり着いてきていた。

 考え事をしていて周囲への意識が疎かになっていたのかもしれない。


「いいか、オニオン。冒険者にとって必要な能力はなんだと思う?」


 不意に父が問いかけてくる。


「え?急になんだよ……。そうだな、体力とか?」


「ああ。間違ってはいない。だが畑仕事で体力は付いているし、最近走り込みもしているだろう?他にお前に足りない物は何だ?」


「攻撃力……とか?いや、でも力は強くなってるしな……」


「ほう。だが、お前はその力の活かし方を理解しているか?」


 ただのニンニク農家である父が似合わない事を聞いてくる。


「活かし方……」


「たとえば、ニンニクはそのままでは食べれんが、擦りおろしたり、熱を通すことで旨みを引き出すことが出来る」


「親父いつもそのまま食ってるじゃん」


「……」


 父は無言のまま満足気な顔で頷いた。

 何でもニンニクに結び付けるのはやめて欲しいが、言いたいことは分かる。


 確かに、今のまま戦うとしても力のままに拳を振り回すだけになりそうだ。

 弱い魔物ならそれで倒せるだろうが、強い魔物には通用しないかもしれない。


「後は組み合わせだな」


「組み合わせって?」


「ニンニクとパン、ニンニクと肉。どうだ?ピンと来たか?」


「来ねえよ」


「うーん。そうだな……。よし、じゃあこうしよう。……そらっ!!コイツを砕いてみろ!」


「うおっ!?」


 不意に父は落ちている石を拾い上げるとオニオンに向かって投げた。

 凄まじい速さで拳大の石が飛んでくる。

 流石、畑で鍛えられているだけはある。とは言えその速度は尋常ではなかった。


 バコッ!


 驚きながらもオニオンは難無く正拳突きで石を粉砕した。

 常人であれば目で捉える事も叶わないであろう速度で飛んでくる石の軌道を見抜き、そこに正確に拳を合わせた。


「いや、危ないな!!」


「どうだ?」


「そうだな……。この目があるから石を捉えることが出来て、更にこの力で石を割ることも出来た。そういう事か?」


「そうだ。どちらか一方だけではこんな結果にならなかっただろう。持てる能力を組み合わせて初めて成果が得られるんだ」


「なるほどなあ……。それにしても、親父、なんであんなに速く投げれんの?言ってることもそれっぽいし、もしかして名のある冒険者だったとか?」


 もちろんそんな話は聞いた事が無い。

 でも確かにガタイは良い。同年代よりも若々しく見えるし、体も引き締まっている。


「フッ。俺は今も昔も変わらずずっとニンニク農家一筋だ。だがな……覚えておけ。

 ニンニクは時に才能をも超える!!」


 言うと同時に父から凄まじい殺気が立ち上る。


「す……すげえ!!でも意味がわかんねえ!!」


「さあ、それでは実践といこうか!!かかってこい!俺を跪かせてみろ!!」


「や、やってやるよ!!うおおおおーーー!!」


「ふはははははは!!甘い、甘いぞ!!」


 半ば気圧されながらも気力を奮い立たせ、魔王が如き立ち振る舞いを見せる父に立ち向かうオニオン。

 常人離れした実力を持つ筈のオニオンを、まるで赤子のように軽く捻るただのニンニク農家。

 オニオンは逆に跪かせられながらも、それでも諦めずに何度も挑んでいく。


 こうして、ニンニク農家の親子の訓練の日々が始まった。


 午前中に畑仕事を終え、午後には父との実践訓練を日々続けて行くことでオニオンの実力は着実に積み上がっていった。


 ***


 一年が経った。


 あれから一日も欠かさず、オニオンは父との訓練に明け暮れた。

 もちろん、金賞を取るためにニンニクの世話もしっかりやってきた。


 ニンニクの世話がついでのことのように聞こえたかもしれないが、それは違う。


 品種改良、水を多めに上げてみる、日光を取り込む時間を制限する、肥料を変えてみるなどあらゆる試行錯誤を経て最高のニンニクを育てることが出来たと自負している。


 それはそれで、かなり苦労したし大変だった。

 だがその苦労も今日で報われる筈だ。


 そう。今日は品評会。

 前回の雪辱を晴らすべく、父とオニオンは鼻息荒く王都に乗り込んだ。


「待ってろ!!金賞!!」


 そして。


 今日の結果如何でオニオンの冒険者としての人生が始まることになる。

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