第6話
「うーん、やっと、全授業終わったー!」
楠木が俺の前の席で、大きな伸びをしながら唸った。結局あの後、宇佐美と席替えをし、見事に全授業で当てられまくっていたのでだいぶお疲れの様子。
まあ、無理もない。明るくて活発な性格で1投げかけると10返ってくるようなタイプなので、教師からすると非常に助かる生徒だからだろう。現に、全授業で教室が静かになるタイミングが少なく、円滑に進んでいた。
「だが、これからが本題だな。昨日でだいぶ絞られたところだが、今日もまた何人か落ちるぞ」
宇佐美が俺の後ろの席で俺を挟みながら、楠木に話しかける。
そうか、これから部活か。放課後、特に予定のない俺は呑気にその様子を眺めていた。
「ほんとほんと。昨日の練習、初日なのにキツすぎて、俺もリタイアしそうだったもん」
「ああ、俺もだ。ボールをほとんど使わず、走り込みと基礎トレ中心ってなかなかだよな。智慧の練習も結構きつかったが、春宮はそのキツさが数段違う」
2人はゆっくりと立ち上がると、肩を回したりアキレス腱を伸ばしたりと軽くストレッチをする。
「あー、全身バッキバキ。部活引退してからも自主練してたんだけどなー。それなのに筋肉痛って……やっぱ体鈍ってんのかな?」
「かもな。俺もいたるところが痛い」
「あ?お前のそれは万年だろーが。どうせ成長痛だよ、羨ましい」
「いや、普通の筋肉痛だろう。さすがに、もうそろそろ止まるかもな。デカすぎたらそれはそれで不便だぞ」
「は、ふざけんな!いらねえなら、ちょっとくらい俺に分けろ!」
肩をすくめる宇佐美を小突く楠木、じゃれあう2人を見て、俺は片肘をつきながら
口を開く。
「お2人さん、早く行かなくて良いのか?準備とか片付けって大体1年担当だろ」
1年が雑用を任される、これは大体の運動部の鉄則だ。鉄則というか、暗黙の了解か。
「あー、だいじょぶだいじょぶ。準備とかほぼないから。だって、練習の前半は全部走り込みだし」
楠木がつまんなそうに答えた。
「それに、鶉沢先輩目当ての奴がまだ何人か残ってるしな。彼らが率先して大体やってくれるだろう」
宇佐美が楠木の言葉に頷きつつ、肩をすくめる。
……意外だな、宇佐美の口からこんな言葉が出てくるとは。1番に体育館に着いて練習してそうなタイプなのに。
「なんだかんだ言いつつ余裕そうだな、お前ら」
ため息を吐きつつ、ふと思い出す。
そうだ、こいつら智慧出身だった、と。
実力主義の学校こそ、主力は雑用なんかしないのだろう。楠木は去年はキャプテンしてて4番付けて試合出てたって言うし、宇佐美に関しては体格的に考えても試合に出さない訳がない。雑用とは無縁の人生を送ってきたのだろう。
……各言う俺も人のこと言えないか。
俺も雑用なんかしたことがなかった、試合に出れなかったことなんて人生で1度もなかったから。だから見誤ったんだ。自分を、自分の実力を過信した。
天から地へと叩き落とされた時の痛みは凄まじかった。大好きだったものを、もう1度も触れたくないと思わせるほどに。
「じゃあ、そろそろ15分前だから体育館行こうぜ!」
楠木のはつらつとした声で我に返る。時間割の横にかけてある電波時計の針が4と3を指していた。
宇佐美がもう1度大きな伸びをして頷く。
「行ってらー」
俺は先ほどの思考に引っ張られつつ、ぼんやりと見送りの言葉をかける。
「何言ってんだよ?お前も一緒に行くんだぞ?」
「ああ、荷物まとめて立て」
2人が不思議そうな顔をして、一方は俺の腕を引っ張り、一方は脇下から俺を担ぎ上げる。
もちろん、腕を引っ張るのは楠木で、脇下から俺を担ぎ上げるのは宇佐美だ。
「は、誰が行くって言ったよ!?離せ!」
手足をジタバタさせて必死の抵抗をするが、その腕を抜けられるわけもなかった。何せ相手は、長身で筋肉質の宇佐美だ。それなりに身長も体重もある俺が暴れても、全く軸がブレない。
さすが、智慧でバスケしてただけあるな……。こいつにスクリーンかけられたら、絶対動けない自信ある。
「お前だけ高みの見物なのずるいだろ!俺らと一緒に味わえ、地獄を」
「良い運動になるぞ」
お前ら、ほんっといい性格してるよな。良い運動ねえ……、良い運動どころか動き過ぎて吐くまでがセットだろうが!
結局、腕を楠木に引かれ、宇佐美に背中を押されながら、抵抗出来ない俺は引きずられるようにドタバタと教室を出るほかなかった。




