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Pentagon  作者: 雨下
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第5話

人って生き物は噂話が好きだ。あることないこと、ほんの些細なことでも人づてに、気付いたらとんでもない話になっていることがある。

生徒玄関を通って3階の1-2クラスに向かうまでの間、廊下や階段で生徒とすれ違う度に視線を感じた。

もしや、昨日の出来事であらぬ誤解が生じているのか。入学してから昨日まではこんなにも見られることなんかなかった。全く、朝から嫌な気分だ。

居心地悪く感じながら、俺はようやく辿り着いた自分の教室、1-2の扉を開ける。


始業前で雑談が飛び交っていた教室が、俺が現れてから一瞬静かになった。多数の視線を感じながら、俺は自分の席へ歩を速める。

「ねえ、あの子だよ、あの子!さっき言った子って」

「へえ、なんか分かるかも……」

「だよね、だって容姿良いもん」

「あの、3年の美少女先輩が自分から声かけたって話題になってて信じられなかったけど、椋尾志優なら納得だよねー」

女子の1グループが俺をチラチラ見て、コソコソと話す声が聞こえた。ますます俺は気分が悪くなる。

うわ、女子ってこういう話好きだよなー。どんな噂が立ってんのか知らねえけど、大して仲良くないのにフルネームで呼び捨てにすんのだけはやめてほしい。

「しっかし、鶉沢先輩も見る目がないよなー」

楠木に次いで2番目に1-2で中心的存在の男子生徒が、首に手を当てて無駄にデカい声で言った。

「ほんそれ、だって椋尾だぜ?あんなクールなふりして、どうせ裏でいろんな女食ってるだろ」

「あの容姿で童貞とかありえんでしょ」

取り巻きたちが同調する。

しまった、こっちもか。こういうのが好きなのは男も一緒だった。しかも妬み・嫉妬がセットで、さらにタチが悪い。

俺は誰とも目が合わないように、リュックで顔を隠しながら席に向かう。


「いやあ、凄まじいモテっぷりで、羨ましい限りですなあ」

席に辿り着いた途端に、楠木が俺の席に居座りながら机に肘を付いてニヤニヤ笑う。

こいつ、人の席を勝手に使って人の気も知らずに呑気そうに……。

「おはよう、椋尾」

俺の前の席で、宇佐美が振り返ってこっちを見る。

あ、お前、同クラでしかも俺の前の席だったのか。前にデカい壁があんなと思っていたが、通りで。

「誰が、誰にモテてるって?」

言い返しながら、思わず楠木の童顔なその頬をつねりそうになる。

「誰っていうか、不特定多数?みんな、お前の話題で持ちきりだし」

は?それってモテてるとは言わんだろ。ただ話題に上がってるってだけだし。

「あ、違うか。鶉沢先輩にモテてんだった」

もうお前は黙ってろ。


まともに話をするだけ無駄だと思った俺は、1人盛り上がっている楠木を睨む。

「どけよ、そこ。俺の席だから」

すると、楠木は俺の机に縋り付いた。

「頼む、椋尾!俺と席変わってくれ!」

は?何でまた。嫌だけど。

「お前、背高いじゃん?お前が壁になって俺、ホワイトボードあんま見えねえの。だから頼む!」

両手を合わせて合掌のポーズを取る楠木に、俺は首を振る。

「無理。てか、俺の席来たって結局、宇佐美の壁に阻まれんだろうが。宇佐美と席替えしろ、そっちの方が早い」

「やだ、宇佐美んとこは1番前だから。当てられやすいし、サボったらすぐバレる」

……何だそれ。

俺は反論するのもだるく、追い払うように左手を振った。仕方なく席に帰ろうとする楠木を、宇佐美が呼び止める。

「おうすけ、俺と席替えだ。特等席だぞ」

おうすけ?楠木大()……ああ、楠木のことか。あだ名で呼ぶなんて、ずいぶん仲が良いんだな。

「嫌だって。まずこの列って窓際で日当たりは良いけど、ドアから遠いから便利悪い。それに加えて、当てられやすくてサボりづれぇなんて無理!その特等席は優等生のお前向きだよ」

「そんなこと言ってて良いのか?受験、ギリギリだったんだろ?」

眉をひそめて口をへの字に曲げる楠木の肩をがっちり掴んで、宇佐美はいつになく真剣な眼差しを向ける。

「だいじょぶだって!中学ん時も成績ボロボロだったけど、何とか試合出れてたし」

楠木はヘラッと笑うが宇佐美は引かなかった。

「あれは監督のご好意のおかげだろ。春宮ここは違う。なんたって文武両道を掲げているからな。受験して分かっただろ?悠長にしていると、インハイ優勝どころか試合にすら出してもらえなくなるぞ」

言葉に詰まる楠木を見て、俺はふと疑問に思う。

この学校に入れるくらいの学力なのに成績ボロボロって……そんな学力高い中学ってあったか?あるとすれば私立か。地方の公立校出身の俺には未知の世界だな。

「なあ、お前らって出身校同じなの?」

思わず2人を見ると、2人同時に頷く。

「おう、ガキん時から一緒だぜ」

「ああ、確か……幼稚園くらいからか?それくらいの頃から、こいつとはずっと一緒だぞ」

ということは、宇佐美も楠木と一緒で全中言ってるってことか。

ますます興味が湧いた。名前くらいは知ってる学校とこかもしれない。


「そういえば聞いてなかったけど、どこ出身?」

その次の2人の言葉を聞いて、俺は雷を撃たれたかのように衝撃を受ける。

「え、智慧ちけいだけど」

「智慧学園中学高等学校だ」

智慧学園中学高等学校。中学校から様々なコースが設けてあり、系列で大学もある全国的にも有名な中高一貫校。

男子バスケットボール部に関しては、全中の前回大会で8年連続11回目の大会出場で、前々回大会の時点で3連覇を達成、全中の優勝候補に毎年名を連ねるトップクラスの強豪校だ。前回大会はというと、まさかの2回戦敗退。

だがしかし、そんなことはどうでも良い。バスケをやっている奴ならみんな知っている全国有数の強豪校出身がまさか、俺の前と後ろの席にいるとは……。

燻って消えかけていた胸の炎が、物凄い音を立てて再燃する。

……おいおいマジかよ。しかも片方は4番付けてキャプテンやってた奴だぞ、あの強豪校で。

くっそ、気持ちが昂るのを抑えらんねえ……。辞めたいのに関わりたくないのに、理性が追いつかないほどに衝動的になってる。

バスケがしたい、バスケ部に入ってあいつらとコートに立ちたい。そう思ってしまったんだ。

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