第2話
「部活見学、どこ行くー?」
放課後、一年生の教室が並ぶ校舎の3階ではそんな話がそこら中で飛び交っていた。
それもそのはず。入学式が終わり、本格的に学校生活が始まろうとしているこの頃、一年生に部活見学の機会が与えられたからだ。
「あたし、バレー部」
「バレー部?何でまたー。あそこ、全国常連だし、超厳しいって噂だよ?練習キツイって話だし」
「知ってる。でも、そこ目指してきたから。厳しいとか、キツイとか言ってらんないよ」
「えー、本当に言ってる?」
「うん、本気。あたし、なんだかんだ言っても、バレーすんの好きだからさ」
廊下を歩く女子二人組の話が耳につく。
なんだかんだ言ってもバレーすんの好き、ね。半年前の俺も、あの日のことがなかったら彼女と同じことを言ってたのだろうか。
それにしても、噂を知りながらあの女バレに入ろうとする意気込みはすごいものだ。
別種目の俺でも、この学校の女バレの噂は耳に入っていた。すごい名監督がいるらしい、それも超絶怖い。
それだけ本気でバレーが好きってことか。俺はどうだっただろうか、彼女以上にバスケを好きでいたんだろうか。
関東大学附属春宮高等学校、それがこの学校、そして俺の通う学校の名だ。
全校生徒数1900人ほどで、学科や部活動数の種類も幅広い、規模も校舎もデカい高校。偏差値は学科によってバラツキがあるが、特進科で70とかなり高い。
もちろん、俺は普通科なのでそんなには高くない。とは言ってもそれなりだ。高くなくとも低くはない。
関東有数の進学校としての知名度はもちろんのこと、この学校の名を全国に知らしめたのはやはり、スポーツ強豪校としての知名度だろう。
サッカー部、野球部、バレー部、ラグビー部などの主要な部をインハイや甲子園など全国の場に毎年排出し続けており、去年は陸上競技で表彰台に上がった選手もいた。スポーツ名門校としてはまだ歴史が浅いが、近年の成績は目覚ましいものがある。
俺はそういった面に惹かれてこの学校を志望していたのだが、今となっては無意味でしかない。
「見学、どこ行く?」
また、お決まりのセリフが聞こえた。
「えー、やっぱ……バスケ部っしょ!」
「えー、お前も見に行くのー?」
「おう、あの先輩目当てだけど!」
「お前さ……真面目にやれよー」
「とか言っちゃって、お前も先輩目当てだろー?さ、行こうぜ」
数人の男子グループが肩を組んで階段を駆け降りていく。
ふと、半年前の俺があの輪の中にいた気がした。
いや、気のせいだ。さて、俺は新しく何を始めようか。
邪念を吹き飛ばすように首を振って、俺も階段にゆっくりと足を伸ばした。




