32.官邸 p3
エルが静かに話し終えると、スノードロップの面々は、口々に「懐かしいね」と言い合う。
そこでルナがあることに気づいたのか、少し顔が青くなる。
「え、エルたちって、今いくつ?」
「私たちはみな18だが?」
そう聞いて、ルナの頭がショートしたのか、信じたくない。みたいに頭を振る。
「絶対嘘やん!うち20中盤に見えてんけど!ってか、そんな若くして、レイチェルさん、何してるん?絶対おかしいって」
たしかに、そう考えると、私たちと同い年っていうのはすごいと思う……。
いや、エルも18にしては行動力と生命力がすごいよ。ただ、レイチェルさんのほうがもっとすごい気がする。
「政府に忠誠を誓った魔法使いはいろいろと優遇されるからな。魔法使いに年齢など関係がない。実力主義だ。だから、私も14で保険庁のトップに立つことができた。まぁ、実例がなくて、いろいろと言われたがな。そこは、仕事の量で何も言わせなくした」
レイチェルさんは、いろいろ苦労したんだぜ。と言わんばかりの顔でルナに答える。
「でも、さっき電子データは使えなかったって言っていたよね。どうやって、やりとりしていたの?もしかして手紙とか?」
「そんなの時間がかかって仕方がない。幸い、スノードロップのみんなは、リカバリー以外に、とある技を使うことができるんだ」
そういうと、エルは手をテーブルの上にかざす。すると、小さな鳥が現れた。
そして、それは、エルだけじゃなくて、スノードロップ全員が手をかざすと、同じような小さな鳥を出現した。
「いわゆる召喚鳥だ。ちゃんとこいつらにも名前があるぞ。私のがララ、レイチェルがリリー、ムーナがルル、レベッカがレレ、ナターシャがロロだ」
いや、単純。でもわかりやすいからありかもね。
あえて、キッシングナイトは、単純とかの言葉は出さず、静観していた。心の中ではみんな思っていたかもしれないけどね。
「召喚鳥は、魔力のこめ方で飛んでくれるスピードが大きく変わる。早く飛ばしたければ、多くこめたらいいし、少しゆっくりでもよければ、少しだけこめたらいいし。もちろん、全速力で飛ばしても、召喚鳥自体が小さいから、消費する魔力はしれている。これを利用したんだ」
ここから政府の場所って……ここから相当離れていた気がするんだけど……。
「まぁ、少し余裕を持たせて、片道2時間ほどで飛ばしていたかな。足に魔力で小さくした手紙を括り付けて。なっ。リリー?」
レイチェルさんが同意を求めるように自分の召喚鳥に話しかけると、召喚鳥は、レイチェルさんの顔を見ながら「ちゅん!」と元気に鳴いた。
「はいはい。みんなと遊べて楽しいね。ほんと、私はほかの子とあったことないのに、仲良しだね~」
「しばらくそのままにしてあげていいよ。エル、少しの間だけ休憩しない?ここから先、たぶん休憩できなくなるかもしれないし。それに、ほら」
カナが1枚の紙をエルに見せる。
「情報庁で死なせてやろう。ってか。強気な発言だな。よし、わかった。挑発に乗るわけではないが、情報庁をやつらの墓場にしてやろう」
さすがに少しやりすぎか。それに、熱も入ってきている。ここは少し落ち着かせよう。
「エル、言葉使い、気を付けてよ」
「あぁ、すまん。気を付ける」
エルは、私の言ったことを素直に謝った。
その様子を見ると、まだ冷静でいられるところはあるみたいね
そう思いながら、最後の休憩でみんなの表情を見る。疲れている様子は何一つ見えない。まぁ、収容所を出てすぐくらいにリカバリーをかけて一度回復させているから、疲労感は目に見えていないのかもしれない。
「カナ、周りはどう?」
「いないね。ただ、大きな塊が西側にある。なんだろう。埋め尽くしているのかな。反応がありすぎて、どこまでが戦闘できるエリアなのかわからない」
それほどいるのか。これは、私たちキッシングナイトが周りの兵を引きつけて、スノードロップには、政府の本隊を任せるほうがいいのかな。なんとなくそんな気がしている。
「それが情報庁だ。レイチェル。どれくらいの兵を準備しているかはわかるか?」
「そうだね。最後に聞いた話だと、前回と同じ5千とは聞いているけど」
5千人で一斉に戦える広場があるのか。すごい広いな。情報庁って。それに、前回と同じって……。これを4人で対峙するのはそうとうしんどかったのだろう。
そうじゃなかったら、3人が捕まることなんてなかったか。
「そしたら、5千プラス、やつら5人か。4人のときと同じ作戦をとるときつそうだな。さすがにレイチェルが戻ってきたとはいえ、遠距離からだと、囲まれたときが一番怖いな」
「やつらは、囲んで狭めていく戦法をとるからな。今回もそうしてくるだろうさ」
「さすがに、そこまでの情報はないか」
「私がここに来た直前くらいでどこかに行ったらしいからな。今考えると情報庁かと思っているけど」
「そうか。ほかに何か情報は?」
「これっきりさ。天井裏から盗み聞きしてやろうと思っていたが、それすらできなかったよ」
えっと、レイチェルさんは、忍者か何かなのだろうか。
そんなことを口に出す余裕はなく、エルとレイチェルさんが話を進めていく。
もちろん、地形などを知らないキッシングナイトはあっという間に話からおいていかれて、退屈を覚えたマリアが大きなあくびを一つ。それにつられて、カナ、ユカリ、ルナ、私の順番であくびが移る。
なんとも戦闘前にはありえない姿をさらしているかもしれないけど、それは仕方ないと思っている。だって、話についていけてないもんね。
と思ったころ、エルたちが話を終えて、私たちのほうに来た。
「頼みたいことがある」
エルが神妙な顔をして、とくに私のほうを見る。
「頼みたいことって?」
「ここまで本当に助かった。私一人だと、どうにもならなかった。でも、キッシングナイトがいてくれたから、ここまで来ることができたし、レベッカたちを助けることはできなかっただろう。私一人で死んでいたかもしれない。本当に私たちの仲間になってくれて感謝している。ただ、ここから先は、私たちスノードロップの問題だ。どうか、私たちにだけ任せてもらえないだろうか?」
なるほどね。ここからは意地でもスノードロップが抱える問題だから、自分たちだけで対処したいということね。
「そういうことなら、私たちは構わないよ」
「そうか。助かる。そして、申し訳ないんだが、今すぐに元の世界に戻すということはさすがにできない。戦闘が終わるまで待ってもらうしかないんだが、それでもいいか?」
「しょうがないよ。決めたことをやり遂げないと気が済まないエルなんだから。前みたいに、いらないならすぐに帰せなんていわないよ。ちゃんと、この目でエルたちの勇姿を見させて」
「アカリにそこまで言われたらどうしようもないな。ただ、これだけは約束する。勝っても負けても必ずみんな生きて帰ってくる」
なんだか、エルも大人になった。そんな気がする。
最初にあったころなんて、私たちに負けたあと、すぐに諦めていた。だけど、今は違う。目の奥に「敵優先」から「命優先」そんな言葉に変わった気がする。
「うん。頼むよ、リーダー」
そう答えると、エルの目が少し笑った気がした。