21.焦り
なんでこのタイミングでアリアスから連絡が来るんだよ。寝返る準備をしていたのによ。
とりあえず、アリアスには、執務室を出るときに私のもとに届いていた情報だけ伝えた。
そして、気になっていることがあるといい、緊急放送のことを話題にした。
エルにジャックされたものではなく、クラシアが自分の意志で頼んで流した者みたいだ。
てか、正体不明の5人組ってなんだよ。しかも、不確かな情報って。そんなことを言っても、国民を混乱に陥れるだけだろ。
……奴の考えることがわからん。
ちゅん?
手のひらにリリーを召喚する。
周りを見て何もないことに違和感を覚えたリリーは私の顔を見て首をかしげる。
「なぁ、お前さんは正体不明の5人組なんか知らないよな?」
ちゅん?
首を傾げたまま目をそらさないリリー。
まぁ、こいつも頭の中は私と一緒だからな。私も知らないことがあれば、当然、リリーが知る由もない。
はぁ。ここはエルに情報を求めるか?ただ、そんなことでリリーを飛ばしても、日の入りまでに戻ってこられないだろう。
一応、私も身体能力強化魔法を持ち合わせているが、召喚鳥のリリーに付与することはできない。これができたら、リリーに飛んでもらうんだけどな。
ここは、私が自分で情報を求めに行くか。
とりあえず、今日は緊急避難を発令するとの通告が昨日あったから、働く者はすべて休みを言い渡し、登庁することも禁止にすると言い渡した。
そのせいか、ここには私一人しかいない。
まぁ、そもそも、私が昨日のうちに、リリーを召喚して見回りさせたからな。誰もいないことを確認して戸締りもしたし。どこもかしこも土魔法でドアすべてにストッパーをしたから、諦めておとなしく避難してくれるだろう。
それにしても、やはり、緊急放送があったせいなのか、避難を急ぐ一般民が増えたな。さっきまでまばらだったのに。
まぁ、あんな放送をされたら、嫌でも逃げたくなるか。正体不明の5人組が反政府勢力にいて、一般民にも攻撃してくるかもしれない。なんて言われたら。
所詮、帝都に住む人間は自分たちの命しか考えていない。兵士たちには申し訳ないと思っているが。
私は正直、この命がどうなってもいいと思っている。
私が生きている理由は、復讐のほかにままならない。復讐が叶えば、この命はどうなってもいい。それくらいの覚悟はできている。
「レイチェルさん、またここにいらしたのですか?」
聞こえるはずのない人の声が聞こえて、私が慌てる。どこもかしこもカギをした上にストッパーまでつけた。建物の中から屋上に来られるわけがない。
いや、待てよ。ここに来ることができるやつが一人いるじゃないか。それに、この声。ヒカリか。
そう思って下をのぞくと、案の定、ヒカリがいた。
「ヒカリさん。なにか御用ですか?」
「いえ。たいしたことではありませんよ。レイチェルさんがちゃんとお仕事をされているか確認に来ただけですよ」
「また冗談を。今日は仕事できる日じゃないでしょう。私は別ですけど」
「ほら、お仕事が残っているではありませんか」
「医療関係者を適切に配置するのが私の仕事ですよ?戦闘が終わるまで戦闘に参加できない分、救護班で活躍するしかないんですよ?」
まぁ、今回はいつもより多くの医療関係者を手配した。医薬品もいつまで続くかわからないので多めに手配。
ここまでするのには訳があって、私がスノードロップに寝返り、合流するため。そして、戦闘が始まると、指揮を執るトップがいなくなるので、現場は混乱するだろう。そして、これで医薬品の不足が起きてしまえば、現場はさらに混乱することだろう。それを防ぐために、あえて多くの医薬品を手配した。
もし、この戦闘がスノードロップに関係のないものなら、ここまでしないだろう。
「これは失礼しました。ただ、いつもより量が多いので、てっきり、手配・配置が終われば、ご自身の避難をされるのかと」
「まさか。デパーチャーも参戦するとおっしゃっているのに、そのようなことできるわけないですよ」
「そうですよね。わたしもできることがあれば、お手伝いしますので気軽に及びくださいね」
「お気遣いありがとうございます。そのときはよろしくお願いいたします」
それでは、また。そういうと、ヒカリはどこかに行った。
やっとどこかに行ったな。あいつがいると、やはり狂うよな。
おや?1匹の鳥が私のもとに?どうしたというんだ?
……いや。これはあの人の召喚鳥か。
「久々だね。今日はどうしたんだい?」
ちゅ~ん♪
「そうか。久々に会えたのがうれしいのね。で、用件は何かしら?」
ちゅんちゅん♪
「主からの手紙か。ありがとうな。あっ、返事を書くから、少し待ってくれ。リリー、おいで。ララ、少しリリーと遊んで時間を過ごしてくれ」
ちゅん
リリーを召喚すると、久しぶりにあったのが、よっぽどうれしいのか、2匹は、ガールズトークならぬ、小鳥トークを始めた。
その間に、主からの手紙を読む。
親愛なる待雪草の同士よ
普段からスパイ活動に苦労を掛けていること、心から感謝する。
今日、ララを送ったのは、この後の予定のことだ。
本日の日の入り後、町が完全に闇で包まれたとき、西門から侵攻を開始する。
方法は、前回埋めて使えなかったダイナマイトで威嚇、その後、南門にも同じようにし、南門から帝都に侵入する。
私一人と思われているが、ちゃんとした仲間を手にすることができた。
キッシングナイトだ。
ついては、キッシングナイトを含めた6人で戦犯収容所を襲撃した後、官邸へ向かうつもりでいる。
できれば、官邸で合流できたらと考えている。そして、貴女には官邸での様々な情報収集をお願いしたい。
急な頼みで申し訳ないが、よろしく頼みたい。
待雪草の主より
私の言い回しをそのまま使ってきたか。まぁ、私たちスノードロップの和名だから、間違いではない。
さて、内容はわかったし、主に伝えたいこともあるし、とりあえず、返事を書いておくか。
親愛なる待雪草の女王へ
我、内容を承知した。できるだけ多くの情報を集めるように努める。
なお、戦犯収容所の警備は厚くするという話が出ている。
襲撃時は多くの兵や、特別攻撃部隊の出動もあるだろう。
そのほか、デパーチャーの作戦については不明。おそらく、迎え撃たれることになるだろう。
くれぐれも怪我には気を付けてくれ。
あと、こちらの願いを聞いてもらえるとは思っていないが、医療チームの拠点を東西南北にそれぞれ拠点を置いている。できれば、十字架のテントが立ち並んでいる場所を攻撃してほしくない。
帝都で孤児を出したくなという私のわがままだが、聞いてくれたらうれしい。どうか、作戦を立てているのなら、このことも検討してほしい。
そして、送ってもらった手紙に書いてあった“キッシングナイト”のこと、帝都民には正体不明の5人組として広く周知されている。ただ、情報がなく、未確認情報として扱われている。そして、正体がわからないから市民に攻撃する可能性も示唆して避難を促している。そして、デパーチャーの一部も1人じゃないことを想定しているようだ。
いずれにせよ、簡単な戦いになることはないだろう。
武運を祈る。
待雪草の同士より
こんなものでいいだろう。あと私から伝えなくてはいけないことはないはず。
クラシアから作戦については何も聞かされていない。
まぁ、今は兵の配置でいっぱいいっぱいだろう。
「それじゃあ、ララ、これを主に届けてちょうだい。くれぐれも見つからないでよ。まぁ、ララのことだから大丈夫だと思っているけど」
ちゅん!
胸をしっかり張って偉そうに。まぁ、任せろと言っているつもりなんだろうけど。
「それじゃあ、任せたよ」
それだけいうと、私のもとから飛び立っていった。
それよりも、キッシングナイトか。
私もかすかに聞いた記憶がある。ただ、どこでだったか。それくらい記憶がない。
唯一覚えていることと言えば、“史上最強の女戦士”ということだけ。
この異名については、エルがずっと羨ましいと言っていたからよく覚えている。
そして、もし、エルがキッシングナイトを本当に仲間にしていたら……。
ただでさえ鬼のようなエルに、金棒を担いだ鬼のキッシングナイト。
誰も逆らうことなんてできないだろう。考えるだけで恐ろしい。
少し、頭を冷やすために、そろそろ配置していこうか。
そういえば、スノードロップが手紙のやり取りをするとき、勢力名と自分の名前を名乗りません。名乗った手紙が敵に盗まれてしまうと、どこの誰か分かってしまいますからね。
1つの暗号です。
スノードロップは、【14.由来】でエルが話していた通り、冬の中ごろから終わりに見頃を迎える花で、「希望」という意味もありますし、このお話のタイトルにもなっている「あなたの死を望みます」という意味があります。
そこに少し補足させていただくと、「希望」という意味はギリシャ神話から、「あなたの死を望む」という意味はイギリスに伝わる物語から来ているようです。
スノードロップのメンバーたちはそのことを知っていたのでしょうか?
そして、そのスノードロップ。日本では、冬に各地で見ることができるそうです。
その和名。お話の中でも出てまいりましたが、待雪草というみたいです。
このお話を作っている時、スノードロップの和名を知らずに作っていて、
(そういえば、召喚鳥が捕まることは想定してないけど、捕まった時のこと考えないといけないな)と思い調べたら、和名があった。そのまま使っちゃおうということで、
お話の中で待雪草という和名が登場しております。
人生、知ることばかりですね。調べることも大事ということです。
それでは次回をお楽しみに




