10.共闘 p2
気づけば、闘技場に戻ってきていて、アカリたちはその場に胡坐を組んで座っていた。
「なにもないよ。そっちもその様子だと何もなさそうだね」
「うん。みんな怯えて逃げて行ったんちゃう?ほんで、エル、どうすんの?」
「……うん?あっ、あぁ。ちょっと手伝ってもらいたいことができた。おそらく主にマリアになると思うが」
マリアはキョトンとして、「私が?」と言った表情をしている。
「さっきの出来事で少し弱点が露呈したように感じてな。実はこの洞窟、2つの入り口があるんだ。だから、ひとつを落とし穴にして、こちらに繋げようかと。で、この闘技場は、落とし穴を作るときに削ってできた砂や岩を使って入り口をひとつ閉鎖しようと思う」
「えらい、大掛かりやな。でも、そんなんできるん?」
「やるだけやる。それに、挟まれると、キッシングナイトのほうにも影響が出そうでな」
「そうか?」
「そうだよ!私たち遠距離がどこに行こうか迷ったくらいなんだから!」
アカリがそう思うということは、マリアもカナも思っていたのかもしれない。それならなおさらだ。
「そういうことだ。もちろん、出入り口は、寝室に近いほうを残す。それなら、落とし穴に落ちた兵士を対処するのも簡単だろう」
「エルがそう思うってことはなにかあったのね?」
さすがアカリ。鋭いな。
「あぁ。さっき、戻ってくるときにルナとユカリには言ったんだが、さっきの兵士たちは、政府の人間だ」
そういうと、アカリとカナの顔から血の気が引いた。
「まぁ、そうビビらなくてもいい。私はどうなる。捕まって殺されているぞ。ただ、アカリたちももう身元が割れ次第ロックオンされるだろうがな」
そういって、場を明るくしようとするが、みんなの顔は引きつっている。
それに構わず、私は話を続ける。
「まぁ、話を変えて、現実的な話をする。正直言うと、スノードロップを結成して6年になるが、今までここを襲撃されたことはなかった。というのも、私たちスノードロップのアジトを政府の人間が誰も知らなかったからだ。ただ、さっきの山岳警備隊が駐屯地に戻ったあと、いろいろと報告されるだろう。その中に、私たちのアジトのことも。するとどうなる?」
「まぁ、エルを逮捕しに来るよね」
「しかも魔法使いで、剣士。編隊して襲撃してくるだろう。挟まれたらどうする?」
「私たちの持ち味がなくなるね」
「それを避けたいというのが本音だ」
「なるほどね。それなら賛成だね」
アカリは物分かりが早くて助かる。私のやりたいことも瞬時に理解してくれる。
「それじゃあ、私についてきてくれ」
私が片方の出入り口の近くに来ると、まぶしく外の世界が見える。
ここは、この中を見せないようにするために、煙幕を撒いてもいいのかもしれないな。
「とりあえず、マリア、ここから、タイフーンで下向きに発動させて、この岩盤を掘ってくれないか?」
「何メートルくらい掘るの?」
「闘技場に繋げてほしい。本音を言うと、闘技場の天井から落としたい気分ではあるが、闘技場の天井は20メートルほどある。落ちたら即死は免れないし、そうしたらそなたたちとの約束も守れなくなる。だから、せめて1メートルくらいの高さのところから落としたいかなと思っている。だいたい、距離にして25メートルほどかな。滑り台のようにしてほしいんだ」
「わかった。やってみる。巻き込まれるから離れていてよ」
そういうと、マリアは目を閉じると、両手の親指と人差し指で輪を作り、静かに重ね合わせる。
「タイフーン」
静かに呟くと、そよ風が吹くような感覚がした。
「エル、近くで見たいのはわかるけど、もう少し離れないと危ないよ」
アカリから優しく忠告される。
正直、マリアのタイフーンのメカニズムが気になるのも事実。だが、ここはさすがに身の安全を取らないといけないか。
「25……30……35……うーん」
そこまで行ったとき、マリアが風の渦を開放させた。
「どうかしたか?」
「う~ん。なんか、空気の渦が分散したような気がしたのよね。久しぶりに発動させたから、感覚が狂っていたのかも」
「いいよ、もう一回やってみようよ。あとさ、タイフーンだけじゃ削りにくいかもしれないから、グリッドを混ぜてみたら?」
「あ~、そだねぇ。試してみる」
やっぱりマリアのくだけた言い方には慣れない。ただ、実力は申し分ない。
信じていないわけではないが、言い方ひとつでその強さが陰るような気がする。
「アカリ~、もうちょっと離れて~。グリッド入れるから、多分砂の粒が襲うと思うし~」
とりあえず、私も離れるか。
そして、マリアは、私たちが離れたことを確認すると、また静かに両手の親指と人差し指を輪にして重ね合わせる。
「グリッドタイフーン」
すると、今度は砂交じりの渦が小さく出現。
右手で風の渦を加速させる動きをする。
「25……35……50……65……」
風速65メートルと言えば、木造住宅は木っ端みじんになるはず。それに、一般人なら、この風の渦の中のはずだ。正直、私も巻き込まれないようにするのが精いっぱい。それなのに、キッシングナイトは、まだ余裕がある表情をしている。
これが魔力量の違いか。というか、キッシングナイトの魔力量はどうなっているんだ。
私でも多いほうだと思っていたが、それをはるかにしのぐ量はあるのかもしれない。
「ごめん!暴発するかも!防御魔法を発動させておいて!」
唐突なマリアの宣告。少しアルカイックパワーで少し離れるか。おそらく、防御魔法を発動させる余裕はない。
「アカリ!発動準備は!?」
「できているよ!いつでも大丈夫」
「よかった。タイミングばっちり。これ以上育てられないから行くよ!」
そういうと、静かに左手の輪を地面に置いて、右手を右上から左下に強く振った。
その瞬間、轟音が洞窟の中を支配し、風の渦は、ゆっくりと沈んでいく。
超高速で飛ぶ砂の粒が地面をえぐり、えぐられた地面から岩ができ、その岩も風の渦に巻き込まれ、さらに岩石がえぐり削られる。
「うっひょひょ~。やばいな、これ。やりすぎたかも」
少し興奮気味のマリア。でもその顔は楽しそう。無邪気な子供だ。その中でも冷静なルナとアカリ。
「なぁ、エル。一個確認したいねんけどさ、闘技場の仕切りって閉じてる?」
風の渦がほとんど見えなくなった時、ルナに言われて思い出した。
「……閉じてない」
「ウソやん!」
「閉じない予定の通路、あとで片づけないとね。砂や岩がごろごろしてそう……」
アカリが頭を抱えたまま言う。
私もやらかしたと思っている。誰か、水魔法使える人を募集したい……。




