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0番街で会いましょう  作者: 川住河住
エピローグ

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第36話 おかえりただいま

 夢のような時間を過ごしたモミジロウくんとモミコちゃんは、いっしょに並んでテントに戻ってきた。

 今も会場からは拍手と歓声が聞こえてくる。

 その響きが現実だと教えてくれるかのようだった。

 しかし、それが現実だからこそ一志にはやらなければならないことがある。


「さっきはすみませんでしたぁ!」

 一志は、すぐに着ぐるみを脱いで謝った。


「モミコちゃんが登場できたことがうれしくてつい……」

 頭を少し上げて様子をうかがう。

 相手の顔は燃えるように赤くなっている。


「あんなことしたら怒って当然ですよね……本当にすみません……」

 モミコちゃんの着ぐるみのままだから当然である。

 しかし、一志の脳には酸素が行き届いていないせいでそれに気づかない。


「実はもう一つ謝らないといけないことがあるんです。図書館のあおぞら朗読劇で本山さんのために物語を書くと言いましたよね? だけど、すみません。本当は違うんです」

 申し訳なさそうに顔をうつむかせながら重い口を開く。


「いつだって僕は玲のために物語を書いてるんです」

 一志は正座したまま頭を下げる。


「今回の朗読劇も、0ちゃんねるの朗読劇も、今まで書いてきた小説も含めて全部そうです。もちろん、プロの作家になるという目標のためでもあります。ただ、それも約束があったからです。玲が声優になって、僕が作家になって、いっしょに作品を作ろうと決めていたんです。

 僕には才能がないし、努力の方向性はズレてるし、賞の選考も落ちてばかりですけど、今も書くことをやめていないのは玲のおかげなんです。玲に最高におもしろいと言ってもらいたいからがんばってるんです。僕は、あいつにとって一番の作家になりたいんです。

 玲は昔から才能があって努力もしてきてプロになって当たり前です。しかも顔はかわいいし、声はきれいだし、性格はちょっとアレですけど、そこも含めて玲の魅力なんでしょうね。本当にムカつくくらい尊敬できる奴なんですよ。

 事務所をやめたって知った時は残念だったし、才能があるのにもったいないと思いました。失礼ですね。だけど、今こうしていっしょに作品について話し合ったり朗読劇をしたりできるのはうれしいです。それに、玲は今も声優なんだとわかりました。あんなに楽しそうにやっているのを見たらわかります。やっぱり玲はすごいなあ。自分もがんばろうって元気をもらえるんです。僕は玲が隣にいてくれるだけで元気モミモミなんですよ。あはは!」

 溜まっていたものをすべて吐き出したおかげか、一志はようやく冷静になってきた。


「すみません……恥ずかしい……。いや、めっちゃ気持ち悪いですね……」


 自分はなにを語っているのだろうか。

 これでは誰かのくだらない冗談よりひどい。


 そこで違和感に気づいた。

 どうして本山は、今もモミコちゃんの着ぐるみのままなのか。


 まさか……いや、そんなまさか……。

 恐る恐る着ぐるみの頭部を取ってみる。


 そこには、もみじの妖精のようにまっかな顔をした玲がいた。


 なぜここに玲がいるのか。


 それでは、先ほどの朗読はいったい誰が行っていたのか。


「さっきのは事前に録音しておいたやつ……なにかトラブルが起きた時のために……」 

 玲は平然と答える。


 図書館のあおぞら朗読劇では、体調不良によって迷惑をかけてしまった。今回はそんな事態が起きても対処できるように本山と相談して準備しておいたらしい。

 脚本にかかりきりだった一志が知らなくても当然である。


「私がいたら元気モミモミなんだ?」

 玲が着ぐるみを脱ぎながら追い討ちをかけてくる。


「すみません……本当にすみません……」

 一志は土下座して謝ることしか思いつかなかった。


「私の一番の作家になりたかったんだ?」

 自らの発言で自らの首を絞める結果となり、息がつまるような思いだった。


「中野零っていうペンネーム。才能がなくても努力する意味だって言ってたよね?」


「うん……言った……」


「小学生の頃、私が名前のことで男子から意地悪されたことあったでしょ? 派手な名前とか、ユーレイの玲とか、学校に行くの嫌だなあって思った時期があったの。そしたら一志が『僕のペンネームは中野零にする。派手で目立っていいだろ』って教室で言ってたよね。あれ、私をかばうために付けてくれたんでしょ?」


「べつに……そんなことは……」


「『玲の声はきれいなんだから、玲の名前もきれいなんだ』とも言ってくれたよね?」


「ごめんなさい……もうそのへんで許してください……」


「バカだなあ」


 まったくその通りである。

 いっそこの場で殺してほしいが、バカは死んでも治らないらしい。


「中野零先生は、ずっと昔から私の一番の作家だよ」


 地獄に仏。

 いや、地獄に蜘蛛の糸を垂らされたような気分になる。


「そういえば、まだ言ってもらってないことがあるんだけど……」


 まだ謝罪が足りないということか。

 いったいなにを要求されるのか。


「まだ、おかえりって言ってもらってない」


 放送局0ちゃんねるの前で再会した時、たしかに玲は帰ってきたことを告げた。


 あの時は気持ちの整理ができず、なにも言ってあげられなかったのだ。


 けれど今なら言える。

 

 一生分の恥をかいた今ならどんなことでも言える。


「おかえり……玲」


「うん。ただいま、一志」


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