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0番街で会いましょう  作者: 川住河住
第3章

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第33話 期待と応援

 社長の命令により若手女性声優で歌って踊れるアイドル声優ユニットを組むことになった。

 社長の命令はいつも突然だ。

 以前にも声優たちを出演させたショートムービーを動画サイトで公開したり声優たちにウェブラジオをやらせたりしていた。しかもノーギャラで。


 社長の経営手腕、いや思いつきに振り回されるのは慣れている。

 組織に所属して毎月給料をもらっている会社員だから仕方ない。

 文句も言わずに与えられた仕事をこなすだけだ。


 だが声優はどうなのか。

 たしかに事務所に所属しているが、彼らには毎月給料を払っているわけではない。声優の仕事がなくてアルバイトしている人も多い。

 彼らにとって声は売り物だ。

 正当な対価を払わずに喉を使わせるのはいいのだろうか。


 沼田はそんな疑問を心の奥底に沈めて、いつも通り担当声優たちに仕事を振っていく。


「玲! お前はこれからアイドル声優になるんだ!」

「はい! がんばります!」


 わかっていた。

 玲がどんな仕事でもまじめにやるということは。

 事務所に所属する、若くて顔のいい声優数人と女子中学生声優の玲を合わせたアイドル声優ユニット結成。歌や踊りのレッスンをさせて、広告を出して、小さな会場を借りてライブを披露ひろうする。

 結果はそこそこ成功し、そこそこ人気を得た。


 そこそこ、というのが厄介やっかいだった。

 続けるべきか、やめるべきか、判断を悩ませた


 社長の決定は続行だった。

 沼田は命令に従い、そのことを声優たちに伝える。

 彼らのほとんどは喜んでいた。

 ただ一人を除いて。


「玲も頼んだぞ! お前は歌も踊りも上手いんだ! ファンのためにがんばってくれ!」

「はい……がんばります……」


 わかっていた。

 玲が歌や踊りよりも声の仕事をやりたがっていることは。

 だがこれは会社の利益のためだけではない。

 未来への投資でもあった。


 人気があり、売れている女性声優の多くは、歌や踊りの仕事もやっている。今後もっと活躍の場を広げていくために必要な仕事なのだ。

 玲の実力があれば声優としてもっと活躍できる。

 だからこそ、この時の判断は間違っていなかったと今でも言える。


 平日は学校があり、休日も歌や踊りのレッスンがあるため、彼女たちには、金にならない小さな仕事を振らないようにしていた。お金になりそうな仕事や将来的に役に立ちそうな仕事だけを選んでいくようにした。


 玲も理解していたはずだ。

 顔色が悪く、声に明るさがなくなってきても、携帯端末でウェブ小説を読んでいる時だけは、うれしそうに微笑んでいた。


 沼田は期待していた。

 応援していた。

 だからこそ、こう言ったのだ。


「お前たちは、うちの看板商品だ。これからどんどん売っていくからどんどん稼いでくれ」


 あの時の言葉は、間違っていたのだろうか。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


『あ、どこかでモミコちゃんの声がするよ! うんうん! なるほどなるほど!

 モミコちゃんがお料理をするらしいんだけど、買い忘れたものがあるんだって!

 ボク、これからおつかいに行ってくるねー!』 


 ステージ上では、相変わらずくだらないゆるキャラの劇が行われている。

 子どもだましのストーリーでは金にならないし、こんなもの誰が喜ぶというのか。

 先ほど激しく踊っていたのに、またすぐに動き回る体力だけは褒められる。

 しかし、利益を出すなら、話題性を狙うなら、玲をすぐにでもステージに出すべきだ。


 田舎者はそんなこともわからないのか。

 沼田の苛立ちが頂点に達しようとする。

 ゆるキャラも、朗読劇も、田舎も、やめていった声優も、まったく興味がない。

 アイドル声優ユニットは新たなメンバーを加えて活動を再開しているし、社長も新たな思いつきを考えている。声優志望者は、毎年何百人も応募してくるから代わりはいくらでもいる。


 沼田は会社の利益のために仕事をするだけだ。

 夢も希望もないが、金は得られる。

 構わない。

 それが役者としても、声優としても、才能のなかった者の末路だから。


 それならなぜあんなことをしたのか。

 どうしてこの場から離れられないのか。


「動かないでください」


 どこからか声をかけられて足を止める。

 左右を見ても誰もいない。


「天ヶ沢玲さんからの伝言です。最後まで見届けてください、とのことです」


 声は足元からする。

 大柄な沼田には気づかなかったが、小柄でメガネをかけた女が立っていた。なぜか彼女の髪は、雨にでも降られたかのように濡れている。


「ほら。コレでも食って落ち着きなよ」


 振り向けば背の高い女がタバコを差し出してきた。

 ニコチンを欲していた沼田は、反射的に口にくわえる。

 だがそれは砂糖菓子だった。昔懐かしの駄菓子である。


「あの子たちのがんばりを見てあげなよ。それが大人の役目ってものさ」


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