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第四十七話『王都決戦!黒い炎を破れ!(その2)』

 インモーハミダスは黒い炎を放つ闇の魔力剣を大上段に構え、灰色の瞳でチンタローを見据えていた。

 視線を受け止めるだけで全身に悪寒が走り、あまりの威圧感に少しでも気を緩めれば失神してしまいそうだった。

 その間もモミーナとネイピアは必死に剣を振るい、岩石巨人たちの前進を食い止めていた。


「ネイピアさん! なんとか……!」

「はい、モミーナ殿……!」


 互いの名を呼ぶ程度のやり取りしかできなかった。

 繰り返しの斬撃で腕を斬り落とし、頭を斬り飛ばしても巨人たちはすぐに再生し襲いかかって来る。

 しかも、多勢に無勢。

 モミーナとネイピアは必死に剣技を繰り出し、巨人たちを足止めするので精一杯だった。


 やがて、楔型の陣形を展開していた岩石巨人の本隊が前進を止めてチンタローの正面で二手に分かれた。

 二つの隊に分かれた巨人たちの間に、インモーハミダスの全身が見えた。

 距離にして三十メートノレ余り。

 魔龍――ヴリーリァを無力化した輝きチンコ撃ちシャイニング・チンコ・ブラストが使えれば問題なく射程に捉えられる距離だ。


 ――よし。俺とインモーハミダスさんを遮るものがなくなった。これなら――。


 チンタローがこの瞬間を好機と考えたのと同時に、インモーハミダスの両腕が閃きを放った。

 チンタローの目が眩むのと同時に、後方で何かが崩れ落ちる音がした。


「なんだ!?」

「チンタロー! よそ見すんな!」


 傍らのミャーコに叱責され、辛うじて振り返るのを踏み止まる。

 ややあって、地響きと共に石作りの建造物が倒れる轟音が鳴り響いた。


「時計塔が……!」


 ネイピアの発した声に「そんなのあったっけ?」と思案に耽るチンタローの右腕に突如として激痛が走った。


「うぁぁぁぁぁぁ……っ!」


 右腕を斬り落とされたような苦痛にたまらず、膝を着く。

 辛うじて顔を上げると、頭上に向けられていたはずの魔力剣の切先がこちらに向けられていた。

 インモーハミダスが自らの右腕を狙って斬りつけたのだと、ようやく理解できた。

 斬撃があまりにも速い為、剣を振るう腕の動きが見えなかったのだ。

 それに加えて、四十メートノレを超える攻撃半径……インモーハミダスの剣技はチンタローの想像を遥かに超えていた。


「チンタロー! しっかりするんだゾ! 腕なら何ともない!」


 ミャーコに叱咤されながら肩を引き起こされ、なんとか立ち上がる。

 言葉通り右腕はつながったままで、上着の袖が切れた形跡もない。

 しかし、肉を裂かれ骨を断たれたような痛みは幻とは思えず、こうしている間にも耐えがたい痛みが右腕に残っている。

 インモーハミダスが唸った。


「……腕の一本も斬り落とせば観念するかと思ったが。お前の持つ聖なる力は、想像以上のものだな」

「うっ……ぐくっ……」


 チンタローは右腕を押さえながら、インモーハミダスを睨みつけた。


「降伏する意思はないようだな。やむを得ぬ」


 再びインモーハミダスの両腕が閃くと同時に足元の地面に大きな裂け目が走り、次いでチンタローの左足に激痛が走った。


「ぐぅぅぅぅぅぅっっ!!」


 たまらず悲鳴を上げるが、両手で左足を押さえ、歯を食いしばってこらえる。


「チンタロ――」

「離れろミャーコ!」


 咄嗟にミャーコを突き飛ばした次の瞬間、インモーハミダスの両腕がまたも閃く。

 背後で石壁が崩れる音が聞こえたのと同時に目の前に火花が散り、右の鎖骨から胸にかけて激痛が走った――!


「…………ッッ!? ウッ……あがっ……!!」


 胴体が二つに分かれるのを防ぐかのように、左手で肩を押さえる。

 激痛に加えて耳鳴り、眩暈めまい、悪寒が襲い、たまらず前のめりに倒れた。

 辛うじて左の肩で受け身を取り、石畳に顔を打ち付けるのを防ぐ。

 ややあって、ようやく視力を取り戻した目を前方に向けると、こちらへゆっくり歩み寄るインモーハミダスの姿が見えた。

 ヤバい、と思った瞬間にインモーハミダスが立ち止まり横薙ぎに剣を振るった。

 たちまち周囲の石畳が斬り裂かれ、大きくめくれ上がる。


「チンタローーーッ!!」

「ウァァーーーーーッ!!」


 倒れ伏したまま悲鳴を上げ、背中が裂けるような痛みに悶え苦しむ。

 聖なる力の為か物理的なダメージこそないが、身体を走る痛みは本当に斬られているとしか思えないものだった。


「聖なる力に守られていることで、かえって苦しむことになるとはな。だが、お前の持つ力も無尽蔵ではあるまい」


 言い終える前に、再びインモーハミダスが剣を振るう。

 再び周囲の石畳に大きな裂け目が走り、少し遅れて左肩に激痛が走る。


「ウゥ………………ッッッ!!」


 肩甲骨から肋骨まで斬り砕かれたような痛みに、声にならない悲鳴を上げる。

 あやまたず、インモーハミダスが魔力剣を逆手に持ち替えて地面に突き立てた。

 たちまち、その足元からチンタローの真下まで石畳が斬り砕かれ、衝撃波がチンタローの身体を宙高く舞い上げた。

 宙を舞うチンタローとインモーハミダスの目が合う。

 次の瞬間、インモーハミダスが逆袈裟の斬撃を放った。

 胴体を凄まじい衝撃が襲い、落下し始めた身体が再び宙高く舞い上がる。

 

「おごぉ……っ!!」


 チンタローは血を吐きながら、朦朧とする意識の中で懸命に今の状況を分析していた。

 インモーハミダスの動きが見えるようになったのは自らの動体視力が上がったのではなく、手加減しているからだろう。

 それはインモーハミダスの意図を考えれば分かる。


「その力が尽きる前に、あるいは精神が保てるうちに降伏することだ。私とて、お前を殺すこと……苦しめることは本意ではない」


 数秒の後、チンタローの身体が地面に落ちた。

 落ちたのは石畳が剥がれた土の上だったが、斬撃の苦痛と落下の衝撃でまともに呼吸ができず、繰り返しせき込む。


「がはっ……かっ、ゴホッ! ゴホォッ! うぐぐ……」


 悶え苦しむチンタローの姿を、マッスロンは拳を握り締めながら見ていた。

 その傍らではシリーゲムッシルが肩を震わせ、涙を流しながら……それでも目の前の光景から目を離せずにいた。

 ウォシュレとシリーゲムッシルの護衛を任された以上、この場を動くわけにはゆかない。

 唾を飲み込みながら、マッスロンが背後のウォシュレに目を向けようとした、その時――。


「チンタロー!」


 ウォシュレがドレスの裾を掴んでマッスロンの横を駆け抜けた。


「えぇー!? 王女様、待っ――」

「下がりなさいマッスロン!!」


 ウォシュレは一瞬だけ振り返ってマッスロンを一喝すると、チンタローのもとへまっしぐらに走っていった。

 マッスロンは王女の威厳を前に言葉を失くし、その背中を見送るしかできなかった。


「殿下! いけません!」

「ネイピアさんよそ見しないで!」


 咄嗟に声を発したネイピアをモミーナが制し、マッスロンとミャーコに目配せする。

 マッスロンとミャーコはハッとしてウォシュレのもとへ走り出した。

 チンタローは声を上げることもできず、自らの前に立つウォシュレの背中をかすむ目で見ていた。


「国防大臣にして陸軍参謀総長、ソラーヌ=インモーハミダス上級大将! アナルニア王国第二百二十三代国王クミトリー九世が長子、第一王女にして摂政、第二百六十五代宰相ウォシュレの名において命じます! 速やかに剣を捨て魔法を解き、我が前に投降せよ!」

「殿下、お下がりください。私はもう貴方の臣下ではありません。ご命令に従う義務も持ちません」


 インモーハミダスは静かに剣を下ろし、その切先を地面へと向けた。


「私をまだ『殿下』と呼ぶのであれば何故、我がめいに従えぬのか! もう一度、命じます。速やかに剣を捨て魔法を解き、我が前に投降せよ!」

「従いかねます」


 ウォシュレがその小柄な身でインモーハミダスの視線を受け止める中、マッスロンとミャーコが駆け寄ってきた。


「王女様、戦うのは俺たちに任せてください!」

「そうです! お下がりください!」


 マッスロンとミャーコがウォシュレの前に歩み出て構えを取ると、インモーハミダスの全身から黒いもやが溢れ出した。


「下がるのは君たちだ」


 インモーハミダスがそう口にすると靄が一斉に広がり、辺り一面を覆った。

 たちまちマッスロンとミャーコの全身を靄が覆い、その動きを封じる。それと同時に、石畳の破片が結集し新たな岩石巨人を形作る。


「なっ!?」


 マッスロンは巨人たちの数を数えようとして、すぐにやめた。次々と現れる巨人たちがモミーナとネイピアの背後に迫っていた。


「モミーナ! ネイピアさん! 後ろ!」

「気をつけろ!」


 モミーナとネイピアが背後へ振り返ろうとした時にはもう遅かった。

 それぞれ十体の巨人に取り囲まれては、どうしようもなかった。


「うぁぁっ! ネイピアさん……っ!」

「モミーナ殿! 私は、大丈夫……です……!」


 二人は巨人たちの腕に絡め取られ、羽交い絞めにされて宙に持ち上げられた。

 剣を封じられ足で巨人を蹴るが、それも押さえつけられる。

 この場で動くことができるのはインモーハミダスとウォシュレだけとなった。


「ネイピア様、手荒な真似をお許しください。そして……殿下」


 インモーハミダスは居住まいを正し、チンタローを庇うようにして立つウォシュレと正面から向き合った。


「お下がりください。私はチンタローを斬らねばなりません」

「いいえ、下がりません。チンタローを斬るというなら、私を斬ってからにしなさい」

「殿下……いけません、殿下……! インモーハミダス卿……それだけは、やめてください……! それだけは……!」


 チンタローは頭上で繰り広げられるやり取りを、朦朧とする意識の中で聞いていた。


 ――絶対に負けないと言ったけど……チンコでは勝てなかったよ……


 チンタローがこの戦いに賭けていたもの……それは小便だった。


 ――マッスロンが洗脳を逃れたのは、夕食会の時の連れションで俺の小便に触ったからのはずだ。それなら、インモーハミダスさんにも効果が出るはずなのに。


 そこまで考えて、はたと気づく。


 ――効果って何だ? いくら何でも漠然とし過ぎじゃないか? 何が起きるか分からないことに期待してたのか、俺は?


 自身の計画の杜撰さにしばし呆れた。が、やがてまたも考え直す。


 ――それじゃ、他にどうすればよかったっていうんだ。元々、勝てる見込みがとんでもなく少ないことは分かっていたじゃないか。それをひっくり返せる要素は……俺のチンコしかなかった。


 そこまで考えて、チンタローは自身の顔が触れているものに気づいた。


 ――土……そうだ。まだ、可能性はある。


 感覚が麻痺しつつある両腕を必死に、しかし静かに動かす。

 そして……下半身に意識を集中する。


「うっ……あぁぁっ!!」


 不意に、頭上からウォシュレの叫び声が聞こえた。


「殿下……やむを得ません。手荒な真似はしたくありませんが……」


 目の前でウォシュレが黒い靄に包まれ、宙に浮かび上がるのが見えた。同時に、長いスカートに隠された純白のパンティとかわいらしいお尻が見えた。


 ――わぁ、いい眺め……って、そうじゃない!


 慌てて目をそらし、再び両腕と下半身に意識を集中する。

 その数秒後に、飛んで行くものがあった。


「殿下ぁ!!」


 ネイピアが叫ぶまでもなく、ウォシュレが飛んで行ったことは分かっていた。

 心配ではあったが、「手荒な真似はしたくない」というインモーハミダスの言葉を信じ、振り返らなかった。


「さて、チンタロー。お前には死んでもらう。刃で直接触れれば、お前を斬ることはできよう」


 少しずつ、インモーハミダスの足音が近づいてくる。自らを呼ぶモミーナたちの声が遠くで聞こえる。

 やがて、足音が止まった。


「……失禁したか」


 インモーハミダスの口調に嘲る様子はなかった。寧ろ、チンタローを気遣うような口調だった。

 チンタローの周囲の地面に黒い染みが広がってゆく。


「だが、もう苦しむ必要はない。とどめを刺して――」


 インモーハミダスは言いかけてやめた。

 途端に、足音がチンタローから遠ざかってゆく。


「まさか……!」


 インモーハミダスの目は、チンタローの尻に向けられていた。

 ズボンとパンツから解き放たれた白い尻と、股間から漏れ出す光に――。


「チンタロー、貴様!」

「今だ!」


 チンタローが叫ぶと同時に地面が割れて大量の水が迸り、インモーハミダスを直撃した。


「ぬぁぁぁっ!!」

「いっけぇぇぇぇぇぇ!!」


 インモーハミダスの二メートノレ近い巨体が、宙高く舞い上がった――!


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