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いまひとたびの①
彼の口の付いたコップの縁を親指でなぞる。
私はその指とキスをした。
口を薄く開き、舌を縦に這わせる。
ざらりとした感触に親指が濡れた。
リップを塗るみたいに唇を滑らせる。
親指が離れて。
ああ、彼は、私を置いていってしまった。
天井がISO感度を間違えたカメラみたいに白飛びしている。
冷めていないだけの鍋からは、食べかけの野菜と麺の匂い。
卓上コンロのとろ火を止めて、後片付けは明日にしよう。
眠気が回って寝転がる。腕を枕に、冷たい手が頬を慰める。このまま寝てしまおうか。
エアコンをつけたまま、炬燵の中に入ったまま。
風邪を引いてしまうかもしれない。
そうしたら、心配してくれるだろうか。
慌てた様子で帰ってきて。
「ごめん」と言って抱きしめて。
熱く夜に溶け合って。
彼はまた私を見る。
「おやすみ」
余韻の消えた心臓に手を重ね、あなたとの夢をもう一度。




