襲撃
切鴨神社からの迎えは夕方になっても来なかった。本部から来援の予定の常設隊とも連絡が取れなかった。なぜか全員の携帯電話がつながらず、道場の固定電話が不通だった。
夏至を少し過ぎた季節だったので、日没は遅かった。
「日が暮れます」と正一。「どうなされますか?」
「応援を待つしかありません」と広瀬。
「私が車で様子を見に行きましょう」と白木。
「少し霧が出てきたようだわ」と美津子。「標高が高いせいかしら。」
「おじい様、気配がします」と蘭。
「そうじゃな」と正一。「美津子さまは座敷にお入りください。」
縁側から外を伺っていた蓮が「昼間の化け物が来ます」と言った。「十体はいます。」
広瀬らは縁側に駆け寄った。駐車場から入ってくるものや壁をよじ登って出てくるもの、大小、十体はいる。
正一は長押に掛けてある手槍を取って縁側に立ち「蘭とばあさんは裏手に回ってくれ。蓮は美津子さまの側についておれ」と指示を出した。
広瀬は慣れぬ手つきで銃を抜き、覚悟を決めた。
「蓮、弓矢を二張り取ってきなさい。一張りを広瀬先生にお渡しして、お前も射なさい」と正一。
化け物はゆっくりと近づいてきた。広瀬は蓮から弓を受け取り、一番手近な化け物に射かけた。ひゅうと化け物を打ち抜くと消えて矢に突き刺さった人型の札が塀に刺さった。
「お見事!」と正一。
続いて蓮が一射して命中させ、広瀬がさらに二射目を命中させた。
化け物たちは近づいてくる。道場の明かりで化け物がかぶった面が見える距離まで近づいた。耐えられなくなった警備の男たちが拳銃を撃ったが効果はなかった。
駐車場で車の急ブレーキの音が聞こえた。ドンという音を立てて止まったようだ。
「キャー、何よこれ!」という女の叫び声がして、バタンと車のドアが閉まる音がした。
駐車場から女が飛び出してきた。化け物の攻撃を巧みにかわしながら走ってくる。驚くべき身のこなしである。
女は子供を胸に抱えていた。軽い身のこなしで、土足のまま縁側に上がった。
「何よあれ!気持ち悪い!」と女は叫びながら靴を脱いだ。
女は抱いた子供を道場の畳に寝かした。弘樹だった。
女は蓮を見て「あなたたち、警護に付いて行ったんじゃないの?」と言った。
「迎えが来んのじゃ。それより襲われておる。手伝ってくれ」と正一。
「どなたですか?」と広瀬は正一に尋ねた。
「うちの師範の仁美です」と正一。
白木が「ほう」と驚いた顔をした。
「わかったわ」と言うと、仁美は長押の大長刀を「よっ」と体を伸ばして取った。
「私が下に降りて始末するから、誰も降りてこないで。中は蓮に頼むわ」と仁美。
「久しぶりに弘樹と二人きりになれると思ったのに」と言いながら、ポンと縁側から下に降りた。
大長刀を両手で持ち上げてぶんぶん振り回しながら、すさまじい勢いで化け物たちに斬りつけていった。あれよあれよという間に塀を乗り越えてくる化け物たちを一掃した。
技の素晴らしさはもちろんだが、その攻撃範囲がすさまじい。ちょっとした運動場ほどもある広場にまるで付け入るすきがない。
ふうと一息ついたそのとき、耳鳴りのような音が響いて、新たな化け物が姿を現した。身の丈五メートルはある。顔には翁の面、手とも足ともつかぬ脚を塀にかけて乗り越えようとしている。
「こんなの無理よ!気持ち悪い!」と仁美。「ちょっと!弘樹を起こして!」
蓮は弘樹に駆け寄って、体を抱き起した。弘樹は床に腕をついて、外を見ると急いで立ち上がった。蓮から刀を受け取ると、さらりと鞘を払ってひょいと外に飛び出した。そのまま地面を飛び跳ねて、ポーンと空を舞い、塀の内側に入った巨大な化け物を上から真一文字に斬り下ろした。
二つに切れた畳のように大きな人型の呪符を残して化け物が消えた。
すばやく仁美が飛び出して弘樹に駆け寄り、体を支えて抱きかかえ、道場の縁側に戻った。
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