第一話 魔法少女、居酒屋でバイトを始める(1)
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「お、『未経験者歓迎、月給二十五万円以上。インセンティブ次第で月四十万円以上もやる気次第!』……って、これすっごいじゃん! うははー! いい会社残ってるじゃないの!」
「業務内容、ハウスクリーニングの提案営業って書いてあるモモ。これ手当たり次第にピンポン押して安値で清掃しながら何かぶっ壊して屋根の修理とか床下のリフォームとか売りつけるやつってネットに書いてあったモモ」
「詐欺じゃないのよ……無職とは言え子供達の夢を守るシャイニードリームとしてそれはできないわ」
「……シャイニードリームじゃなくても普通に法律違反モモ」
安アパートの一室で、私は求人のフリーペーパーに隅から隅まで目を通していた。
何としても、私はまともに自活できる職にありつかなければならないのである。
施設を出てからもしばらくは社会福祉コーディネーターの人の協力やら幾ばくかの支援金も頼れるとはいえ、永久に続くわけではないのである。
「あ、これバイトだけど高くない? 『二時間程度楽しくお話するだけで六千円』だって。隙間時間にシフト入れるなら――」
「中年男性とデートする仕事モモ」
「……パス」
思わず仰向けに倒れ込む。
「あー……やっぱ四月になっちゃうとマトモな仕事でマトモな給料のところは無いわね……」
新年度が始まって新卒の人達も働き始めたこの時期に求人が出ているという事は、出入りが激しいかそもそも新卒が来ないような所である事が多いわけで。
「あ、ビルの窓拭きってこんなに貰えるの? これ変身して飛んでやれば楽勝じゃない?」
「お金のために変身なんてしてたら光の国の女王様に後でどんな折檻喰らうかわからないからやめてモモ」
「くっ……そう言えば学校遅刻しそうになった時に変身しただけでプロレス技かけてきたのよねあの筋肉女王……」
「プロレスじゃないモモ。光の国近接格闘術の一つ、シャイニングウィザードモモ」
よもや世界に希望を照らす光の国の女王が全プロのカリスマ、ケイジ=ムトーの得意技とそっくりな技を使ってくるとは思わなかったが、あれも今となってはいい思い出……ではない。普通にトラウマである。
「だいたい高卒で資格も無いのに未経験高収入で都合よくマトモな会社に就職できるならみんな大学とか専門学校とか行かないと思うモモ」
「ぐぬ……」
この妖精、光の国とか言うメルヘンな場所の出身の割にシビアな正論で殴って来るのが腹立たしい。
「まあ高望みする前に、ある程度時間取れる少しだけ高めのバイトを見つけて気長に就活するのが無難だと思うモモ」
「現実主義ィー」
……とは言え。
確かに高望みだけして路頭に迷うわけにはいかない。
今はまず、足場を確保しなければ。
「でも夢はどうして『宿り木園』を出てしまったモモ?」
「ん?」
「里親とかに出されてないモモなら生活基盤が安定するまでもうしばらく居させてもらうのも出来たはずモモ」
宿り木園と言うのは先日まで私が居た児童福祉施設の事だ。
まあ確かに制度上事情があれば十八歳になってからもしばらく居させてもらうこともできたらしいのだけれど。
「……宿り木園はさ、小さな子供達とか毎年入って来るじゃない? 沢山のそういう子達とかを守ってる園長先生達にさ、世界を救った魔法少女が脛齧り続けるわけにはいかないっしょ」
「夢はヘンなとこ律義モモ。……けど、夢らしいと言えば夢らしいモモ」
「ま、そういうことだから、明日から手当たり次第に求人応募するわよ!」
「応援するモモ!」
「あ、応援はいいから履歴書書くの手伝って」
「……世知辛いモモ」
こうして。
私は志新たに職探しを本格的に開始したのであった。
――のだが。
「一週間で十件以上バイト面接受けて全滅なんですけどおおおおおお⁉」
魔法少女シャイニードリーム、無職。
未だバイトにもありつけず。




