修行の旅?
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ザパーン!と音を立てて、水しぶきを上げて、大声を上げて、菜都美先輩がウォータースライダーを滑り落ちて来た。
「痛っ!!鼻に水入った!」
「大丈夫ですか?」
「ストレス解消になる。日野君、もう一度行こう!!」
あーあ、もうヤケクソ?ストレス解消って…………
「さっき、聞いちゃった事気にしてます?」
「気にしない訳ないよね?私そう思われてたんだ……。なんか……自信無くすなぁ……。元々自信なんか無かったけど。」
そりゃ、あれを聞いたら、気持ちも下がるだろうな……。
それは、ウォータースライダーに行くか行かないかモメていた時事…………
「3秒以内にどっちか選んでくださいね~!3、2、1……」
「あー!ハイハイ!行きます!」
「そんなにウォータースライダーが好きですか?じゃ、行きましょう!!」
すると、目の前に芦原さんと野々村さんが通りかかった。二人はこっちに気づかずに、プールサイドのベンチに座った。俺達はすぐ後ろのプールに浮きながら、話を聞いていた。
「ミホは茂木先生を信じ過ぎだよ。何でも話し過ぎ。」
「どうして?だって、カウンセラーの先生だよ?話聞いてもらうのが普通じゃないの?」
「あの人は名前だけだよ!カウンセラーって言っても資格もない、ただ話聞くだけの人だよ。普通は、精神科の先生や臨床心理士の資格持ってる大学教諭とかがなるんだよ?」
確かに、菜都美先輩自身も言っていた。みんな、お飾りのカウンセラーと知っていて、芦原さんと小崎と加島の三人以外、誰も相談に来た事はないと……。
「あんなコネで入った中継ぎカウンセラーに、何でも話しない方がいいって。」
「中継ぎ…………?先生、辞めるの?」
「次のカウンセラー決まったら辞めるだろうね。」
実際、菜都美先輩はいつ辞めるよう言われてもいいように、就活をしていた。
「すぐにいなくなる人間が、私達の関係をかき乱して行って欲しくないんだよね。正直迷惑。」
その言葉を聞いた菜都美先輩は……当然、その場にいられなくなって、音もなく泳いで移動していた。そして、急にいなくなったと思えば、あっという間にウォータースライダーの列に並んでいた。
あれは絶対モヤモヤしてるな……。野々村さんの言った事は事実だし、菜都美先輩自身わかってた事だけど…………
それから、菜都美先輩は、何度も何度もウォータースライダーを繰り返すという修行の旅に出た。