何がしたい?
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正直、小崎と芦原さんがキスしたと聞いても…………大して驚きはしなかった。小崎の様子を見れば、何となく何かあった事は推測できた。
俺が野々村との事を謝った後、芦原さんは、小崎とキスをしたと告白して謝った。そして、泣いていた。
「加島君、ごめんね。悠太の事、嫌いにならないで。」
「え…………?」
いやいや、だからそれはおかしいって。そこ、自分の事は嫌いにならないでって言うのが普通だろ?
芦原さんはやっぱり、小崎の事しか頭にない。それが、少し悔しい。
「じゃあ、おあいこという事で。お互いあんまり気にしないようにしようよ。」
暗くなったり、険悪な雰囲気になるのは嫌だった。
どういった経緯で二人がそうなったのか……事故なのか、意図的なのか……訊きたい事は山ほどあった。
でもそれを、全部飲み込んで、心に蓋をした。
「じゃあ…………今度は俺と……」
俺は涙を拭いていた芦原さんにキスをしようと…………
顔を近づけた瞬間、ガチャッ!とドアの開く音がして、慌てて芦原さんから離れた。
弟の雅が帰って来た。なんてタイミングだよ!!
「だから雅!ただいまは?!」
「…………。」
「雅黙るな!」
あ、危ね~!弟にとんでもない所を見せる所だった!!こうゆう時、無口な弟で助かる。姉貴に見られようもんなら、確実に言いふらされる。姉貴を見てると思う。女という生き物は怖い。
怖いと言えば、ある意味芦原さんも違う意味で怖い。小崎以外の人への配慮に欠ける。芦原さんにとって小崎以外の人間の俺は、でくの坊に見えているんじゃないかと思えてしまう。
「雅君、おかえりなさい。」
芦原さんは弟に笑顔でそう言っていた。
「……ただいま。」
そこは黙らないのかよ!!
でも、正直…………野々村とキスした後の方がドキドキした。
あの時の、野々村の苦悩の表情が、今でも頭から離れなかった。
野々村にあんな顔させて、芦原さんを泣かせて…………俺は一体…………何をやってるんだろう?
小崎から芦原さんを取り上げて、芦原さんの親友に手を出して、心を揺らして、一体何がしたいんだろう?