第20話 元落第クラスの、特別授業
俺がヒルデへ来て、二年。
丘陵学園の公開授業に、三人の卒業生が戻ってきた。
消防隊の徽章を付けたレナ。
肩に配達鞄を掛けたカイ。
土で白くなった手袋を持つミナ。
レナとミナは二十歳。カイは十九歳。
三人とも、俺の教室で自分の席を探しかけ、途中で止まった。
もう、そこには別の生徒が座っている。
「今日は、教える側ですね」
ミナが言った。
「さっきまで忘れてた」
カイが耳を掻いた。
レナは、教材の箱を前の机へ置いた。
準備は三人でしてきたらしい。
俺は何が入っているか、教えてもらっていなかった。
ルチアが扉のところで、生徒たちへ三人を紹介した。
今は二十七歳。
三十歳の俺とは、半年前に結婚した。
結婚式でカイが紙吹雪を風で集めすぎ、俺たちが見えなくなった話は、今も町でされる。
止めるのは、ちゃんと上手かった。
レナが、箱から小さな皿を出した。
皿の上には、乾いた薬草。
ミナが周囲へ土の囲いを作り、カイが窓へ流れる空気を調べる。
「火を使う前に、何を確かめた?」
レナが問いかけた。
前の席の少年が、三人の手を順番に指す。
準備の話から、授業が始まった。
薬草は、短い火で焙られた。
焦げた匂いはしない。
生徒たちは色を見比べ、温め方で香りが変わることを確かめた。
レナは火の輪を見せたが、それを一番目にはしなかった。
次に、カイが紙の小舟を配る。
机の上で、風を送り、止める。
最初から滑らかにはいかない。
隣の机へ飛んでしまった舟を、持ち主が慌てて追った。
カイは、もう一艘を手渡した。
「飛ばせたな。次は、この線のところで止めよう」
俺は、窓際でその声を聞いた。
失敗した少年が、すぐ椅子へ戻った。
ミナは小さな土の柱を三本、机へ並べた。
硬い柱。軽い柱。水が抜ける柱。
同じ土で、違う仕事ができるという話だ。
少女の一人が、硬い柱だけを持ち上げた。
「これが、一番いい柱?」
ミナは、橋の模型を置いた。
三つを違う場所へ使い、小さい重りを載せる。
「ここには、この柱がいいです。こっちには、別の柱を使います」
少女は模型を覗き、残る二本も手に取った。
ミナは、その手が動くのを待っていた。
授業のあと、三人は職員室へ来た。
机の上には、新しい記録球が並んでいる。
番号が増え、担当の教師の名も増えた。
王立との合同研修で来る教員のために、教材棚をもう一段作る予定だった。
レナが、俺の火の試験結果を見つけた。
今年の得点は、十六点。
以前より四点高い。
「先生も、練習してるんだ」
「生徒が頑張っているからな」
カイが、黒板の横へ行った。
そこには、三人が書いた紙が残っている。
三拍の輪。止められる一歩。通り道のある壁。
下には、入学した生徒たちの得意なことが、少しずつ増えていた。
ミナが、自分の卒業ノートを俺へ渡した。
仕事で気づいたことも、後ろへ足してある。
全部使っていいと言われ、俺は必要な頁だけ、許可を得て写すことにした。
三人は昼食を食べ、また町へ出ていった。
午後からは、各自の仕事がある。
俺とルチアは、門のところで見送った。
「次は、雪の前に来る」
レナが言った。
カイは、届いた郵便があれば自分が持ってくると約束した。
ミナは掲示板の脚を確かめ、まだ大丈夫だと頷いた。
三人の背中が、坂を下っていく。
もう、点数を背負って歩いてはいなかった。
教室の方で、鐘が鳴った。
ルチアが俺の袖を引いた。
「イオ、次の授業です」
「行こう」
俺は、教科書を持ち直した。
廊下の向こうから、新しい生徒の声が聞こえる。
教室には、違う三人が待っていた。
大勢の中から、自分の得意をまだ見つけられていない三人だ。
俺は彼らの前へ立ち、最初の質問をした。
「今日は、どんな魔法を見せてくれる?」
完




