パンデミック4日目 ふうちゃんの友達
「お兄さん」
「ん?」
振り返った光汰の前には、一人の少年が立っていた。
埃で薄汚れた入院着で不可思議な恰好をしているが、光汰の表情は何か別のことに驚いているように見える。
「こ…こんな時間に何をしているんだい?」
「友達を探しているんだ」
「友達?その子の名前……ふうちゃんだったりするかい?」
光汰の発言に少年の体が一瞬ピクリと反応する。
「そうだけど、その件で聞きたいことがあるんだ」
「ふうちゃんじゃなくて、俺に聞きたいことか?」
「そう。お兄さんがふうちゃんと一緒にいて……なんだろ?ふうちゃんがゾンビにあっち行けとか言ったとき、その方向にゾンビが向かったことあった?」
「悪いが記憶にないな。それにそんな事が可能なのか?」
少年は期待していた返事と違ったのか対、大きなため息を吐く。
「そうだよね。それが可能なら、お兄さんが駐車場でゾンビを倒す必要もないもんね」
「駐車場……あのとき見てたのか?」
「うん。初めはお兄さんを殺すつもりだったけど、ふうちゃん協力的だったし、お兄さんもふうちゃんを守りながら戦っていたし、何よりふうちゃんが笑顔で一緒にいたから、お兄さんと一緒の方がいいかなって思って辞めたんだ」
少年はポケットからビスケットを取り出すと、ボリボリと食べ始める。
「そりゃどうも。それより今から食事なんだが、良かったら一緒にどうだ?」
「良い話だけど、今は優先すべきことがあるから辞めておくよ」
「友達に顔を見せるよりも優先すべきことがなんなのか、良ければ教えてくれないか?」
少年はきょとんとした表情を浮かべた後、僅かに口角を上げると腕や脚など何の前動作もなく一瞬で光汰との距離を詰める。予想外のことだったのか、光汰は一瞬ビクッと反応はしたものの動かずに、表情は強張っているように見える。
「ふうちゃんと一緒にいるのに、今更何をびっくりするの?」
「な、何を言って――」
「お兄さんは、ふうちゃんが普通の人間じゃないって薄々分かっているんじゃない?」
「そ、それは……」
「ねえ?普通の人間ってなんだろうね?知能があること?二足歩行すること?顔と体は一つで手足は二つずつ?物を消せないこと?速く移動できないこと?ゾンビに襲わること?」
「哲学だな。悪いが各個性がある時点で、俺は普通の定義は決められないと思っている」
少年は再びきょとんした表情をすると、何の前動作もなく光汰から距離をとる。
「ふ~ん。もしふうちゃんがゾンビに命令できるようになったら、それでもお兄さんはふうちゃんの事を人間だと言い切れる?」
「人間社会でも上司が部下に無理難題を押し付けるなんて良くある話だぞ?それがゾンビになっただけで多少驚くかもしれんが、ふうちゃんがふうちゃんな事に変わりない」
「あはは!お兄さん面白いね!いいな~、ボクもずっとお話していたいなぁ」
「だから、一緒に食事でもどうだって――」
「いや、ボクが探している子があいつ等に先に取られたら、この世の終わりだから出来ないね」
「あいつ等?」
「友達だった奴等だよ。方向性の違いで…もう友達じゃないけど……」
ぐっと噛みしめた少年の唇から、一筋の赤い血が流れ落ちる。
「そいつ等も、きみやふうちゃんみたいな特殊な力があるのかい?」
「あると断言できるけど、個性の話になるからどんな思いと共鳴して、どんな力を使えるかは分からないかな」
「共鳴ってなんだ?」
「あ、はは。その様子だとふうちゃんは共鳴してないっていうか、あの話を理解してないっぽいね」
少年はクッキーをポリポリと食べながら、光汰に共鳴のことを説明し始めた。
「強い思いに呼応して使える力か……つまり、きみのさっきの動きは、ふうちゃんを見つけないと思ったときに使えるようになったと」
「ふうちゃんと逸れた時は心臓が停まるかと思ったよ。まぁ、今は優しくて面白くて強いお兄さんに見つけてもらえて、結果オーライなんだけどね」
「俺の人格はどうでもいいとして……その共鳴がふうちゃんにも起こる可能性があると?」
「何が切っ掛けになるか分からないけど、絶対に使えるようになるだろうね」
「…………」
「それじゃ、ボクは行くよ。気晴らしに付き合ってくれてありがとう」
「な、なあ、その子を探すのは俺達も手伝うから、きみも一緒に――」
「ありがとう。でも、あの子はこの島や国だけじゃない……この星が二度と生命が誕生できなくなるような力があるから、あいつ等に奪われるのは死守しなくちゃいけないんだ」
少年は光汰に背を向け、何かをボソっと呟くと瞬きする間もなく姿を消してしまった。
「あぁ、任せろ」
最後に少年が言っていたことを光汰は聞き取れたのだろうか?
光汰は食糧が入った箱を車から下ろし、建物の中へと戻っていく。




