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絵空事イデオロギー  作者: 千枝幹音
第05章 一過性ドラマツルギー
73/213

067話 【SIDE-鷹野菖】表局域の声色

【B】『《パンゲア》日本で運用開始。世界で42ヵ国目』


【C】『タクシー運用汎用システム《joxi》発表。国家プロジェクトとして日笠重工が2年前から受注開発』


【C】『太陽フレアに備え、総務省が災害対策本部を設置。3年後の黒点の極大期までに具体策を検討』


【D】『郷田ハヤトの初主演ドラマ、前番組で視聴率18.6%』


【D】『エイプリルフールに各社がSNSで企画投稿。誤解を生み謝罪するケースも』



「……だってさー。なんか味気ないねー。あっ! でもハヤトのやつは私も見たよ! めっちゃ良かったし放送が楽しみ!」


 今日から高校2年生。

 私は学校が始まるよりも先に、今年度最初の生配信をしていた。今日から運用が始まるパンゲアを覗いてみる――といった企画を配信に乗せている。

 情報の要点が簡潔に閲覧でき、なんかソース元の動線とか時系列とかが整理された今風UIのオシャレなブラウザだったけど……配信的にはあんまり面白くなりそうにない。


 ――これ、新聞社のニュースサイトと変わらなくね?

 ――アイリスは今日嘘ついた?

 ――こんなもんでしょ

 ――AIがやってるから偏向報道できないのに意味がある

 ――これもうアオ派の大勝利だろ


 アオ派、か。

 3年くらい前、なんかの工場で亡くなった人がいた。その人は国と工場の癒着みたいなのを暴こうとしてたらしくて、でも亡くなった理由も隠されちゃったって言われてる。その所為で国の隠蔽体質に反発する勢力に火がついて、アオ派って名乗るようになったのは知ってる。

 その人たちは偏向報道に反対する活動も行ってて、そのひとつがパンゲアの推進みたいな感じになってた。


 クラスメイトが雑談で普通に政治の話をするのは、上京して驚いたことのひとつだった。意識が高いというか、高校生でも大人びた考えを持ってる。まぁ私は中学まで同級生なんて言える友達は居なかったから、知らなくて当然の世界なんだけど。


 でも、自分の今までの意識の低さは反省。


 故郷の寒村からSNSを通じて覗いていた光景は、言ってしまえば興味のある話題だけ。クラスメイトとか、生配信とか、双方向のコミュニケーションをして初めて若者の中でのアオ派の存在感を知った。


 ――アオ派最強!皆国党涙目!

 ――パンゲア加盟の最終判断は与党だぞ

 ――トオル◯しといてタクシー計画順調なのありえん

 ――こんなとこでまで政治の話すんな

 ――老害発見、お前らが政治に無関心だったから日本がこんななってんだろ


 あぁ、ちょっとコメ欄が荒れてきた。

 政治の話って思想の話であって、つまり一人ひとりの人格の部分の切り込むことになる。だからそれを尊重するために、大人たちは政治の雑談を避ける傾向にあるらしい。


 でも。


 古い考えのままで良いことなんて何もない。

 何年も何十年も前から続いてる風習なんて、“変わる”のが怖い大人の都合。それを変える意識がなければ、私だって目を抉られていたかもしれない。


 ――パンゲアトピックのリンク先が海外サイトだらけじゃん

 ――↑日本のメディアの透明性が低いから認められてない

 ――ウチらの年金の話とかも隠され過ぎ

 ――あー選挙権早く欲しい

 ――アイリス黙っちゃったじゃん

 ――ここアオ多くない?


「私も最近は、学校でそーゆー話題になるんだよね」


 クラスメイトが言ってた。

 確かもうすぐ参議院選挙があるから、政界はピリピリしてるらしい。アオ派の代表みたいな野党が、国会で報道の不透明性に言及したことが若い世代を味方に付けたとか。だから与党もガス抜きの効果を期待して、パンゲア加盟に踏み切ったんじゃないか、みたいなコトを説明されたのを思い出した。


「結局さ、政治家なんて選挙権ある人たちへ向けてしか喋らないワケで、私たちは蚊帳の外なんだよね。消費税がどうとか、将来の年金がどうとか、私たちにも関わるコトを決めるのが選挙なのに」


 ――影響力のある若者が発信してかないと

 ――将来ツケ払わさせるのウチらなの全然報道しないよね

 ――政治家は自分の引退後はどうでも良いって考えてる

 ――第四の権力とか言ってるくせにメディアはアテにならん

 ――ネットの方が真実を知れる時代


「あーなんかムカついてきちゃったよ。50年後とかに私たちが苦しんでも、今投票してる人たちには関係ないもんね。でも私たちには異議を唱えるコトすら許されないなんて」


 窮屈な村から飛び出して、私はこの広い広い東京にやってきた。それなのに私の世界はまだまだ狭っ苦しい、そんなコトに気付き始めてしまっている。


 私は今、アイリスとしてSNSで3万人近くのフォロワーを抱えている。生配信でのコメントはもちろん、質問アプリやダイレクトメッセージなど様々な方向から言葉を貰う。

 好きな話題だけ見ていた昔とは違い、同世代の色んなキモチが流れ込んでくる。すると、憧れだけじゃ見えてなかったモノが、憧れられる立場になって見えてくる。


 ――今の年寄りの年金下げろって話

 ――それ言うと票取れなくなるからやるワケない

 ――昔って就活しただけで企業からお車代貰えたらしい

 ――↑苦労してない世代が牛耳る日本腐ってるな

 ――このままだと日本滅ぶ


 みんな、憤りに満ちていた。


 高齢者が増えると、高齢者を優遇する政策をマニフェストに掲げた政党が票を取りやすくなる。シルバーデモクラシーっていうのをこの前授業で習った。


「聞いて欲しいよ、私たちの声」



 私の願望は、みんなから憧れられたいという欲求から、みんなの気持ちを代弁したいという欲求へと、移り変わりつつあった。


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