080『臨終のひい祖父さん』
まりあ戦記・080
『臨終のひい祖父さん』 晋三
出来の悪い女子中学生が母親と一緒に学校に行くみたいだ。ほら、中三の二学期くらいにあるだろ、進路決定のための三者懇談ての。親の期待値と娘の現実とのギャップが白日の下にさらされて、行ける高校は学区の最底辺校。その現実を、日ごろの素行とともに親に知られて、担任の前で親子喧嘩確定の道行だ。
親父は、中学生だったころの時子、つまりお袋の姿。みなみ少佐は私服のパンツスーツ。こういうシチエ―ションの場合、娘は親と二メートルは距離を開ける、鬱陶しいからな。母親も、たいてい不機嫌か、意識的に無表情を装うというのがデフォルトだと思う。
ところが二人は横並びだ。少佐はなんだか楽しそう。親父はうつむき気味に腕を組んで、なんか、これからワンクール13回、少しナナメのホームドラマが始まるみたいだ。
「くれぐれも、俺は舵時子、司令であることに間違いは無いが、特例で司令をやってる女子中学生。きみは、その手足となって働いている副指令。微妙に虚実が入り混じってるから気を付けてくれ」
「はい。でも、わたしが付いていっていいんですか?」
「きみは次代を担う戦力の束ねだ、現実を見ていて欲しい」
「はあ、それなら金剛中佐も一緒の方がよくなかったですか? 筑波からならニ十分ちょっとですし」
「病室は、それほど広くない。それに三人も居ては物々しすぎる……」
「はぁ……」
行き先は分かっている、ひい祖父さん岡田時蔵の病院だ。カフェテリア白樺で寛いでいると病院から——危ない状態です——と連絡が入ったんだ。
ショートカットに公園を斜めに横断、途中、微妙にキョロキョロ。
「なにか?」
「あ、なんでもない」
二回角を曲がって例の病院。エレベーターで表示のないボタンを押して上に行くのやら下に降りるのやら、ホトケさんの俺にも分からないんだから相当の技術か魔法か、今回も分からない。
「入るぞ」「はい」
病室のひい祖父さん、顔に白布は掛けられていないから、まだ息はある。しかし、鼻や体のあちこちにチューブが繋がれ、バイタルモニターの波形はさざ波のよう。血圧も健常の半分程度。ただ脳波計だけがせわしく振れ、この期に及んで思考を重ね煩悶しているように見える。
「お祖父ちゃん、元気してる?」
『おお、時子かぁ……』
脳波を解析して人工音声がモニターから聞こえる。
「うん、予定より早いけど、紹介したい人もいるから来ちゃった」
『横に立っているオネサンかい?』
「うん、こんど副指令をやってくれることになった高安みなみ少佐だよ」
「高安少佐です」
軍人らしく30度の礼を決めると、モニターに映った少佐が素っ裸になる。
「ウ……」
次に数秒で内臓から骨格まで系統的に映され、元の姿に戻る。
「お祖父ちゃん、メだよ」
『どこもいじっていないんだな、立派だよ……少佐、時子をよろしくお願いするよ。年端もいかんのに、司令なんぞまかされておる、能力、気力ともに申し分のない孫だが、やっぱり不憫でな。いつになるか分からんが、ヨミのことが解決したら、いいアドバイザーになってやってくれ』
「はい、承知しました」
『本来なら、この岡田時蔵が……』
ピピピピピ
モニターが——ちょっとヤバイ——と警告を発しやがる。
『時間が無いようだ……そうだろ、先生?』
「はい、いささか……」
そう言って、医者はヘッドギアみたいなのを親父にわたした。
「これを?」
「はい、装着してください」
『なに、心配はいらん。わしのソウルの一部を……ゴミみたいなものだが、わしもよくわかっていないが、なにかの役に立つ気がする。受け止めておくれ』
「う、うん……」
カチャ
「では、行きます」
医者がモニターにタッチすると、昔のコンピューターのようにすごい速さで数字やらアルファベットが流れていく。親父の……時子の頬が赤く染まって、閉じた瞼の端から涙が溢れてくる。文庫を3ページほど読むくらいの時間が経つと、モニターの心電図がフラットになって、血圧は上下ともに0になってしまう。しかし、医者は止めようとしない。ひい祖父さんに言われてるんだろう。人間、体が死んでも、脳みそは数分生きてるって言うものな。
文庫5ページくらいの時間が経って、ヘッドギアのパイロットランプも消えた。
「済みました」
医者が終了を告げると、助手の医者が「6時39分、ご臨終です」と宣告し、女性看護師が用意の白布をひい祖父ちゃんの顔に掛けた。
その時、ひい祖父ちゃんは俺の横に現れて『おお、君は……?』と、ちょっとビックリしたような顔になり『そうか……』と優しく肩を叩くと、そのまま後ずさって消えてしまった。
☆彡 主な登場人物
・舵 晋三 永遠の16歳 法名・釋善実
・舵 まりあ 晋三の妹 高校2年 ウズメのパイロット
・舵 晋太郎 特務旅団司令 晋三とまりあの父
・高安みなみ 特務旅団少佐
・中原光子少尉 みなみ大尉の副官
・金剛武特務中佐 ベースのコンピューターの保守を任務とする技術士官
・テレジア(元マリア)ガイノイド戦士(031から)まりあのガード(VR10201改)
・ナユタ ソメティのパイロット 第二首都高一年
・徳川曹長 みなみの世話係
・まりあの友達 釈迦堂観音(お堂さん) 矢治公男と喜田伸晃 鈴木さん 佐藤さん
・学校の先生 瀬戸内美晴(担任)
・岡田 時子 舵司令がたまに入れ替わる母の若いころの義体
・岡田 時蔵 時子の祖父(080で死亡)
・メグリ先生(?) 晋三が小一の時の担任
・米国特務旅団 どろしい ヘンリー准将 ボギー大佐
☆彡 重要語句
・インテグレーション(integration) ウズメ02を複数パイロットの能力を統合して操縦すること
・セパレートアタック 複数パイロットが個別にコントロールして攻撃すること
・ケティちゃん ケティちゃんを依り代とする小思念体
・PONSY ポーツマスネイバルシップヤード(アメリカの特務旅団)
・中華飯店 ポーツマスのレストラン、78回からは中華飯店9090




