076『戦い済んでご飯会・1』
まりあ戦記・076
『戦い済んでご飯会・1』 晋三
ヨミは物理的に都市や国を破壊するだけじゃない、人の心も蝕んでいく。
当たり前だよな。家や町が壊れるだけじゃなくて、人が大勢死んでいくんだ。東京なんて山手線の内側が壊滅して海のようになっちまって、死者行方不明者は500万とか言われてる。生き残った人間は神経症のようになっちまって、普通じゃいられねえ。
それで、政府は被害の大きかった地域に鎮静ガスを恒常的に流している。なんだか国ぐるみで麻薬を使うようなもんなので、日本は弱いガスを使っていた。それで、なんとか持っていたけど、効果が切れると集団ヒステリーみたいになっちまって、集団で無茶をやる。まりあの影武者でボディーガードだったマリアは、そのためにボコボコにされちまって、テレジアと名前を変えてガードに専念。ポンジーに来てからはパルスジェットに乗って空中管制機をやってくれたりしている。
日本は、ここへ来て、鎮静ガスをアメリカ式に切り替えた。俺たちがポンジーに派遣されたのは、そのバーター交換という意味もあるのかもしれねえが、深くは考えない。生前から深く考えない性質だったけど、ひょっとしたら、ホトケさんの俺にもガスの効果があるのかもな。
ただ、アメリカ式は、効き目と引き換えに人の寿命も縮めてしまう。それでも、四捨五入するとプラスだというんだからGOサインを出したアマテラス(日本のマザーコンピューター)も打つ手なしなんだろうな。
ゲティスバーグが一段落して中華レストランでご飯会。
二回目なんで、改めて店の看板をチェックするまりあ。前回は、ただ美味しいというだけで帰ってきやがった。「ね、ポンジーに帰ったら中華に行こうよ」と言いだして、誰も店の名前を憶えていなかったんだ。まあ、女四人ピーチクパーチク喋りっぱなしだったからな。
「え、名前無いじゃん?」
看板には漢字で『中華飯店』と大きく書いてあって、横に英訳した『Chinese restaurant』とあるだけ。
「ポーツマスで中華料理はうちだけだからね」「アハハハ」
日ロの共同経営者が楽しそうに笑う。
中原少尉は思った。
——ポーツマスと言えば海軍工廠で持ってきた街で、夜には仕事明けの工員や職員が繰り出してきてけっこうな賑わいになるはず。おそらく中華料理は他にもあったんだろうけど撤退したんだろう。ポンジー以外の工廠は無事に見えているけど、内実はそうでもないみたい——
俺も含めて、ポンジーの外は、こないだ行ったフォスター砦の他には、この店のあたりしか知らねえ。荒廃した日本に慣れたせいか、ポーツマスは普通に見えてるけど、カツカツなのかもしれない。
席に着くなり四人で十品以上注文——早い! 安い! 美味い!——と謳っているわけでもないんだけど、さすがは横浜中華街で鍛えた腕、次々と料理が並んで、さっそく八本のお箸やレンゲがテーブルの上で空中戦になった(^^;)!
カチカチ パックン ゴックン シュシュシュ カチャカチャ ムシャムシャ ゴクゴク……
「ちょ、食べてばかりいないで、なんか話題を提供しなさいよ!」
出てきた料理を、どれも半分かそれ以上食ってしまうナユタにまりあが振った。
「え、ああ、そういえば、アメリカを襲ってきたヨミって、どんなのが居たんだ?」
器用にシュウマイを右頬にキープしながら質問する。
「え、ああ……」
どろしーは微妙に躊躇したけど、まりあの——あたしらの分無くなっちゃう!——という目配せに口を開いた。
☆彡 主な登場人物
・舵 晋三 永遠の16歳 法名・釋善実
・舵 まりあ 晋三の妹 高校2年 ウズメのパイロット
・舵 晋太郎 特務旅団司令 晋三とまりあの父
・高安みなみ 特務旅団大尉
・中原光子少尉 みなみ大尉の副官
・金剛武特務少佐 ベースのコンピューターの保守を任務とする技術士官
・テレジア(元マリア)ガイノイド戦士(031から)まりあのガード(VR10201改)
・ナユタ ソメティのパイロット 第二首都高一年
・徳川曹長 みなみの世話係
・まりあの友達 釈迦堂観音(お堂さん) 矢治公男と喜田伸晃 鈴木さん 佐藤さん
・学校の先生 瀬戸内美晴(担任)
・岡田 時子 舵司令がたまに入れ替わる母の若いころの義体
・岡田 時蔵 時子の祖父
・メグリ先生(?) 晋三が小一の時の担任
・米国特務旅団 どろしい ヘンリー准将 ボギー大佐
☆彡 重要語句
・インテグレーション(integration) ウズメ02を複数パイロットの能力を統合して操縦すること
・セパレートアタック 複数パイロットが個別にコントロールして攻撃すること
・ケティちゃん ケティちゃんを依り代とする小思念体
・PONSY ポーツマスネイバルシップヤード(アメリカの特務旅団)




