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063『あちらの世界のメグリ先生』

まりあ戦記・063


『あちらの世界のメグリ先生』 晋三 





 死んだ直後に立っていた場所…………少し違う?



 そうだ、あの時は目の前が川、川の手前に居たんだ。


 川の向こうは、もっと綺麗で——あっちに行ってみたい——と思ったら、花で編まれたような橋が現れて、ディズニーランドでアトラクションの順番が回ってきたみたいにワクワクしたんだ。


 いま、振り向いたら川だったから……そうか、俺は三回忌も済んじまったホトケさんだから、川の向こう側にいるわけだ。


 納得すると花の茂みがサワサワと鳴って人影。人影は近づくにつれて女の人のシルエットになって、茂みを抜けて全身を現して……ドキッとした!


「メグリ先生!?」


 それは、小一の時の担任、メグリ先生だ!


「フフ、三年ぶりね」


「三年?」


「そうよ、あの時、川のこちら側で迎えに来たのよ」


「先生が迎えに来てくれてたんだ……」


 そうだ、記憶はおぼろになってるけど、懐かしくて綺麗な女の人が迎えに来てくれていたんだ。


 時間が経つと——懐かしくて綺麗な人——という感動だけが残って誰だったか、夢のようにおぼろになってしまったんだ。


 そうだ、あの女の人はメグリ先生だったんだ!


 先生は三年になった春に転勤して、その年の五月に亡くなった。


「そう、よく覚えてくれていたわね」


「そうだ、先生、遠足で生徒を助けようとして……」

 

「ありがとう、思い出してくれて、先生も嬉しいわ」


「ええと……出迎えてくれたということは、俺、また別の世界に?」


「ううん、ちょっと逢ってみたくて。いいかなあ?」


「ううん、そんなことないよ、先生」


「そう、じゃあ、ここも素敵だけど、遊覧飛行しながらお話ししようか」


「遊覧飛行?」


「ほら、あれよ」


 先生につられて空を見ると、白い雲の端っこが分離して降りてきて、少し迷ったようにフワフワしてから綿で作った車のようになった。


「大丈夫、これ?」


「大丈夫、デフォルトは舟なんだけど、ちょっと気を使ったんだわ。ありがとう」


 労わるようにお礼を言うと、右側から乗って、左から乗るように示してくれる。この動作で、車のような雲は、はっきり、クーペのオープンカーになった。


「行くわよ」


「うん」


 クーペは軽々と飛び上がると、雲を突き抜けて、突き抜けたところは空。


 空なんだけど、あちこちにジオラマの一部みたいなのを載せた雲が浮かんでいる。ジオラマの上には人影があって、立ったり座ったり。寝転んでいるのもいれば、歩いているやつ、走っているやつ。ボンヤリしているのも居れば、作業してるやつ、釣りをしてるやつ、本を読んでるやつ、なにか祈ってるやつ、歌を唄ってるみたいなやつ、動物と散歩中みたいなやつ。


 ジオラマ自体も、山、海、海辺、高級住宅街、下町、お城、どこかの街道、森の中、学校の中庭、麦畑、ペントハウス、砂丘、ライブ会場、公園のベンチ、数えたらきりがないほどいろいろ。独りぼっちもいるし、数人、何十人といっしょというのもいる。

 ただ、複数や大勢でいる者は、本人だけが人間で、他のはNPというかアバターというか、外から見る限り微妙に存在が薄い。


「これは、みんなあの世なのよ」


「これが?」


 あの世というか天国というか極楽というか、死後の世界は一つ、同じじゃないのか?


「人によって極楽と感じるのは様々なのよ。でしょ、ハスの葉の上で座ってるだけじゃ、いくら空気が香しくて、妙なる音楽が聞こえて天女が舞っていても……まあ、それがいいという人もいるけど、極楽や天国と感じる状況は様ざまでしょ」


「あ、まあ……」


「ほら、あんなのもあるわよ」


 クーペが向きを変えると、戦場のようなのが見えた。一人の兵士が、飛び来る弾丸やドローンを巧みに躱して、時にはドローンを撃ち落として、軽快に前進し続けている。


「あの兵士は、弾やドローンを躱して前進している時が極楽なの。あっちは……あ、舵くんは未成年だから見せられないけど(^^;)、ま、そういうのもあるわけ」


 見てみたいけど、メグリ先生が言うんだ「そうなんだ(^^;)」と平静を装う。


「えぇ……地獄はないの?」


「無いわよ。まあ『責めさいなまれるのがいいんだ!』という人には用意してあるけど、そういうのは18禁だからね」


「そうなんだ」


「魂の浄化とか救済というのが神さま仏さまの役目だからね。全知全能が救済をテーマに動いた結果がこれ」


「…………ハァ」


「がっかりした?」


「じゃなくって……」


「なくって?」


「俺って、たくさん選択肢があると選べない性質だし、極楽っていうのは一つだと思ってたし」


「ああ、そうよね普通は……アハハ」


「え?」


「思い出したぁ? 図工の時間にさ『楽しくお花の絵を描きましょう!』って言ったら『飛行機じゃだめですか?』って聞いてきたでしょ」


「あ、ああ……」


「あの時の舵くんは、飛行機の、紙飛行機の絵を描きたいんだと思ったのよ先生。男子で紙飛行機流行ってたし、机の中にご自慢の紙飛行機仕舞ってたでしょ。でも、違ったよね。画用紙で紙飛行機折って、好きな色塗りたかったんだよね」


 あの時先生は「色とか塗ったら重くなって飛ばなくなるよ」って言って、けっきょく花を描いたんだ。


「神さま仏さまも、同じなんだ。『これが極楽だぞ』って示したいんだけど、多様だからね人間は。だからこんなに極楽の種類が増えちゃって」


 方頬に皺を寄せる先生。


 子供心に——かわいい——と思ったのを思い出した。


「なに?」


「あ、そうじゃなくって」


「ううん?」


「あの世のことで気を揉むんだったら、もう少しこちら側というか、現世のことを……」


 現世の世界はグチャグチャだ。ヨミが一方的に攻めてきて、東京なんて消滅してしまうし、まりあは連日ウズメ02に乗って戦わされてるし。そっちを何とかしてほしいと思ってしまう。でも、先生のせいじゃない。


「そうよね、現世うつしよの世界を良くできなくちゃねえ……」


「あ、うちの宗旨は極楽を保障するだけだし、いや、保証してくれてるし(^^;)」


「あ、そろそろ時間。また、こっち呼んでもいいかなあ。舵くんがよかったらだけど」


「あ、うん、いいっすよ」


「そうか、じゃあ、またいつか、近いうちにね」


「あ、はい!」


 クーペが急降下したかと思うと、俺は過去帳に戻って、行儀の悪いケティといっしょに阿弥陀さんを枕にしていた。




☆彡 主な登場人物


・舵 晋三      永遠の16歳 法名・釋善実

・舵 まりあ     晋三の妹 高校2年 ウズメのパイロット

・舵 晋太郎     特務旅団司令 晋三とまりあの父

・高安みなみ     特務旅団大尉

・中原光子少尉    みなみ大尉の副官

・金剛武特務少佐   ベースのコンピューターの保守を任務とする技術士官

・テレジア(元マリア)ガイノイド戦士(031から)まりあのガード(VR10201改)

・ナユタ       ソメティのパイロット 第二首都高一年

・徳川曹長      みなみの世話係

・まりあの友達    釈迦堂観音(お堂さん) 矢治公男と喜田伸晃 鈴木さん 佐藤さん

・学校の先生     瀬戸内美晴(担任)

・岡田 時子     舵司令がたまに入れ替わる母の若いころの義体

・岡田 時蔵     時子の祖父

・メグリ先生(?)  晋三が小一の時の担任


☆彡 重要語句


・インテグレーション(integration) ウズメ02を複数パイロットの能力を統合して操縦すること

・セパレートアタック        複数パイロットが個別にコントロールして攻撃すること

・ケティちゃん           ケティちゃんを依り代とする小思念体

   

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