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160話 パペットバトルリーグ 1回戦

 鳴りやまぬ歓声と、土煙。

 リザードマン村の中央に急ごしらえされた闘技場は、村が始まって以来の熱狂に包まれていた。

 『パペットバトルリーグ』――通称パペトルは、波乱の幕開けとなった。

 

 俺とギリムが座る審査員席の眼下では、 第1試合が佳境を迎えている。


「おおっと火炎ブレスが降り注ぐ! が、驚異の反応速度でアイリーン選手これを回避!」


 ドクンちゃんの実況にも熱が入る。

 空を舞うのは、族長が丹精込めて作り上げたロマンの塊だ。

 全長は3メートルを超え、屈強な四肢と尾、そして蝙蝠のような巨大な翼が威圧感を放つ。全身を覆うのは鱗を模した装甲。

 頭部には威嚇するように湾曲した角が二本そびえ、その口からは高威力の火炎ブレスが放たれる。

 名付けてメタルドラゴン。

 入場した瞬間の観客の沸きはすさまじく、たぶん外見人気はトップだろう。

 俺的にもビジュアルは満点をあげたい。

 そして見た目通りの強力な戦術も備えている。

 飛行しつつの火炎ブレスはシンプルながら、一方的に優位をとれるのだ。


「卑怯ですわよ、降りてきなさい!」


「そのような言葉、ドラゴン語には存在しませんなぁ」


 地団太を踏むアイリーンに対して族長がフカしているけど本当かそれ?


 アイリーンが持ち込んだのは意外なことにスケルトンだった。

 名付けて《戦輪骸骨|サクレ・ラウンド》。

 そのシルエットは、古代の戦車――チャリオットを彷彿とさせる。

 上半身は小ぶりのスケルトンながら下半身にあたるのは、並行に並んだ一対の車輪だ。

 それも上半身を隠すほどに大きな車輪である。

 戦輪と称された輪は鉄で補強され、外縁には無数のスパイクが打ち込まれている。

 また骸骨の両腕は大胆にも固定されており、その手には体格に見合わぬ長大なランスが一本ずつ握られている。

 車輪にしろ槍にしろ、激突されれば死は免れないだろう。

 

 ……車輪とスケルトン。

 前世のゲーム的トラウマを刺激されるデザインだ。

 元聖女がこれを考案したという事実に、俺は少しばかり引いている。

 ていうかゴブリンの上半身以外は限りなくゴーレムな気がするんだけど、レギュレーション的にどうなんだ。

 面白ければいいか。

 ともかく、その潔さ故に上空を舞う相手には一切手出しできない状況である。


「上空からの絨毯爆撃に、もはや逃げ場はなしかーっ!?」


 ドクンちゃんの実況通り、開幕直後から形勢は揺るがない。

 飛行能力を持たないアイリーン機に、空の覇者たるドラゴン型ゴーレムを捉える術はない。

 隣のギリムがぽそりと呟いた。


「ドラゴンという派手な見た目のわりに攻め方がセコいの」


「確かに。お前も似たようなことやってたし鉄板戦術なんだな」


 ギリムと初遭遇時、大型ゴーレムから火だの雷だの連射されたこと忘れてないからな。

 さて、今大会のトーナメントは4名による勝ち抜き戦だ。

 ドクンちゃん、ギリムといったプロは別枠のエキシビジョンマッチに回ってもらった。

 まずは族長対アイリーン、そしてホルン対リゼルヴァの1回戦。

 この勝者同士が、決勝で雌雄を決することになる。


 下馬評では脳筋のアイリーンに比べ、頭脳派キャラ寄りの族長のほうが優勢と見られていた。

 パペトルにおいてマスターが直接攻撃することは禁止としている。

 いくらアイリーンが戦いに目覚めようが、干渉できないのである。

 実際この有様だ。


(いや、アイツの目……死んじゃいねぇ!)


 しかし、俺には見えていた。

 アイリーンの瞳から、まだ闘志の火が消えていないことを。

 

 ――そして、族長のゴーレムが、徐々に高度を下げ始めたことを。


「あらら……? メタルドラゴン、翼の動きが鈍いよ!? ギリムちゃん、これはどうして?」


 ブレスを10発ほど放ったところで、メタルゴーレムは見るからに失速していた。

 族長もあわあわしているので何らかの作戦じゃなさそうだ。

 プロのギリムに解説を求める。


「どうもなにも普通にエネルギー切れじゃろ。あの巨体で飛びながらブレスを撃つんじゃから」


「なるほど納得ぅー!」


 聞けばリゼルヴァの上質なマナを魔石に注入したものを参加者共通のバッテリーパーツとして配っているとのこと。

 過剰な装飾と過酷な運動が、機体のキャパシティを超えてしまったようだ。

 格好良さの代償は大きい。


「まだじゃ、まだ舞うんじゃメタルドラゴン!」


 族長と観客の悲鳴虚しく、翼をばたつかせながら不時着するドラゴン。

 のんきに口を開けて熱を排出し始める。

 その隙をアイリーンが見逃すはずがなかった。


「粉砕せよ、サクレ・ラウンド!」


 アイリーンの指令と共に、戦輪スケルトンが突進する。

 溜まっていた鬱憤を爆発させるような、凄まじい加速。

 一直線の暴力がドラゴンへ殴りかかる。


「いけーっ! 処刑よー!」


 スケルトン贔屓かつアイリーンの師(なんの?)であるドクンちゃんが呼応する。

 二本のランスが分厚い装甲をバターのように貫いた。

 

「グギギギギ……!」


 族長の操るドラゴンが苦悶の声を上げる。

 だが、戦輪骸骨の車輪は止まず、地面を削りながら獰猛に傷を深めていく。


「族長、ギブアップか!?」


「ま、まだじゃーー!」


 メタルドラゴンは最後の力を振り絞り、ブレスを放とうと首をもたげる。

 しかし、それよりも早く、アイリーンが勝負を決めた。

 戦輪スケルトンはドラゴンの懐に潜り込むと、回転の勢いを乗せた渾身の一撃を叩き込んだのだ。


 鈍い音が響き渡る。

 メタルドラゴンは数秒痙攣した後、完全にその動きを止める。


「勝者、アイリーン!」


 ゴングが響き、会場は一瞬の静寂の後、爆発的な歓声に包まれた。

 波乱の一回戦により、これからの試合への期待が高まっていくのを俺は感じていた。


 勝利したアイリーンが、うなだれている族長に駆け寄る。


「族長様、素晴らしい戦いでしたわ!」


「うむ、見事じゃったアイリーン殿。ワシの完敗じゃ」


 二人が握手を交わし、会場から温かい拍手が送られる。

 パペトルが単なる見世物や殺し合いではなく、競技としてスポーツマンシップが生まれた瞬間であった。

 アイテムボックスを出た暁には、この世界に一大ムーブメントを巻き起こしたりしてと妄想する。


 ――――しかし、過ぎたる力は返上せねばならない。

 俺とギリム、そして俺の影に控えるものが冷たい視線を交差させた。

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