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愚者の舞い 31

 アクティースはスタイル抜群で、腰まである長い銀髪の、絶世の美女である。

長い年月をかけて改良して来た成果であるのだが、そんな事は見るだけの者には関係の無い話である。

衣服はそのまま、長い布の真ん中に穴をあけ、腰の部分を帯で止めただけの簡素な物で、裾は前後ともに膝くらいまである。

その下に、一般的なパンツと下着に該当する長い布で胸を巻き付けて覆うだけの、実に簡素な衣服であり、それ以外は素肌を晒しているので、露出度はかなり高い

住んでいる島国の、女性の一般的な衣装であるのだが、西の王国内ではその美貌も合い間って、見事に目立っていた。

西の王国では肌の露出を極端に嫌う人が多く、短衣にズボンが一般的だ。

性的な事に奥手なのが特徴でもあり、広大な大陸の中で唯一、娼婦を認めていない大国でもある。

もっとも、西の王国とは他国が便宜上呼ぶだけで、実際には西の王国と言う国は存在しないというのは先に述べた通りで、乱立する国々で考え方も制度も違いはあるのだが。

そんな目立つ存在であるアクティースではあったが、まったく気にする事無く目に付いた酒場に入った。

夕方の早い時間だけに客はまばらで、とりあえず手近な空いている席に腰掛けながら、カウンターでコップを磨いていた酒場の主人に注文する。

「マスター、酒じゃ。」

「お、こらまたすげぇ美人の外人さんだね。 どれにする?」

衣装もそうだが、風貌・髪の色も違うので、外国人であると一目で分かる。

同じ大陸内でも争いが特に絶えない西の王国だけに、あまり商人も近寄らない。

ましてやどこの国にも隣接しない、最奥の港町辺りでは、一般人は一生のうちに一人異国人を見る事があるかないかといったレベルである。

特殊な産物でもあれば話は別だが、最奥にたどり着くまでいくつもの小国を通過する必要があり、その国々で通行税を取られるのである。

命がけの上に儲けが無いのでは、来る商人などいる筈も無い。

海上を回って来る手段もあるが、海には陸よりも強大な魔物が住むため、無謀の領域だ。

ともかく、アクティースはメニューにある酒の一覧を見渡し、

「全部じゃ。」

「おいおい!? 本気かい! 金はあるのか!?」

宿を取ってからふらりと出歩いて来ましたと言わんばかりの軽装に見えるアクティースであるため、そんな大金を持ち歩いているようにはとても見えない。

酒場の酒と言っても、当然一つ一つが安くは無いのだ。

ましてや西の王国は独特の酒を作る酒処。

独特な物は当然、物量が少ないし、安くはならない。

アクティースは面倒臭そうに腰に手をやり、金を入れる小袋を出現させるのを忘れていた事に気が付いた。

今出現させるとそれはそれで胡散臭いと思われるため、仕方なく、服の脇から手を突っ込んで胸の間に手を入れ、ゴソゴソと取り出す振りをしながら見えないように拳大の宝石を出現させて主人に手渡す。

「これで足りぬか?」

店の主人は渡された宝石を見て、腰を抜かさんばかりに驚いた。

西の王国では白は神聖を現す色であり、その上産出が殆どない貴重品なのだ。

純白の宝石と言うだけで貴重品なのに、その大きさは拳大。

人目のある店内でそんな物出された際には、それこそ今晩命は無い。

噂は風より早く駆け巡り、複数の強盗が入る事間違い無しである。

「ちょちょちょちょっとお客さん! そんな高価な物受け取れねえよ! せめてもっと安い宝石で揃えてくれ!!」

主人が驚いて叫ぶのも無理が無いと言うものだ。

仕方が無く、再び胸に宝石を隠すと、改めて複数の爪大の宝石を取り出した。

「これならどうじゃ?」

「ああ、それなら料理も複数頼めるよ。 何がいい?」

ホッとした顔で主人がそう提案すると、アクティースは面倒臭そうに、

「任せる。 わらわは酒が飲みたいだけじゃからな。 それより酒を持って来たら少し聞きたい事があるのじゃ。」

「分かりました。 少々お待ちを。」

そう断わってから主人は厨房に一度下がり、まず2杯の酒を持って来た。

「とりあえずこちらからどうぞ。 それで、聞きたい事とはなんですか?」

アクティースはとりあえず、手で主人に待ったをかけてから、コップに入って出て来た酒を一口飲み、次いで飲み干してから話を切り出した。

「実は黒竜の事について聞きたいのじゃ。 どこに住んでおるか、何か知らぬか?」

「黒竜・・・。」

主人は首を捻って暫く考え込み、

「正直、噂でしかないんですが・・・中央付近にある、リセと言う王国の付近に住んでいるとか聞いた憶えがあります。 なんでも守護しているとか。」

「守護? あ奴が? ・・・そうか、分かった。」

アクティースは納得がいかないと言わんばかりに不満そうな顔に成るが、そのまま無言で考え込んだため、主人は話は終わりだろうと思い、仕事に戻って行った。

そして、次々にアクティースが飲み干すたびに酒が運ばれ、やがて夜になった頃、三人の男が店に入って来た。

腰に刀と言う独特の両手持ちの曲剣を使う、王家に仕える騎士、侍だった。

三人は最初こそ静かに飲んでいたが、ずっとアクティースを意識していたのは気が付いていた。

まあ、この侍達だけではなく、酒場に入って来る全ての者がそうであったが。

アクティースはそんな視線と関心を完全に無視して飲んでいたのだが、三人が酔ってきた頃、不意に一人が立ち上がってアクティースの下へ来た。

「おい、女。 酒を注いでくれんか。」

アクティースはその侍を横目で一瞥すると、平然と無視した。

「おい女! 聞こえんのか! 俺はこの国に仕える侍頭(さむらいがしら)の跡取りだ! 酒を注げる事を光栄に思うがいい!」

アクティースはため息を一つ、聞こえるようにつくと、

「失せろ。 酒が不味くなるわ。」

「な、なんだとぉ!? この国が平和なのは俺達が尽力しているからだぞ! 感謝の一つもしたらどうだ!!」

「それがどうしたと言うのじゃ? わらわはこの国の民ではない。 筋違いも甚だしい。」

「黙れぇい! 貴様がこうして酒を飲めるのも我々が平和を堅持しておるからだ! 俺の言う事が聞けないなら斬り伏せるぞこのクソアマァ!!!」

アクティースは片眉を上げると、今度はニタリと笑いながらその侍を見上げた。

「わらわを斬り伏せる? 面白い冗談じゃな。」

「き・・・っさまぁ!」

侍が刀の柄に手をかけた瞬間、周りにいた客がガタガタと逃げ出し、遠巻きにする。

「じゃが、先に忠告してやろうかの。 わらわはお前に斬りつけられるのを黙って見ておる気は全く無い。 抜くからにはそれ相応の覚悟を持って抜く事じゃ。」

侍の仲間達は呆れ顔であったが、この目の前の侍は完全に激昂していた。

「小賢しぃ!」

侍はそう言うと同時に刀を抜き放ち、次の瞬間にはピタッと動きを止めた。

その顔は蒼白で、信じられぬものを見たというような、呆然とした表情で。

そして、侍は・・・口から血が垂れて来たと思うと、そのまま倒れて絶命した。

「な、なんだ!?」

「貴様! 何をした!?」

ガタンと仲間の侍が立ち上がり、倒れた仲間へ慌てて駆け寄るが、その侍は既に事切れていたためになす術も無い。

「何と言われても、わらわは酒を楽しんでいるだけじゃ。」

「ふざけるな!!」

「貴様、武士に手を出しておいてただで済むとは思っておるまいな!!」

アクティースは再びため息をつくと、今度は立ち上がってギラリと二人を睨み据えた。

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