愚者の舞い 30
正眼に構えた剣を腰だめに引き、突進して間合いに入った瞬間横薙ぎで剣を振るう。
その剣を相手は一歩後退して避けた後、バランスを崩しながらも突進して来たルーケに体当たりされて共に倒れ、暫くもつれ合ってモゾモゾと動いていた。
そんなルーケを、プリンとアラムは共に眺め、ため息をつく。
「やっぱり、才能って大事なんですの〜。」
「まあ、無様ではあるな。」
プリンの素直な感想に、苦笑いを浮かべつつ答える。
だが、苔の一念という言葉もある様に、弱きが必ずしも負けるとは限らない。
それこそが人間の可能性と言うものであり、期待できるところでもある。
今は確かに無様で格好悪いかもしれない。
しかし、ここ数か月の間に多少なりとも成長しているのは良く分かった。
目に見えて成長を遂げる弟子は、見ていて気持ちが良いものだ。
それに、誰でも最初は初心者なのだから、なんでも上手くこなせる筈も無い。
やがて決着が付き、勝負は結局、ルーケの敗北に終わった。
「で、今日が約束した3日目だが。 結論は出たか? 俺以外に師事を受けたいと言うなら、ペイネと言う新興の町がある。 王家に伝があるから紹介してやろう。 レジャンドもそこにいるしな。」
ルーケは敗北した事にため息をつくと、アラムに向き直ってシッカリと目を見据えた。
「正直、俺はレジャンドがどれだけ強いか知らないんで何とも言えないんですが。 お願いします。」
「・・・そうか。 俺が一応認めた勇者達の国だ。 腕を磨くのに丁度いいだろう。」
「ええ。 よろしくお願いします、師匠。 俺はまだまだ色々知りたいし、強くなりたい。 そのためには師とする相手は人間では駄目なんです。」
「あん? 結局そっちかよ。」
「前にも言いましたが、俺は自分の手で世界を平和に導きたいんです。 そのためには生半可な師では成し得ません。 お願いします師匠。 俺を、英雄にして下さい。」
英雄に成れるか成れないか、それは誰にも分らない。
どんなに力があっても、運が無ければ英雄どころか雑魚で終わる。
「正直、俺はお前を英雄に出来るとは断言できん。 手に入れた力の使い方次第で、お前の英雄に成れる可能性が増すだけだ。 正直言って、今のお前でも英雄に成れる可能性はゼロでは無い。 ようは何を成し得るかだからな。」
「その何かを成し得るためにも力が欲しい。 俺が求めるのは世界の平和。 誰もが心の底から笑って暮らせる、そんな平和な世界。 誰かから奪うのが当然なんて世界、俺は認めたくない。 認めちゃいけない。 そう、思っています。」
「・・・いいだろう。 お前の覚悟、受け取った。 プリン、お前はもう、ここに来なくていい。 それと、そろそろ別の町に移れ。 館の管理人に伝えれば、資金は用意してくれるだろう。」
「はいですの。」
プリンはそう答えると、ニコッと笑ってから歩いて部屋を出て行った。
異空間では、通常のテレポートの魔法が使えないためだ。
「町を移るって・・・?」
「あいつにはあいつの事情があるんだよ。 さて、お前を鍛えるには、ハッキリ言って常人の寿命では成し得ない。 時間が足りな過ぎるからな。」
「え? じゃあ、どうするの? 寿命を延ばすとか?」
「それじゃ、お前が望む今の世を正せないだろうが。 時間を止めるんだ。」
「じじじ時間を止めるぅ!?」
「そうだ。 正確にはこの異空間を通常の時間の流れから切り離し、固定する。 そうする事で、この作られた空間にいる間、お前は年を取らなくなるが、行動は自由にできる事に成る。」
「ほえぇ・・・。」
「お前の才能は、剣は人並み、魔力は最低、知能はちょっと高い程度だ。 人並みの才能で人並み以上にするには、短い時間に濃厚な経験を積まねばならんが、普通は乗り越えられずに死ぬ。 それより得る時間を増やした方が安全だし早いからな。」
そう言いながら通路に出て、食堂と繋がっていた場所に扉を出現させる。
「これでよしっと。 言っておくが、勝手に出るなよ。 どうなるか分からんからな。 さて、早速始めよう。 まずは・・・」
ルーケはこうして、始原の悪魔という、世界最強の師を得て、修行に励む事になった。
西の王国の遥か海を渡った西側に、そこそこの規模の島国がある。
その島国は独特の文明を育んでいたが、西の王国と細々とではあったが貿易をしていた。
この国は魔王の脅威に晒される事も無く、平和に過ごしていた。
そんな国に、アクティースは住んでいた。
アクティースは街々を渡り歩き、酒を飲み歩くのが趣味であった。
ある時、アクティースは港にある酒場に入った途端、この国では見かけない衣装を着た男が、この国の商人風の男と話しをしているのが目についた。
アクティースは耳が良いので、ちょっと離れた席に座り、酒を注文してから商人達の話に耳を傾けた。
異国の男に興味が湧いたからだ。
「へぇ。 西の王国も面白いのがいるなぁ。」
「まあ、実際見た事があると言う奴は少ないけどな。 伝説の話を聞く分には、黒竜は暴れ者の魔竜らしいし、実際に・・・」
(黒竜? それは本当か?)
「こっちには銀竜がいるって伝説があるけど、こっちも見たと言う者は少ない。 ま、伝説は伝説って事じゃないか?」
「まあ、伝説と言えば、魔王が生きていると言う奴もいるしな。」
二人は竜と言う話のネタから、やがて神話の事へと移り変わった。
(黒竜が隣の大陸にいる・・・?)
確かに眉唾な話ではあるのだが・・・アクティースはそれでも、確認しに行きたくなった。
三人の娘が、並んで川で洗濯をしていた。
まっ白い短衣に赤い膝丈のスカートという、この島国でも独特の衣装は巫女の証。
三人は水神に仕える巫女であり、人里離れた山の中で暮らしていた。
三人に共通するのは、美人でスマートなスタイルであると言う事。
20代半ばの娘メレンダ、丁度二十歳のクーナ、成人したてのルパ。
年代はそれぞれ、個人の好みで別れる部分はあるが、美人と断言出来る美しさが三人にはあった。
それは神秘的な美しさと言っても過言ではあるまい。
天女巫女と、噂をする人もいるほどだ。
三人は洗濯を済ますと、干してから神殿の掃除に取り掛かった。
そんな時にアクティースが帰って来た。
「クーナ!」
「あら、アクティース様、お帰りなさいませ。 どうしたのですか? 慌てているようですが・・・?」
「ネグロがこの世界に来ておると言う噂なのじゃ! ちょっと隣の大陸へ行って来るゆえ、不在するぞ!」
「分かりました。 お気を付け下さいませ。」
「メレンダ、ルパも後を頼むぞ!」
そう言うと、アクティースは巨大な銀竜に成って、答えも待たずに飛んで行った。
名前のように、光線のような速さであった。
「あ〜あ、ま〜たアクティース様いない〜。」
ルパがそう言うと、メレンダもウンウンと頷き、
「落ち着いて居て欲しいよね〜。」
「二人とも、そんな事を言うものではありませんよ。 さぁ、掃除を続けましょう。」
「「は〜い。」」
渋々と、二人はクーナに指示されて掃除を再開する。
見た目は年齢の違う三人だが、リーダーはクーナであった。
実質、最年長である故に。




