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愚者の舞い 15

 不老不死って、そんなゾンビみたいな。

そうは思うが、チムニのような魔法使いを標準として考えると、確かに遥かな化け物ではあった。

ルーケの知る魔物は先日のゴブリンしかいないが、人間のベテラン戦士に匹敵するとモリオン自身が説明したゴブリンキングでさえ、モリオンは容易く倒していた。

そもそも魔法の事は良く知らないが、呪文も唱えないで行使出来るものなのだろうか。

考えれば考えるほど、不可思議で理解不能な存在である。

そんな自分自身の考えに没頭し始めたルーケを、マスターは好ましげにしばし眺めてから宿に戻ろうと戸をあけた瞬間。

「あ、マスター! そこにいたのか!!」

と、誰かの声が聞こえ、ルーケも現実に引き戻された。

「慌ててどうした? まるでアィマィミィマィンが出たみたいじゃ」

「そうだよ!」

マスターが冗談半分で言った言葉を遮っての答えはそれだった。

マスターは驚愕に一瞬動きが止まり、ルーケはキョトンとする。

「どこにだ!?」

「幸い隣町だが、かなりの被害らしい。 一応情報として伝えておくぜ。」

ルーケは何が何だか分からぬまま、その男を見ようとしてマスターに阻まれる。

「? 誰かいるのか?」

「ああ、若造がな。 情報ありがとう。 ギルドマスターにそう伝えてくれ。」

「わかった。」

声はそう答えると、それっきり気配を感じなくなり、呆れた顔でマスターはルーケを振り返って、問答無用で厨房に引っ張り込んで戸を閉めてから。

「危なかったなお前。」

「え?? 何が??」

「今のはシーフギルドの連絡員だ。 それも秘密裏に行動する・・・な。 不用意に顔を見ていたら、お前、アサッシンに数日以内に消されていたぞ。」

ルーケは最初こそキョトンとしていたが、その言葉の意味を理解するにつれて青ざめる。

「・・・マ・・・マジ?」

「いいか、アィマィミィマィンってのは国の命運を左右するような魔物だ。 詳しい話は言うだけ無駄だから、あとで仲間を持った時に魔術師にでも聞け。 とにかく、そういう重要な情報だから、それだけ重要な伝令を任せられるような人物が来る。 顔を見られてはまずいような、な。」

「ちょちょちょ、ちょっと待ってくれ。 なんでそんな重要な情報を一介の宿屋の主人に伝えに来るんだ??」

「ここが冒険者の宿だからだよ。 隣町が大損害を受ければ、冒険者には仕事口が溢れると言う事だ。 町の警護に復興に、物資運搬などもある。 だから人数をかき集めなけっればならん。 隣国に支援を求めれば恩を売られて外交上不利になるが、冒険者をかき集めて雇う分には自国の政策範囲だからな。 まあ、こっちに話が来ると言う事は、余程の被害が出たと見て間違いあるまい。」

「へぇ・・・。 なんか、他人の不幸に付け込むみたいでやだなぁ。」

「あのな、魔物と言う泣きっ面に蜂状態がなけりゃ、冒険者なんて本当に雑用しかない何でも屋だぞ。 それに冒険者や商人に話を持っていけば、復興も助かるというもんだ。」

「なんで?」

「王家より先に話を知る事が出来れば、それだけ商品や物資を運び込んで儲ける事が出来るから、商人は我先に出発するし、その護衛を雇いにも来るだろう。 だが、王家が知ってしまえば物資の搬出自体を制限されるからな。 勝手な事をされると、相手に恩を売れなくなるから。 国同士の関係は常にドライさ。 困った相手にはトコトン弱みを攻めるのがなんでも基本でもあるしな。 さて、俺も忙しくなるわ。」

そう言うと、マスターはいそいそと宿を出て行った。

後に残されたルーケは複雑な顔をしながら、再び素振りを再開するべく外へ出て行った。


 素振りもやるだけやって暇になったルーケは、2階に借りた自分の部屋でゴロゴロしていたが、それにも飽きて1階に下りて来た。

ついさっきまで護衛を雇いに来ていた商人風の男やそれを受けようとする冒険者など、大賑わいだったのが嘘のように静かであり、マスターも含めて誰もいない。

話し相手もいなければ食事などの注文相手もいないので、外をふら付く事にした。

町の中はいつもと何も変わりが無く、あの話が嘘だったようにも感じる。

だが良く見れば、町中にチラホラ見かける筈の皮鎧などを着た冒険者風の人影がまったくない。

ルーケはため息をつきつつ、昨日少女を預けた孤児院へ足を向けた。

本当はルーケも護衛として雇われ、行きたかった。

だが、仲間もいない、未熟な新米戦士を雇いたがる者好きはいない。

どこかに入れて貰って行きたくとも、パーティは熟練になればなるほど他の力を必要としないし、逆に邪魔になる。

今の構成で連携が取れているのに、不安定な要素を入れたがる筈も無い。

下手すれば、新たに加えた新人のために足を引っ張られて全滅と言う可能性も少なからずあるため、普通はある程度実力を見て役割を定めるのだが、この緊急事態にそんな余裕がある筈もない。

町の外は魔物の跋扈する天外魔境なのだ。

町の外に出ると言う事は命がけの行為であり、それを新米の戦士に託し任せるなんて死にに行くのと同義語で、金を払う価値も無い。

そんな情勢下のためかパーティを組めるような人が集まって来る事も無く、こうしてルーケは取り残されたのである。

孤児院へ足を向けたのはただの暇潰しであり、一応助けた少女が気になったからだ。

それに、昨晩聞いた話も気になっていた。

「プレシャス商事? ああ、あの胡散臭いところか。」

一人残って酒を飲んでいたルーケの下に、旅の商人と名乗った中年の男はルーケに同席を求め、話の最中なんとなくで名前を出した瞬間そう言い切ったのだ。

「胡散臭い??」

「ああ。 鍋から武器から子供まで、金さえあればなんでも仕入れると噂だよ。」

一応ライヒは人身売買も奴隷の存在も認めてはいないが、特に強く取り締まっているわけでもない。

金持ちの家には普通に奴隷が働いており、年齢が上がれば上がるほど安く売り買いされているのが現状だ。

また、王家も多額の税金を納めている金持ちを強く取り締まる気も無いので見て見ぬ振りなのだ。

もっとも、まともな商人はそもそも人身売買に手を染める事は無く、その手の事を統括しているのはシーフギルドだ。

そしてこの時代、商店と言う物売り専門の店自体が存在していない。

普通は買い物をする時、王家に指定された特定の場所、市場で買うのだが、野菜は農家が、鍋などの金物は鍛冶屋が、と、言うように、持ち寄っての青空市場が普通だし、商人は家こそ町中に特定の屋敷を構えているが、普段は他の街へ買い出しに行き、持ち帰って売る行商人である。

遠くの特産品を安く仕入れて持ち帰り売れば、当然手に入り難い物なので高値になる。

命がけだからこそ儲かり金持ちに成れる。

この辺は冒険者とあまり変わらないかもしれない。

また、特定の地域限定での販売なので、王家が税金の徴収をしやすく、また、取り締まりもしやすい。

また、武器は反乱防止のために許可が必要で、普通は仕入れる事自体違法だ。

そんな胡散臭い噂の立つ商会が経営している孤児院に入れられた少女であったため、なんとなく気になったのだが・・・来て見て驚いた。

モリオンが例の少女と仲良く遊んでいたからだ。

ルーケは声を掛けようかどうしようか暫し迷ったが、結局やめた。

掛けるべき言葉を思い浮かばなかったからだ。

少女を助けたのは自分ではなく、ただ抱き抱えて運んだだけだし、そもそも会話さえろくにしていない。

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