愚者の舞い 14
ルーケはモリオンと向かい合うように座って、酒を飲んでいた。
一応依頼達成のお祝いで、今回ルーケは無報酬だったためモリオンのおごりだ。
だが、ルーケはとても祝って喜ぶ気になれなかった。
あの後、モリオンは冒険者の宿に任務達成とアルカの処分、そして少女を保護した事を伝え、報酬を貰った。
その後、プレシャス商会が経営している孤児院に少女を預け、両親の遺体を埋葬しようと手筈を整えてから、平然とした顔であの洞窟に遺体を取りに戻った。
後で考えれば、完璧に見えるモリオンも激怒していたためうっかり忘れていたのだろう。
そうでなければ、いくら布で覆っていたとは言っても、嗅覚の鋭い獣に遺体が食べられる可能性がある事を忘れる筈がないからだ。
つまり、アルカの非道に対し、それだけ怒っていたと言う事だ。
幸い、サーバント共々無事に回収し帰って来たが。
埋葬後、ルーケはどうしても気になったので、襲撃されたという馬車を見に行った。
既に馬車は騎士が町中に運んで来ており、遺体は埋葬されていたが遺体を見なくても、あの日襲撃された馬車であった事は間違いが無かった。
モリオンに頼んで生き返らせたのは間違いだったのか?
あのまま死なせておけば、二度も魔物に襲われる恐怖と死の苦痛を味わう事は無かった。
後悔と無念の中、ルーケは依頼達成を祝えないでいたのだ。
「そんなに落ち込むな。 酒がまずくなる。」
眉根を寄せたモリオンに言われ、一旦顔を上げるが・・・また項垂れる。
「・・・だけど・・・俺のした事は・・・。」
「お前がした事ではないがな。 人には、いや、生きる物全てには命運と言うものがある。 これは運命とも言われるが、ちょっと違う。」
「・・・? どう違うんだ?」
「運命は不安定な、その時々に選択肢が存在する、生まれ持ってきた歩むべき道みたいなもんだ。 たとえばあのゴブリンキングと戦う事をお前は選んだが、あの時引き返して冒険者の宿に報告すると言う選択肢もあった。 その場合、報酬は得られないが依頼ミスでお前の非にはならん。 しかしその場合、俺と共にゴブリンの巣へ行く事も無かったし、赤の他人で終わっていただろう。 命運とは言わば寿命みたいなものでな。 どうやっても変えられない。 あの馬車に乗っていた連中は、あの日、あの時が命運の尽きる時だったんだろう。 一見お前の選択は無駄なように見えるが、俺としては褒めてやるよ。」
「そんな・・・。」
「命運はどんな存在にも必ず存在する。 神と呼ばれる連中にもな。 永遠に寿命があると言っても自然死が無いと言うだけで、首を切れば死ぬし、自殺だってできる。 死なないのは不死の存在だけだ。 お前の選択は正直、無鉄砲ではあったがその結果が今の状態だ。 俺と共に依頼を完遂し、アルカのような無法者冒険者の存在も知る事が出来た。 また、仲間の重要性と己の力量など、あのまま逃げ帰っていては得られなかった経験と知識を得る事も出来た。 それで良しとしな。」
「でも・・・俺は何も出来なかったじゃないか。 ただ、あんたの足手纏いになって、あの子を抱いて連れて来ただけだ。 俺は・・・無力だ。」
「それが理解できただけでも最大の成果だろ。 いいか、誰でも最初は初心者なんだ。 最初からベテランなんて奴は存在しない。 現在の己を知り、強く成ろうと努力して力を身に付けて行くんだ。 ま、今日は好きなだけ飲んで寝ちまいな。 勘定は俺が持ってやる。 明日からは仲間を集い、ちゃんとした冒険者を目指しな。 じゃあな。」
「え? どこへ??」
「家へ帰る。」
そう言うと戸惑うルーケを残して、モリオンは冒険者の宿を出て行ってしまった。
残されたルーケは、暫し酒の満たされた杯を見つめていたが、思い切って飲み干すとダンとテーブルに叩きつけ、決意を新たにした。
(俺は強くなる。 モリオンのように、自分の信念を貫けるように、強く!)
「こら若造!」
「はい??」
振り返ると、マスターが物凄い形相でルーケを睨んでいた。
「杯が壊れる。」
「すすすすいません!」
翌朝、二日酔いの頭痛を切り捨てるように、ルーケは宿の裏庭で剣を振っていた。
昨晩は誰も冒険者は泊まっていなかったのか、はたまた素振りなんてするのは駆け出しくらいなのか、裏庭にいるのはルーケだけだった。
いつもの日課分をこなしつつ、ルーケの心は剣に宿る事は無く、ただ、本当に振ってるだけのお粗末なもの。
それと言うのも、強くなりたいと言う願望が今まで以上に湧き上がっては来たが、どうすれば強くなれるのか、具体的に思い浮かばないからであった。
日課である素振りを毎日冒険者に成ろうと決意して以降、欠かした事はない。
それでもゴブリンと対等程度にしか成れていなかった。
アルカ程ではないが、自分はもっと強いと思っていたのだ。
それがあの様である。
素振りだけでは限界があり、もっと強くなるにはもっと別の方法を考えなければならない。
しかし、一人で出来る事など・・・。
「へったくそだなぁ、お前。 なんだ、その剣の振り方は。」
なにっとムカついて振り返ると、宿の親父がゴミを出しに出て来たところだった。
「なんだその眼は? 俺だって昔は冒険者だったんだ。 そのくらい見りゃわかる。 心が剣に宿ってないくらいの事はな。 何を悩んでいるんだ?」
「冒険者だったって・・・マスターが?」
「そうだよ。 もっとも、仲間内で結婚する奴が出て、引退しちまったからな。 俺達も一緒に引退して、俺はこうやって後方支援に回る事にしたのさ。」
なるほど、と、ルーケは納得した。
やけに鍛え抜かれたような体格をしていると思っていたのだ。
「冒険者は男女関係なく、仲間になれば一緒に行動する。 相手の性別を意識したりすると、信頼関係が揺らいだりしてチームワークがガタガタになり、時にそれは致命的になる。 仲間は仲間、男女の性別として気を使わなけりゃならん時もあるが、そう言う時以外は意識してたら話にならんからな。 ましてや、駆け出しの頃なんて一緒の部屋に泊まったりするんだ。 経費節約のためにな。」
「へぇ・・・。そんな事、考えた事も無かったなぁ。」
「まだまだヒヨッコのお前が、そこまで気をまわしてたらそれこそ八方塞だろう。 まずはお前の出来る役割を磨き上げる事だな。 戦士はパーティにおいて、何を成す?」
「戦士の役割・・・。 敵に直接攻撃する事?」
「そりゃそうだ。 剣持ってんだから。 だがそれ以上に、後方で魔法を唱えるサポートが安全に魔法を行使できるように壁になる必要もある。 だから戦士は分厚く重い鎧を着るんだ。 魔法使いは重い鎧を着れんからな。 魔法を唱えるのに邪魔になるから。」
「へぇ? そういやモリオン・・・鎧着てたのかな。」
昨日見たモリオンは普通の短衣しか着ていなかったように思えるが、中に何か鎧を着ていたのかも知れない。
「あの人は特別だから参考にしない方がいいぞ。」
「え? どうして??」
「どうしてって、一緒に行動しててその特異さに気が付かんかったのか? 呪文も唱えないで上級魔法を使ったりするし、魔導師なのに接近戦も得意だ。 何百年生きりゃあの領域に至れるのか、俺は想像もつかん。」
「そうなんだけど・・・上達すればあの領域に成れるもんだと思ってた。」
「馬鹿言うな。 噂じゃ賢者の一族であるアラム族の一人と言う話も聞くが、俺は案外本当の事なんじゃないかと思うよ。」
「アラム一族?」
「ああそうだ。 ファレーズのどこかに住むと言われる賢者の一族だ。 人間でありながら神に教えを請い、独自に魔法を発展させた一族と言う噂だ。 モリオンと言う冒険者は何百年も前から名前を聞くから、何代目モリオンとか本当は言うのかも知れんし、たった一人の、それこそ不老不死になった人間なのかもしれん。 所詮噂だが、火の無い所に煙は立たないからな。 案外本当の事なのかも知れんぞ。」




