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愚者の舞い 13

 「精霊壁(スピリットウォール)!!」

モリオンが左手を突き出し轟音に負けないほどの大声でそう言った瞬間、通路を塞ぐように輝く半透明な壁が出現し、その壁の向こうを土煙が塞いだ。

「ななななにが!?」

動揺するルーケに構わず、彼の抱いている少女に、

「大丈夫。 すぐに出られるからね。」

「・・・本気でロリコグッ。」

しっかり左手指先で胸元を摘まんで後ろに倒れないようにしてから、スパンと正拳突きを叩き込む。

「フヌオォ・・・。」

少女を抱えながら器用に悶絶するルーケを無視して、精霊の壁を構築したちょと手前の壁面に右手を着くと、

「大地の精霊よ、我が道を作り出せ。」

ズズズズ・・・と、その途端、ポッカリと空洞が開く。

「・・・あんた、黒魔法使い・・・だよな?」

「いや? 白も精霊も使えるよ。」

「それ、魔法使いじゃなくて魔導師・・・。」

「系統がなんであれ、魔法使う事に違いはないんだからいいだろ。 男が細かい事気にしてんじゃない。」

「細かいか!?」

「魔法使うから魔法使い。 間違いじゃないだろ?」

「・・・それもそうか。」

「さて、距離的にあと2回か。 おい阿呆。」

「あ〜の〜な〜。」

「いいか、次に穴を空けた行き止まり。 そこでその子と待機していろ。 いいな?」

「いいけど・・・なにすんだ?」

「これ以上その子に悲惨な物を見せたくない。 それだけだ。」

思わずルーケは、アルカに同情した。


 完全に崩れてしまった洞窟の入口を見つめ、チムニとベラは何とも言いようのない表情で佇むしかなかった。

アルカの暴走を止められなかった後悔もある。

そもそも、爆薬を持って行くように進言したのはチムニだった。

ゴブリン退治は、一番初級の冒険(クエスト)に分類されるほど簡単な部類ではある。

しかし、今回のようにキングやシャーマンなどいる場合、中級となる。

また、同じ中級でもオーガーが家畜としてゴブリンを飼っていて、発見されたのはゴブリンだったのでゴブリン退治を依頼されたが、巣に乗り込んだらオーガーが出て来ちゃいました、なんて事もある。

その場合、手に負えないから逃げ帰っても冒険者の落ち度にはならない。

そもそも依頼が間違っていたと言う事になるからだ。

だが、ただ逃げ帰りましたでは信用を失うので、次の冒険者を雇う期間などを考慮し、それなりに時間稼ぎか防衛手段を施して来なければならない。

そういった場合に備え、チムニは万が一手に負えない物がいた場合は洞窟の閉鎖を提案し、そのために爆薬を持参する事を進言したのだ。

まあ、確かに彼らの手に負えない化け物は洞窟内に閉じ込めたが・・・。

「なんて面してんだ? チムニ、ベラ。 依頼は完遂した。 帰るぞ。」

「しかしこれは・・・やりすぎだろう・・・。」

「そうよ・・・。」

「なにがだ? ゴブリンの巣を殲滅し、万が一生き残っている奴がいてもこれで出て来れまい? それに次の魔物が巣にする予防にもなる。 完璧じゃないか。」

「しかし人を・・・ヒッ。」

チムニは思わず息をのみ、言葉を失う。

喉元に突き付けられた剣と、アルカの眼光によって。

「ここには、ゴブリンしか、いなかったんだ。 哀れな親子の犠牲者は遺体でいたがな。 いいな? ゴブリンしかこの洞窟にはいなかったんだ。」

狂気を含んだアルカの眼差しに、チムニもベラも、何も言えなかった。

「言い訳はそれで終わりかい。 坊や。」

「なに!?」

アルカが慌てて振り返ると、埋もれた洞窟のすぐ脇に穴がポッカリと開き、静かな眼差しでモリオンが立っていた。

「ば・・・馬鹿な・・・!!」

「ちょいとおいたが過ぎたな坊や。 それに喧嘩を売った相手も悪すぎだ。」

「おい・・・おいチムニ! 黒魔法にこんな・・・こんな魔法があったか!?」

「いや・・・あれは・・・。」

「喧嘩を売る相手を見定める事も出来ん坊やだから一回は見逃してやった。 だが、悪ふざけが過ぎたな。」

「ふざけ」

「てるのはお前だ。」

スッとアルカとの距離を一瞬で詰めてその口を右手でガッシリと握って塞ぎ、剣を持っていた肩口を左手で無造作に掴み。

「ゴギャアァァ!!!!」

解放すると同時に激痛にのた打ち回るアルカの傍に、もぎ取ったばかりの右腕を放り捨て。

「お前は過ちを犯しすぎた。」

ズンッと、地響きしそうな勢いで、モリオンはアルカの左太ももを踏み千切る。

「すでに更生も不可能なほど」

更に、右足も。

「道を踏み外した。」

「ガアアァァ!!!!」

そして、左腕も。

(けもの)に堕ちた奴には、それなりの死がお似合いだ。」

四肢を失いもがくアルカに背を向けると、モリオンはチムニとベラを睨み据えた。

「お前達はどうする。 まだ抵抗するか?」

「ととととんでもない!」

ベラに至っては恐怖のあまり、声も出ずに首と手をガクガクと振るだけだ。

「では、冒険者心得第7条により処分した。 依存が無ければ、そうお前達の宿に帰って伝えるがいい。 いいな?」

そう言った瞬間、アルカを魔法陣が取り囲み、火炎が吹き出し蒸発させる。

金属製の鎧でさえ、跡形も残らなかった。

へたり込む二人を後に残し、モリオンはルーケ達の元へ戻ると、

「さて、町に戻ろう。 ちゃんとその子を抱いていろよ。」

ルーケが疑問符を浮かべんばかりの顔をするのも構わず、モリオンはルーケの肩に手を置いた。

次の瞬間には視界が変わり、そこはライヒの外柵門前だった。

「「「!?」」」

門を守っていた騎士達は咄嗟に槍を構え、ルーケと少女は目をパチクリとさせる。

「お疲れ様です。 冒険者のモリオンです。」

そう言われて年配の騎士が、モリオンの顔をマジマジと見て、

「お? おお、モリオン殿か。 あんな事があったばかりだから魔物かと思ったよ。」

「あんな事?」

「いや、昨晩らしいが、森を出てすぐの所で馬車が魔物に襲われてな。 幼い子供二人と御者、護衛が一人、遺体で見つかったんだよ。」

「!?」

愕然としたルーケが思わず少女を取り落としそうになり、いち早く気が付いたモリオンが素早く抱きとめる。

「どうかしたかい??」

「いえ、ちょっと若者には刺激の強いお話だったようです。 ほら、行くぞ。」

モリオンは有無を言わさず、ルーケを引いて街へと向かった。

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